暗闇で
　手を振ると
　手の残像が見えるよね
（手を振る）
じゃあまたね

暗号化された告白
「ついでにアイスも買ってきて」

ファミレスにいたら
あなたと私でも
ファミリーだよね？
レストランだよね？

広東麺難民四年目

ゴムが切れたパンツを
見せにくる父
獲ったとかげを
見せにくる猫

美人じゃない方の
お嬢さん

悪意なき一言の
矢が抜けてない

もしもし、え、出前？
いやいやウチは
　頼んでませんよ
台風なんて

居酒屋のラジカセが歌う
浪花節だよ人生は

そうならいいのに

首輪を新調された

　　　　犬

家族の真ん中ではしゃいだ

ような　という
比喩表現ばかりするような
曖昧なような
書き方してるような

優先席
ご自分様が優先の方々ずらりと
スマホを見ている

イベントにかこつけて
やたら女装したがる奴

息子よ。

【激写】遠い昔の銀河系のエイリ
アン達はなぜ煉獄へ行く？【独占
スクープ】

もし僕が神様ならば
創世は三日で飽きて
押し入れの中

水槽を飛び出し死んだあの魚
あたまは海の方を向いてて

花あやめ避けて杖つく
　　　　　　　おばあちゃん

神さま
嬉しいと
スキップが出てしまいます
どうすれば大人らしくなれますか

糸電話貸します
もう話せないその人を想って
片方を
月夜の果てへ放って下さい

彼と食べたお菓子は
とても美味しくて
ひとりで食べても
そこそこ美味しかった

どこからか恐竜の鳴く声がして
私は庭で本を読んでる
曇り空の
何もない午後

雰囲気が好きっていうのは
とどのつまりもう
どうしようもなく好きってこと

君と
真夜中のトロッコに乗りたい
ブレーキなんかいっそ
壊れちゃってれば
いい

思考停止
【例】
茫漠たる砂漠にて
「ここで何してるんだっけ
　まいっか」

本当の幸せとか
真実の愛みたいな
何かを偽物にしちゃう
言葉はなんか
軽い

あたしの足を
護ることなんか忘れて
すぐどっかへ飛んでっちゃう
スリッパ

頭上をごうごうと雲が行く
わたしは綿あめ機に落ちた蟻

家族に見せてる自分が
本当の自分
とは限らないしそもそも
本当、なんていない

爆発寸前の爆弾を抱いて
走る処理班の男
みたいな微笑みはよして

なんでやねん、
を期待していたかも
出精値引きの意味わからず
ごめん。

心に満ち満ちた
なにか
伝えたいのに
心臓の鼓動がじゃまする。

果たせない約束ばかりする君は

嘘つきじゃなくて欲張りだよね

ありったけの詩集持ち寄ってさ
キャンプ行こうよ
なんて言われたら死んじゃう

わたしはあなたの
アポストロフィ－ｓ

骨なしの恋に
思いっきりかぶりつきたい

「寝る時が一番幸せや」

母の言葉に少し寂しくもあり

皮まで食べられる愛ではなくて
皮を剥く手間を愛する愛がいい

あの日の教室で
相合傘の下に
書かれてた
あなたとわたし
今はひとつ屋根の下

わたしの心は密室で死んだ

あなたは事件の第一発見者

父の世界文学全集
今は、私のブックエンド

外した眼鏡の向こうに
ひろがる青空は
見たこともなかったような
口づけ

子どもの頃
嫌いだったふるさとの
汚い言葉も
今では孤独の処方箋

青空に溺れた希望が僕に手を振る

両手をあげて目を瞑れ
これから俺が言うことを聞け

くらいくらい空のなか
あおいあおい僕たちは
あまいあまい恋をした

鼓膜が破れた
何も聞こえない
冷蔵庫には
なんにもない
お母さんは帰ってこない

朝起きたら
街から子供が消えていた
大人たちは笑い
蜘蛛の巣だけが輝いていた

シンクに溜まる食器
繋がらない電話
小さな目で見えるのは
小さな空だけ

森の中で手を離したら
二度と戻れないと言われた
じゃあなぜ連れてきたの
ママ

真冬のプールの底で
体育座りしている私
給食の牛乳は大っきらい

鉛筆を削ったあと
