うれしいと
手のひらの芯かゆくなる
歌番組つけっぱで寝ていたい

きみがきみと
はぐれるまえに訪れた
雷の日の水族館よ

ハンドルに脚を乗っけて眠ってる
後輩が連れてきてくれた海

文体に謝られて目をそらす

底冷えの朝に弁当つくるとき
ご飯や鍋からぬくさをもらって

雪にぬれた道のような肌を抱く

のりしろで狭くなるわたし

街中の青をのこして夜明け前
始発ひとりで靴紐結ぶ

母をかつて
排した国の人々に
なりゆく我を
母は育てる

飛び出してくるのは
いつだって命

木漏れ陽も
消毒される
令和時代

ムクドリは透明を抱えながら飛ぶ

居心地の悪さを躾のせいにして
父に冷たくしている週末

六十年前の詩集の紙の香を
嗅ぎながら螺旋階段のぼる

好きなままで嫌いになった

ハンカチの
綺麗な刺繍の傷跡みたい

教会の鐘が遠くで鳴っている
みたいに
チューリップが咲いている

捨てられた傘が無数に積まれてる
放送禁止用語みたいに

卵割るときの力の入れ具合
子を叱るとき思い出すこと

おとうとの肩に
うっすら積もる雪をはらう
キッチンからはカレーの匂い

書き順を間違えている冬の海

割り算の寂しさに気づく女子高生

糸へんにどんな字書けば
美しくなるとあなたは
思うでしょうか

世界のどこかで戦争がはじまって
それでも僕は月曜がきらい

親族がみずうみの手を跳ね返す

列車内一人一人の大火

見知らぬ人と一生懸命
水槽の水が溢れないよう
連携したら
涙が止まってた

お遊戯会
星の兵隊さんのわたしは
火の粉のフリルに憧れて
剣を天に向けていた

曖昧な関係だった僕たちの
餃子が同じ皿で出てくる

梅干しを齧って
家族がいた気になる。

希望っていう字を
なぞるたびにある
若葉みたいにきらめく払い

美術部のきみは
りんごの手触りを
世界でいちばんきれいに話す

わふふ、って
笑うじいじの側にいて
春の陽射しにひたすくるぶし

びい玉をきつく握って
はじめての
保育園へと向かうおとうと

スクリーンショット
のような手軽さで
友はすき、って言葉をくばる

胸椎を
ばつんと手折るようにして
冬がわたしを抱き締めてくる

ソプラノが
りんりん伸びる教室の
隅からせまる日暮れのにおい

教室の窓を
藍へとぬりかえて
空がぐぅんと蹴伸びしている

家族ぶん並べておいた
おむすびに
ぱちぱちひかる塩のけっしょう

おだやかな暮らしの中で
あきらめた夢が
犬歯を尖らせている

噛み尽くすガムから
雨の味がして
吐いたまんまのかたちでひかる

まだ嘘もほんともなくて
おひるねの
園児へ割れるフウセンカズラ

千枚の窓を
わたしは持っていて
ときおりそれを割ったりもする

母を呼ぶ声で
仔犬が鳴いていて
ペットショップへうすぐらい風

低く　ひくく
花は湖面に近付いて
子を成すための器官のはなし

日曜のつづきが欲しい

ひかり差す海の色した
カーテン開けて

のらねこはすぴゃあと眠る

日だまりを
四肢のすみずみまで巡らせて

ぽほぽほと
傘をめざして落ちてくる
雪の羽音のような溶けかた

ぐじぐじになった
卵を引き上げて
キッチンの火は裏切らない火

海をわたる
鳥はひかりの群れとなり
国のさかいを触れずにまたぐ

やわらかいを
やらかい、と言ういもうとは
もいんもいんとマシュマロを揉む

友人が
引っ越した日の春雨は
古墳のようなしずけさで降る

花びらの
びら、の部分をつまみ上げ
きみは学者のようにうなづく

こわい夢全て忘れて
今日だけは

たんぽぽのぽを飛ばして遊ぶ

箱型の
こんなに狭いスタジオで、
私の何を証明するの。

みんなすき　カーテンの隙間から
見る家族のお花見くらいにはすき

