朧夜の黒子が動き出しそうに

春眠の氷砂糖の芯濁る

水筒の氷鳴る坂若葉風

蛇口には星の通った跡紫陽花

紫陽花と名付けるために犬を飼う

夕立を見る心臓のやわらかさ

虹消えて眼の中にある水分

雨漏りの溜まる花瓶

神の旅

クレンジングバーム
ひんやり虫の闇

今朝の冬半透明の黄の付箋

漱ぐ　言葉貧しくして光れ

真昼間の柱時計を巻く仕事

貸ボートみな八月の湖のうえ

来世あるはず心に象を住まわせて

セプテンバー瞳のなかで混ぜる白

天文学は天の文学水絞る

空に鳶鉄条網に毛布干す

帯電の身体で泳ぐあおみどり

白浪の晴れてことばの日本海

一日を船はあおぞら梳る

カントリーマアムのない味を
言い合って言い尽くしてから
渚になった

ベランダのない部屋　あなたは
全てより一つがよくて両手で拭う

約束をしない小指で叩かれる
Back spaceキー
離島めいて

薄荷飴みたいな俯瞰を置いていく
たとえば運動会の砂場に

しあわせとしあわせそうな顔が
ずっと離ればなれで米だけ残す

リセッシュの消費量と同じくらい
の言葉をずっと飲み込んで立つ

あたらしい靴下を嗅ぐと
あたらしい匂い　春は鈍行で来る

ライターが映し出すわずかな海に
進路希望の用紙を放った

生きたくて生きているみたいな顔
でオレンジジュース渡してくれる

福耳、と君に言われてその日から
国語の成績が下がりはじめた

精神科のしろばらすこしきいろ

寒晴の少女コントラバス背負う

雪のこえ開いたままの解剖図

コンビニは常に明るい敗戦日

アイライン長し白鳥眠るに似て

踊り場で息継ぎをする
遠くに夏の海

月光にピアノの蓋を閉じ卒業

羊羹が肉片めいて漱石忌

骨肉を運ぶ終戦日の地下鉄

巻貝に聴く
未生の
吾子の
こえ

茄子を煮る夜になっても構わない

こっちこそ蛸を仲間にしてごめん

豚ばらにしろごまをふる以前以後

ここは森オートロックのはやい森

草原の独りをなぜ造ろうとする

きのうまで稲妻だったキリンたち

こいびとの胃に数百のしらすの目

愛されているのに翼が生えている

さん付けに戻してそそぐ烏龍茶

腕相撲にしては焦げ臭くないか

そうじゃない、ほうの
世界に行きたくて
小さなかかとを放りだす夜

まだたましいに
ならないところがかゆい

万華鏡よりは顕微鏡だったかな
はみ出すくらいに君だったんだ

せんせい、かぎかっこ
閉じたくないです
あとから痛むの知ってるんでしょ

ランダムに光るかなしみ
営みを、葬るなかれ
葬るなかれ。

わたしはわたしを遠ざけて
生きながらえた、鈴の音がする。

そらを担えよ。
身体なんて、
日常の輪郭。

君のまなざしにふれて
ブランコをする私の身体は
きちんと私を訪ねてくれる

羽化、
ひらがなのように
ほどけた
ひかりと生きて

夕立を私のなかに隠しもつ
いつか名を呼ぶ我が子のために

さよならは春の領域
遠のいていく
drippingで彩られた町

自己陶酔するメタファーに
食べさせてやる天牛

透明な
瓶に砂糖を入れ替える
身体表現は得意ではない

風鈴の内臓部分に満ちる闇

舌触りの良い言葉を並べれば
壊しても良い楽器

カサブランカまだ題名のない無題

人間は一番手軽な管楽器
鼻歌を聞きながら眠って

来るかもわからない
人を待っている
自らの蜜で開かない
芍薬をぬるま湯で拭く

私性の不在に打つ四拍子

人をまだ
諦めないでいる
油彩絵の具で汚す服

春の海一人のための降車ボタン

丁寧に軍手を干して海女の午後

蚕ふしふしふしと不死噛み砕く

「人類の敵」に人名麦の秋

梅雨入りを逃げて琥珀の中にいる

半夏生まばたきだって水の音

コスモスをくすぐりながら下校班

たくさんのミッフィーの口十二月

嫁入りは鯨に呑まれゆくように

晩冬の螺旋ばかりの試し書き