尖り過ぎてて嫌だったから
まちこまちこと書いて
まるくした

真っ暗闇で瞬きをする
隠れる場所は押入れしかない
僕はすぐに見つかるんだ

三階の窓から放った
紙飛行機が
二階の君の机に
着地っていう奇跡

キボーっててんごくのことかなあ

壁に書いた落書きの
お星様と天使
ママは怒ったけど
消さないでくれたんだ

百円玉ふたつ鼻に入れて
フラフープする帰り道
今夜は私
職務質問されたい気分

消し忘れたラジオ
部屋を満たす音と
冷たくなった珈琲
誰かが誰かを想う夜

屋根のない青空に弱音を吐く
独りになる許可をもらうため

恋の時間割り
１限目／偶然
２限目／盲目
３限目／諦観
４限目／必然

虹の抜け殻
やせぎすの指でなぞったのだ
空をきったとは言わせない

礼服脱ぎたいわけじゃない
薄い、布越し足が触れ合う
山陽本線ボックスシート

ならず者のペンだこを見て
わたしは歌がうまかったことを
思い出しました

眼鏡越しの世界
既に僕はサイボーグか

言葉で伝えられるなら
言葉なんて要らない

コトバを甘やかすと
そのコトバは
アイスひとつ買いに
札束を持って出かける

タマネギを調理したすぐの
手でビンタされた俺は
何だか
少し泣けて来た

満月のフリしたUFOが
大げさに光っているのかも

二十三時五十九分に放ち
零時零分に言い終えた「明日」は
いつなんだろう

パズルのピースを一つ失くして
ガッカリ感を代わりにはめる

少し目を離しただけなんです

その間に心はいなくなりました

枝を離れてから
地面に落ちるまで
そんな落ち葉の一生

子曰く
たまには自分で考えろ

あなた、
あなたが彼女を抱きしめるには
両手を切り落とさねばなりません

枝豆が枝になるんだから
空豆は空になる
そうに違いない

シュレディンガーの猫＝
量子力学の確率解釈の批判
つまり猫可愛い

君の鼻歌をこそりと
僕の口笛が追う

亡き祖母に
話しかける祖父
扉越しに聞く私

３００年で解けた
フェルマーの定理
３００年で解けず
女性の取扱い定理

あんた起きなさい！
もう七時よ！

この時いつも六時五十分

映画のような人生を送りたい？
君の人生は２時間に収まるか？

コインランドリー
三歩乾いて二歩濡れる
土砂降りの帰り道
洗濯は回る回る

亡き祖父が買ってくれた
ゲーム
大冒険と祖父の思い出が
共にセーブされている

小学生時代
僕は何度も世界を救った
元勇者だ
この世界一つなど
恐るに足らない

裏切られた
あんな人間だったなんて
自分。

星の場所はわかるのに
ここと星をつなぐ道は
まだ見つからない

宝物入れに居るビー玉
大半がラムネ瓶出身

ひとりで歩むみちは長く、
犬と歩くみちは楽しい。

誰も見ていないアニメが流れてる
必殺技で人が死んでる

自転車も寂しいときは泣くらしい
濡れたサドルにそのまま跨がる

ある日から車を恐れぬようになり
数日後には死んでしまった

焼き芋が大きすぎて
　　　　幸せがとまらない

最低な朝は
最高の夜にだって繋がる

鳥も飛び降りて自死できるのか

「パパ」から
「お父さん」に変わった
 ぎこちない
 あの日の父と私

Googleの検索欄に
君の名を
打っては消して
月がわらう

水ぶくれのような悲しみを
希望の針で突き刺せば
溢れ出るのはやはり
悲しみ

人体に影響はない
という博士
マウスが１００匹
死んでる
実験装置の横で

雨季は嫌いという君に
ウキウキするねというと
君はキスの雨をくれたよね

食卓に
イチジクのせチーズが
出てきた
どうした母よ
恋でもしたのか

美しいサヨナラの隣で
猫が死んでいる
引力に負けた夕日が
影を落とす
寂しさ

行方不明の希望を探しに
夢のつづきで君に会う


告白の行方

彼のお尻を、くいっ、と
突っついた 虹色の朝