きっと冬の夜にあなたに振られま
す　あなたのなかの湖を漕ぐ

この静けさに
慣れる時が来るのだろうか
サボテンがみしみし色づく

僕は　
　殴る
啄木は　
　改行する

落ちる月が
エンターキーを
押していく

うみうしは他の追随を許さない

椿　落ちる
椿があったところ
　の
空気

貴方には記憶という名の海があり
クマノミの住むとこが僕です

歌にして殺した空を飛んでいる
烏がなかなか着陸しない

赤色のこんぺいとうがひとつ
減る気がした兄の結婚報告

本屋さんみんな毛糸のゆびさきで
頁をめくり文字をまもった

死神になみだを拭う腕はなく
もれなく顔もやぶけてしまう

さえざえと鼻の奥へと流れ込む
冬の匂いに傷つけられる

耳たぶを縁取る朝に揺れながら
七つの海を越えようとした

真夜中はステージ４の僕たちに
唯一残った延命装置

世界から
水平線を引き抜けば
スコールみたいに落下する空

火のない世界を煙で満たす午後

まるい月にはまるい兎が
痩せた月には痩せた兎が
いると信じているあの子

長靴を
履く子の足音
闊歩闊歩

くたくたの虎が
千切れて泣いている
十一年と無限のさみしさ

誰もいない雪夜の舞台を
自販機が照らして
丸い
からっぽの冬

なあんにも声を出さない
田園の風景がある　そっと
もたれかかります

さっきまであんなにきれい
だったのに枯れた花火を
バケツに生ける

加湿機は狼煙をあげ続ける
部屋の隅で私に無視されながら

山下と話す田辺の声につく♯が
僕の失恋だった

涸れ川を歩く心地でものを言う

秒針が
動く度　今
重くなる
身体の中に
夜を引き込む

コンパスで
描いた円ほど
正確な
丸を誰かに
あげたい夜は

脇役の
ペーターにしか
なだめられない
子ヤギが居る

「ギザギザ」と
子が呼ぶモミジバフウの実
我が家を撫でる
やさしい音霊

かみさまには
自転車に乗れば会えていた
十三年前 あのあぜ道で

もう僕には合わない枕が
丁寧に置かれた布団
古里の正月

色々を砕くつもりでミル回し
そうして淹れた珈琲の静か

ひと呼吸
世界が鼻から入ってくる
坂道の上でずらしたマスク

「貰い物だけど
似合うと思うから」
私が選んだスカーフを
祖母がくれる

朝一のジーパンみたいな冷たさを
やり過ごしては夜になってく

正午の音楽
祖母の天ぷらがぱちぱち揚がる
居間の箪笥でお人形がわらう

みにとまと
つるんと湯むきするたびに
なにかを許していく夕方

浜辺のごみが持ち主の元へ帰る
というファンタジーホラー小説

踏みつけた弁当箱の感触を
忘れた彼の眩しい笑顔

こたえ探しに飽きた
ロールケーキのまんなかを刺す

あかねさす明朝体のラブレター
ウスムラサキの切手を舐める

薬局までの道のり
母のために出来ることは少ない

私というものを
誰よりもよろこんだ犬が
じきに死ぬ

愛が勝つ世界になら
負けてもいい

優しいと　言われるたびに
浮き上がる　胸の深部を
満たす暴力

誰しもが
ときに
宇宙のことを考えて
ときに
痒いところを我慢している

街灯の下から裸木を見る時
世界は木々の夢だって確信する

息の音だけの口笛吹いて
母は自分の機嫌を取る

透明のまつ毛
目に刺さり続けて
見えないけれど
いるんでしょ春

右から履く靴下を
左から履いて
いつもと同じ一日を
阻止する

たくましいってのは、
苦しさを抱えた魂の話さ。

美しい瞳だなんてそんなこと
３０枚入りワンコインです

寝室に忍び込み
母の呼吸を確かめる夜

剥き出しの電球は嚙む、
照らした人間の外殻を
ちょっぴり。

　街灯がちかちか夏の食べこぼし

　背もたれを
　倒していいですか五月

　午後すでに
