わたしが主語から消えた時



奴隷の月日は終わります

シフォンケーキの柔らかいこと

空き家だらけの街の歯触り

院内から見た陽射し

ぼくの名が呼ばれるまで

透き通っていた光

すすきは風の絵筆だと

想う暇なき青信号

重機の免許を集めようとした季節
は遠のいた

遠のいた

ぼくが知らない
父親の
日帰り手術
鈴の音

雑巾絞りしたような
幹が木陰を作り出す


家族三人散歩に来た

暗い部屋で

冷蔵庫を開けカルピスを飲む
冷蔵庫の光を飲んでるみたいだ

ペンギンが好きだという友人が
よく電話をかけてくる


秋

音楽

歌声と叫び声の狭間に住むあなた
に
逢う

月光は故郷への道タオル干す

散る花の裏も表も死にたてで

ベランダで春雨に指揮していたの

何度でも人に生まれて冬銀河

きしきしと
夜を鳴くキャベツ刻み飽き

足畳む吾の
ユニットバスに寒明ける

新入生のスーツの肩に花の雨

街灯に照らされ牡丹雪となる

上向くといつも雪片右回り

祈るように望まぬように
　　　　　　　　　　こすもすは

だぼだぼのたましいを着て
凧あげる

首吊りの影のびてゆく春の暮

早逝の一族
春の野を過ぎる

遠足にコウテイペンギンはいない

死にたての小鳥の
ようなホッカイロ

うららかに帰宅部の列ながくなる

団地というさみしい楽器春の宵

あるだけの鈴を抱えて春の海

冬の鹿役の
子がとおくを見てる

水瓶にしずむ譜面よ笹井の忌

大丈夫じゃない時の
言葉は、
何か温かい飲み物を
ください。

内側からも
外側からも
同時に傷つく。
それは麻婆豆腐のせいじゃない。

冬
分母が孤独なら
分子は存在するもの全て。

小鳥と目が合った
ただ生きようと
お互い何も言わずに
再確認した

かぼちゃを食べても
私の夜は永遠に続く

雨の音で
心の赤い所がオレンジになり
夕焼けにはなれない夕焼けを
作った

救急車が白い花に見えた
自分の眼を疑った

私の眼は正しかった

天使は自ずと
この星を去る

まるで初めから
存在してないように

熊に気をつけて。

私は人間にひどいことされた

行きの電車は
希望に向かってるようで
私には恐ろしく思えてしまう

世界とは
ロープでも
おさらばできるが
ただカーテンを閉める
という手もある

木が
林になり
森になるグラデーションの
奥地に
闇の起源がある

地球儀は
すこし傾いている
真実はすこしだけ
嘘くさいものだ

事実
言葉はすべて当て字で
文章はすべて引用で
できている

いまどきの鬼なら
桃太郎を銃刀法違反で訴え
その家来たちは
保健所に突き出す

恐竜がすでに
絶滅していて良かった

人間もいつか
そう思われるのだろうか

家と学校や会社
以外の場所が
実は地球の
九十九パーセント
なんだぜ

思い出や記憶は
必ずしも
ノンフィクションや
ドキュメンタリー
ではない

そりゃあ
不死鳥だって
大量発生したら
駆除されるよ
きっと

見えないものは
信じてもらえない
才能も
現像して初めて
認められるのだ

水仙が咲いて芭蕉が旅へゆく

冬の星かくれて
誰か居る夜道

レポートを出して駅まで歩く夜の
おそらくあれは二つめの月

ショベルカー項垂れたまま
年を越す

ドガの画集に落書きをした
男子たちを秋の端まで
おいつめる

しあわせの原義墓石と蝶と空

ありよりのありの俺たち花火降る

紫陽花の裡まで身投げの血が届く

タチアオイ
猫が轢かれた方を向く

レモン水
兄がときおり自慰をして

ピンで街を
刺さないと留められない地図

内臓を想像できないまま死ぬ

燃やすための国旗
ほとんど二色刷り

もとからの孤独
言葉は誤読も愛す

辞書めくる手つきだ
どこかにあると信じる

そこからが君でここから海らしい

オーダーメイドの夜に
署名するためのペン

くるぶしまでしか
海を知らない

振り返って
こっちが前だって言ってほしい

打ち上げられて
まだ透明な
海月たち

友達の友達が羊飼いという
君の口笛　すっとんきょうな

とびら、って言うとき動く肋骨の

どこまでが夏の入り口

嘘を吐き難くて秋の水飲んだ

嫌われているから天の川でした

百均の皿割りまくる夏の果

泉まで歩いてまぼろしと分かる

車窓から月光漏れて
半ページ分だけ明るくなった小説

シャボン玉なら
割ったのに地球かよ

胸に碇
そこをはるかな海として
出港しないまま朽ちる船

青葉闇あなたがわたしに触れるときわたしに落ちてくるいくつもの

主文俺を死刑に処す青鷹

死に顔が俺に似ていて冬雲雀

三寒四温子の骨しかない墓

病院しか知らない
五年の命終えて雪

流星群ひたすら土下座する俺に

雪しづり
祖父の愛したZippoの火

秒針と心音と溶けゆく雪と

夜の雪に俺には兄がいたと知る

子の骨は軽くて紋黄蝶は飛ぶ

定刻の便で発ちます冬の虹

街の奥に夕焼け
叶わなかった夢ばかり
思い出してる
カレーの匂い

冬空にその身晒せば
「あ、これがさみしさ」
名前のわからない鳥

誰のための鎮魂歌だろう
降る雪は
あまりに白く骨の色して

霜降りて
命途切れる一瞬の
輝きだろう
菊花煌めく

ジムノペティ脳内再生する
母の遺影を抱けば銀細工　冷たい

葉の枯れる香り
わずかにあるような
冬は寂しい顔をしてみる

タピオカの
最後に二つ残されて
捨てられるまで世界見つめる

夕焼けの
校舎はアクロポリスめき
相談室を足早に出る

水蜜桃
傷付きやすい魂に
触れるかのように
丸ごと囓る

虹
形而上に触れたい試験あと