陽だまりに子守唄が
溶けている

はる
なつ
あき
ふゆ
すべての「子」と付き合った

この恋に
キリトリ線を
入れておく
引き千切られた時
痛みが少ないように

心を一枚一枚
脱いでいく
鼠色の空の下で
迷子になった私
風になるただいま

盲目の空 見渡す限り寄せる波音

数学における動く点Ｐの、
点Ｐが動かねばならない理由を
考えるこれは何学？

君の体にたまに開くという窓を
見つけられないまま春になる

生活が整うまでの青葉闇

悲しみを
鞄に少し持ち歩く
風に飛ばされないための
重み

夕立は窓に優しく
もういっそ、
死ねたら、なんて
手羽元を煮る

わたしなら
良い悪霊になるでしょう
躊躇なく花の水切りをして

風孕み膨らむ桔梗
肺の熱
冷ましつつ歩む
母の死んだ日

土曜のバスに
英単語帳の羽音

今ごろ眠っているでしょう
濡れた足した羊の子

起きぬけに飲み干す水の
不確かな
清さを頼りに這っている

どうやって洗うか
分からないコップ
欲しいものリストに入れておく

外された肉が陳列してあって
ガラスに僕が歪んで並ぶ

全開にされた蛇口に近づくのさえ
怖い
水って三回唱える

透明という絵具あり虹時雨

ゴムが切れたパンツを
見せにくる父
獲ったとかげを
見せにくる猫

雨の日はいつも右の腕だけ濡れる

声として梟と会い
影として雨と会い
象として月と会う

角の自販機が
しゃべらなくなって
二週間経つ

いっせーの
飛び降りたのはあたしだけ

ペンギンの眠る駅まで逃避行

行く春に食器重なる音一つ

仏壇に知らぬ遺影があって夏至

春の宵木々は山へと変わりゆく

からり、と涼しい音
わたしが口にしているのは
氷と、氷がとける時間

夏は上からやってくるのに
秋は背後から寄ってきて
気がつくと捕まってる

打ちのめされて帰るとき
エンジンの健やかな回転が
生きる意味を教えてくれる

孫の食べ残した菓子の袋が
まだ戸棚に残っているような
夏の名残り

手の中の小鳥を
そっと見せるようにして
打ち明けた夢に
名前をつけてくれた子

取れたぬいぐるみの目を
こっそり心に縫いつけて
大人になったふりをした

糸電話貸します
もう話せないその人を想って
片方を
月夜の果てへ放って下さい

指先で弾いたら
コツコツと鈍い音のする器
まだ割れてないのに
もう割れてるの

小枝に
百舌鳥の
はやにえみたいに
ぶらさがっていた
ちいさな靴下ひとつ

柳の木にパッチン留めをあげる

８ミリ映画に
偶然映りこんだような
君の無防備を
僕は
擦り切れるほど思い出す

ほんの二針三針でも
記憶を縫い閉じてしまう気がして
ほつれたままの
兎の耳

どこからか恐竜の鳴く声がして
私は庭で本を読んでる
曇り空の
何もない午後

君は私の心を
古いセーターみたいに
ほつほつ解き
可愛い毛糸玉にしてくれる

私が君の所へゆく時は
森も一緒に置いて
くれますか
静かで小さな森ですから

どうしても
入れてはもらえぬ部屋がある
多分わたしも
同じ部屋を
持つ者だけど

刺繍をする。
図案も彼も私も
明日の歯医者の予約も消えて
手に
針と糸と布だけ

息の白くなる朝を待っている
あたしは
冬の水曜日の子

ダンゴムシは
丸く身をちぢめて死ぬのだな
ころころと
風に乗りやすい
かたち

まどのすきまから
とうめいのへびみたいに
かぜがするする
はいってきたよ

父がふんだんに持っていた
気難しさは
たぶん鳥が来て
すっかり啄んでしまった

薄暗い朝
君の鼓動を探すみたいに
枕に耳を押しあてる
聴こえているのは
雨音

寒い雨の日
羊毛の匂いを嗅ぐ
あたたかな
ひとりぼっちが満ちてゆく

頭上をごうごうと雲が行く
わたしは綿あめ機に落ちた蟻

セーターがちくちくしていや

「その時のわたし」が
ちゃんと記録された写真