　眠りこけてる春セーター

シャッターに身を切り取らせ
スクリーンに
タップひとつの心臓を得る

卒業式帰りの市バスいつもの席

　三角のてっぺんに
小さく丸を
　つけてみる

手のひらにのせた　
小さないのちに
はじめから
私たちが
見守られていた

冬晴の引っ張る力　腹が減る

石という石に顔ある冬夕焼

犬だけは勘付いている
ナンシーが
地球人ではなさそうなこと

副業で小豆を洗うことにしたと
座敷童はしずかに言った

自動販売機の下に
五百円玉
貰っても文句はないわな
下人の行方は誰も知らない

我らコロナチルドレン
進め！
密封殺菌された情熱と
一律接種した感性を胸に

疾走宣告から七年経ち
彼はとうとう音速を超えた

雪原に埋葬される笛の音

リボンみたく
「割れ物注意」のタグ付けた
音符が並ぶ　シューマンの譜に

明るいうちに目的地に
着きたい
あなたって暗くなると
月に吠えるからと妻

お互いに
会話にシールを
貼ってゆく
巻の終わりに
近づいている

はじめてのウソは3さい
「たまごがじぶんでわれたの」

左手に異なるひかり宿らせて
並行という永遠をゆく

砂浜の
読んではならない部分を歩く

風花に舌打ちを許されている

二階から
降りてくるこの足音は
まだ降る雪に気づいていない

きみがきみと
はぐれるまえに訪れた
雷の日の水族館よ

ハンドルに脚を乗っけて眠ってる
後輩が連れてきてくれた海

猪苗代湖水の色は何色ですか
それは今日の空の色です

底冷えの朝に弁当つくるとき
ご飯や鍋からぬくさをもらって

口喧嘩中に
お前の母ちゃんデベソと
息子に言った夫を
まだ許していません

街中の青をのこして夜明け前
始発ひとりで靴紐結ぶ

母をかつて
排した国の人々に
なりゆく我を
母は育てる

大寒の海までジャズを聴きにゆく

慢心ゆえ兄破産する絵双六

　　園児一列
　枯芝の
丘に
　たゆむ

りんごがすきか
みかんがすきか
そうきかれたら
ばなながすきと
こたえたくなる

そんなに降らなくても
よかったのに　雪

集団の
中学生に
うずもれて
大丈夫なよな
そうでないよな

千代紙の
鶴一羽きり
洋箪笥

いたらいたで
こまる
いなけりゃいないで
こまる
母

一葉を
おいかけおいぬき
犬あそぶ

ムクドリは透明を抱えながら飛ぶ

ほがらかに
黒いペンキを塗ってまわる

居心地の悪さを躾のせいにして
父に冷たくしている週末

瞬きの間の一瞬

永遠は夕暮れ時のブランコの空

白い雪が屋根で朝日を浴びている

お皿で溶けるバニラが綺麗

ひとりでも生きていける
と思ってた

古いお皿を重ねたりして

平穏な日常のひとコマ
ふいに　花瓶の水を流す切なさ

音の無い夜はさみしい

寝ることに覚悟がいる真冬の病室

教会の鐘が遠くで鳴っている
みたいに
チューリップが咲いている

しばらくはひとりでいたい春の風

各停の吊り革の冷たさが冬

色褪せたデニムのような空
澄んだ冬の密度が押し寄せてくる

重力を帯びて傾く冬の空

おとうとの肩に
うっすら積もる雪をはらう
キッチンからはカレーの匂い

君に聞かれてもいいように
口ずさむ
切ない片想いの流行歌

ひとひとり座れるだけの悲しみを
抱えてすわる人のいるバス

おひさまが混じった土に忍び寄る
春のスパイに出くわした午後

もう誰もいないリビング

孤独とは
コーヒーカップに注がれる夜

影のない言葉を話す人がいて
夜を一枚剥がしたような

街路樹に群れるムクドリ

きっと今
僕の知らない街で泣く君

てのひらのくぼみにのせた
明るさで
夜からこぼれたたましいを照らす

遮断機が降りる電車が通過する
まばゆいくらい不機嫌な空