緑色の妖精みたいな虫に
つい親切にしてしまう

生きている
その言葉のひたむきさに
どこか引け目を感じながら
生きている

曖昧な事柄の
座りを良くしたくて
とりあえずティッシュを詰める
みたいなこと

手のひらを
窓ガラスに押し当てて
私から
体温だけを逃がす

頭蓋骨を突き破ってのびた枝に
小鳥たちがとまったら
あたしはもう大丈夫

知らない人が
知らない人からもらったという
柿をくれた
知ってるのは柿だけ

数年ぶりに
自転車を漕いだ拍子に
胸の奥で埃をかぶってた卵が
ぽかんと割れた

夏の霧クレヨンだけで描いてある

満月をタルトの底に敷き詰める

裏切りを夢のとんぼに打ち明ける

皮まで食べられる愛ではなくて
皮を剥く手間を愛する愛がいい

４００個の窓を
すべて愛で埋めてみた
窮屈そうな原稿用紙と
私

マッチを擦る
この世界のすべての
嗅覚を奪う

明日は雨だ

夕焼けの糖度を浴びる曼殊沙華

アルコールランプの蓋を
閉じて
火を消す時の快感に
似た裏切りに合う

どんなに残酷な歴史でも
本屋には美しく並べられる

雨に濡れたあじさいが大きすぎて
私の心の小ささを知る朝

真冬のプールの底で
体育座りしている私
給食の牛乳は大っきらい

両目がとれた
うさぎさんとおはなし
大丈夫だよ
僕も目を閉じて
明日を待つから

いとしの真知子ちゃん
寂しい時に歯を磨く癖
お変わりないでしょうか

コーラだと
思って飲んだ
コーヒーは
知らない異国の味がした

懐かしい声がして振り向いた
ぶらんこが
ぎーこ
  ぎーこ
ゆれていた

足場のない部屋
水の出ない蛇口
ちいさないもうと
来るかわからない
明日

カップ麺に溢れても
溢れても溢れても
溢れても湯を注ぐ
私は生まれ変わる

理科室の隅にうずくまる
気味が悪いから誰も来ない

放課後
私だけの聖域

好きな人の頭蓋の形を想像する

いつだって私は
物語の生まれる場所に
立っている

友達からの手書きの手紙も
請求書も
同じポストに入っている

海を分け合った仲なのに
どうして君は暴れない

雨が靴下に染み込んで
もう水溜まりも平気になって
心もそうあればいいのに

カップの内に残った
コーヒーの線が
今日の楽しさ

ヒ・ヒ・リィー･･････

ふうりと金木犀の香

ぬるい秋の夜もいい

自分より
年上の木を伐り倒す
接地の衝撃
腹に響く

コトバを甘やかすと
そのコトバは
アイスひとつ買いに
札束を持って出かける

幸福とは
深爪した親父が
缶ビールを中々開けれず
なお　微笑むあれだ

イヤホンこんがらがって
唯一無二のかたち

やじるしかんばん空を指す

いざ月へ行かんと漕ぎ出した
ブランコ

憧れに向かって
船を漕いだ
いつの日か
漕ぐことに意地になって
違う島についた

頭にあるはずの心が
胸まで降りてきて
心臓を握り潰そうとする

星の場所はわかるのに
ここと星をつなぐ道は
まだ見つからない

私が自然体でいるために
あったことにされた二重幅
無かったことにされた産毛

廊下
風がさらりと吹き抜ける午前

夏の匂いが消えていた

寒さをタイツに染ませて
立ち漕ぎの坂道

誰も見ていないアニメが流れてる
必殺技で人が死んでる

これは
どこへ向かって
投げたら
いちばん遠くまで
届くだろう

約束を守れなかった日のことを
思い出させたカタクチイワシ

自転車も寂しいときは泣くらしい
濡れたサドルにそのまま跨がる

焼きプリン
ぐしゃぐしゃにして
食べる子の隣に
そっとすくう子が来る

今宵見る夢は悪夢にちがいない
傷んだ爪にマニキュアを塗る

びっくりとはてな並べる順番が
わからなかったおてがみを読む

秋雨に色があるならお向かいの
屋根は点々しずかに染まる

求められてますかって聞いてみる
洗面器の水は
すこしだけ揺れた

安かった鶏むね肉の状態を