トラックの荷台まるごと
薔薇だった
雨の首都高速の土曜日

惜しみなく過ぎる毎日
子どもらは
悲しいときは躊躇せず泣く

あたらしく買った冷蔵庫のひかり
まぶしい朝の越して来た街

噴水が急にとまって
僕たちは視線の先を定められない

進路指導室ですんすん聞く説教

くしゃくしゃと洗うレタスの
音で朝

永遠に来ないあしたを待っている

さみしいごっこをしているぼくら

ああ夜よ
りんりんと降るこの雨よ
残響のように泣かないでくれ

私のでなくなった
白い歯を転がす
お疲れさま
立派でした

両の手をひらいて
受動喫煙を飲み下す
ラジオ体操みたいに

父が
自慢げに教えてくれた
絆創膏の貼り方
親指が
タコさんウィンナーに進化

見て見ぬふりをしているときだけ
そこに日常がある

大人の足跡ばかりの道で
どこを歩いても沈んでいく靴

蝋梅の匂いが
風に混じり来て
今日は母校に行ってみようか

美術部のきみは
りんごの手触りを
世界でいちばんきれいに話す

切りたての髪を
なんども撫でていく
風のいっぽんいっぽんが青

水切りの二人がはじく冬銀河

わふふ、って
笑うじいじの側にいて
春の陽射しにひたすくるぶし

びい玉をきつく握って
はじめての
保育園へと向かうおとうと

ざらめ雪みたいな
舌をうごかして
猫はミルクのましろを舐める

春になるまでの
きれいな沈黙として
かみさまが雪を置く朝

ママチャリをかしょん、
かしょんと漕ぐ主婦の
影のすべてに伸びる長ネギ

どこまでが
君であるかをたしかめて
ボアブルゾンの背中にふれる

せんせいが
秘密をひらく顔をして
標本室のクジャクヤママユ

うなづきを返されながら
からっぽの志望動機を
はきはき話す

祈りとは一種の依存
陽に近い人から
影が濃くなってゆく

ソプラノが
りんりん伸びる教室の
隅からせまる日暮れのにおい

教室の窓を
藍へとぬりかえて
空がぐぅんと蹴伸びしている

王冠のかたちでひらくチンゲン菜

向日葵の
かおりが鼻にとどくまで
背のびしている子らのまなざし

のどを落ちる
みずの温度がするどくて
そうだ、ふゆだね　

終バスの
空気はしんと重たくて
友にメールを返したりする

雨の降る午後に
生まれた気怠さに
うさぎの耳をしずかに寄せる

噛み尽くすガムから
雨の味がして
吐いたまんまのかたちでひかる

ポプラの木みたいに
窓を抱いている
校舎

まだ嘘もほんともなくて
おひるねの
園児へ割れるフウセンカズラ

暖房のかぜは
ぼあっ　と吹いてきて
鳥がみどりの尾を揺らしだす

低く　ひくく
花は湖面に近付いて
子を成すための器官のはなし

日曜のつづきが欲しい

ひかり差す海の色した
カーテン開けて

のらねこはすぴゃあと眠る

日だまりを
四肢のすみずみまで巡らせて

ぽほぽほと
傘をめざして落ちてくる
雪の羽音のような溶けかた

そもそも、の話をすれば
もそもそになるトーストを
じゃくっと齧る

天花粉　はたいてやれば
へむへむと
口をむずむずさせるいもうと

角部屋に
拾われたての猫といて
互いのひげを見せあっている

夕映えに
ひかる両手を差し出して

白紙のままの進路希望書

わたしたち、
まりものように着ぶくれて
渡り廊下をさぶさぶと行く

天空を吸わせるように
いもうとを
あおい布団の上に寝かせる

雨後、ということばの響き
うごうごと
羽化をはじめる仕草で　いのち

やわらかいを
やらかい、と言ういもうとは
もいんもいんとマシュマロを揉む

北の字の
かたちで君と眠るとき
陽だまりに背をたくしたような、

ぼくたちの
羽はたしかに動きだす

たとえば　塾に背を向けるとき

友人が
引っ越した日の春雨は
古墳のようなしずけさで降る

首都高は
ひかりの帯となりながら、
押しながしゆく祖父のトラック

昨晩の電話を
思いだすときの
耳のきくらげみたいなしめり

じゃない日も
じゃない私も脱ぎ捨てて
オキニのパジャマで
ふとんにもぐる

こわい夢全て忘れて
今日だけは

たんぽぽのぽを飛ばして遊ぶ

お月さま
おっこちたっていいですよ

両手のひらを広げては閉じ

干し草から
湯気が立っている
―ここにも春が来ています
と叫びたくなる

夜空に深く
沈みたい

山は静かだ
街より
はるかに沢山の
命で溢れているのに

夜を眠らせては
こそこそと哲学をする

僕は　
　殴る
啄木は　
　改行する

巨大クレーンを借景し
大江戸温泉物語の月

かさぶた剥ぐみたいに月をもぐ弟

椿　落ちる
椿があったところ
　の
空気

冬椿
は
一万年を呑んで
おちる

将来のことは将来決めるので
黙ってシャケを食べてください

欠けている月はあなたと欲情の
季節があったことのメタファー

温泉の煙遠くに美しく
二人で夜を待っている部屋

どらごんの形にイヤホン絡まって
取り返しのつかない事をしてきた

オレンジの光のなかで立ち尽くす
あどけないまま燃えてゆく人

よれよれのパジャマを吊るす
天秤は光の中で傾いている

世界から
水平線を引き抜けば
スコールみたいに落下する空

車窓には都会の明かりの朧げな
光に今にも消えそうな僕

壁には青春の傷跡

直さずに
ウユニ塩湖のポスターを飾る

犬がどうしても飼いたくて
ペットショップの仔犬に
「太郎」と名をつけた

誰もいない雪夜の舞台を
自販機が照らして
丸い
からっぽの冬

夕焼けにカラス鳴いてる
カラスとは
まごうことなくさびしさなんです

泣く為に犬が死なない映画見る
ポップコーンとジュースを持って

弟が弟として生きていく為に
私はこの先も姉

舐めかけの飴玉みたいな太陽が
ゆるゆる海に溶かされていく

ばあちゃんの足の小指が薬指
よりも長いと知った病室

昨晩の天気予報の答え合わせ
している一人部屋の病室

ピーラーで大根をひらひらにして
天使の羽を作るお仕事

鳥の巣で寝ている嘘の息子でも
大きく切れたケーキをやろう

風花の向こうに赤児だけがいる

敲き土掃けば幸徳秋水忌

貝殻が模した波間のさざめき
ねえ
海に桜をぶちまけたいね

月見上げ
空の広さに
ほっとする
息を吐く分
自分を減らす

風が凪いだ。花を薙ぐ。

くしゃみして重たい
リュックにシェイクスピア全集

ちゃんと悲しい君のことだよ

餡パン齧って
北海道のかたちにする

突然歌い出す子供
喜びは歌から生まれると
知っているのだろう

宇宙一
じいじが好きというだけで
このからだすべて
じいちゃんの形見

みゆき　元気かな
ラケットは左で
母が居なくて
弟想いで
器用に結婚していった

飲み忘れた薬の数の野暮用を
こなして埋まる母という日々

もう僕には合わない枕が
丁寧に置かれた布団
古里の正月

「貰い物だけど
似合うと思うから」
私が選んだスカーフを
祖母がくれる

珈琲を蒸らす四十秒のとき
洗濯を干す君に見惚れる

「グッドバイブレーション」の
「グッドバイ」の部分

「ホームセンターなんて
最初から無かったんだよ」
みたいな更地の上に月

何者にもなれない我の
息の根を止めよ
寺山修司全歌集

公式は知っているけど解けなくて
ファンタの泡がさんさん昇る

あかねさす明朝体のラブレター
ウスムラサキの切手を舐める

降車のランプに包囲され
滴り落ちるきみの手のひら

立体のマスクをつけることでしか
前世の鳥を自覚できない

帆をあげて
デコポン色のセーターで独り居る
祖父の島まで、ねむる