気にかけながらする遠回り

パック寿司に
値下げシールが貼られてく
儀式をみんなで見守っていた

東京に埋もれちゃってるおじさん
の骨を拾ってあげたい、全部

火になって皆さんに優しくしたい

青空に鈍色の鳥が飛び散って
一旦終わりなんだと思う

おつり７７７円が
どうしたって言うの

神様なんていない
そう決めたハタチの夜

冷蔵庫の扉に貼ってある
十年前の父と私のプリクラ

父の笑顔
久しぶりに見た

ええねん
ええねん
彼の口癖真似する夜

やり直せる気がして

食卓に
イチジクのせチーズが
出てきた
どうした母よ
恋でもしたのか

何かを踏んづけた気がして
何度も振り返る
その度に私の影が
濃くなるばかりで

この恋に
キリトリ線を
入れておく
引き千切られた時
痛みが少ないように

生きる意味は小さじ一杯くらいが
ちょうどよい

ファミレスにいたら
あなたと私でも
ファミリーだよね？
レストランだよね？

逆読みのトラックばかり
停まってて
今なら全部、君に言えそう

柔肌に溶けゆく雪よ嫁ぐ君

手の中の小鳥を
そっと見せるようにして
打ち明けた夢に
名前をつけてくれた子

父に急かされ
何も買えずわんわん泣いたけど
たぶん欲しいものなんて
なかった

この恋は
カーナビの渋滞予測のように
１０キロ先まで
真っ赤に塗られてる

秋の海
あなたに告げるさよならが
寄せては返す波のいたづら

大事なものを
忘れてきたような空


雑居ビルの非常階段に座る

君が忘れて行ったビニール傘が
涙流して壁に寄りかかっている

君を追いかける

いざ月へ行かんと漕ぎ出した
ブランコ

次にタオルケットを洗ったら
しばらくベッドでは見なくなるな

ありがとうもう、ひとりのわたし
もうひとりのわたし、さようなら

ちょっと覚えて
いるくらいなら忘れてよ
こげばまっすぐ進む自転車

タバスコの量間違える
秋の夜

なめくじに最近全然出会わない

生活が整うまでの青葉闇

悲しみを
鞄に少し持ち歩く
風に飛ばされないための
重み

夕立は窓に優しく
もういっそ、
死ねたら、なんて
手羽元を煮る

わたしなら
良い悪霊になるでしょう
躊躇なく花の水切りをして

風孕み膨らむ桔梗
肺の熱
冷ましつつ歩む
母の死んだ日

白髪でも
影は黒くて
満足だ

たてがみは退化した
その代わり
色素沈着のタッパーを漂白する

土曜のバスに
英単語帳の羽音

脱いだ服のぬくもりが
少しもったいない

どうやって洗うか
分からないコップ
欲しいものリストに入れておく

誤変換だらけの君のメールでは
僕の名前は神みたいになる

外された肉が陳列してあって
ガラスに僕が歪んで並ぶ

麻酔医と花束だけが友達さ

透明という絵具あり虹時雨

ゴムが切れたパンツを
見せにくる父
獲ったとかげを
見せにくる猫

農村の　女女男の次女
きょうだいガチャのはずれ

ばあちゃんね
電話にわたしが出ると
とろけるような
声を出すんだよと娘

故郷の母に電話する
未だに母親からの
愛情を確認しようと
している哀しさ

この街で四つ目の秋
胸の空洞に
木枯らしが来る前に
ベッドで丸くなる

姑が送ってくれた
仙台の芋煮の材料

「肉は買ってね！」

朝の陽が
新米を照らす
眩しさよ

ステンレスのボウルの音が聞こえ
てしまう二階。

水面めく葡萄の筋のゆらゆら

角の自販機が
しゃべらなくなって
二週間経つ

月の夜きみを迎えにゆく魚

霧中を駆け抜けるための赤い靴

日没だ　児童館は電池切れ

行く春に食器重なる音一つ

仏壇に知らぬ遺影があって夏至

少し開く金魚のえらに真の闇

水族館
ペンギンの写真と
ペンギンの写真を撮る君を撮る

曜日感覚を忘れ
休みの日と休みたい日の
繰り返しがあるのみ

浸透する秋
眠る無花果の香り
牡鹿と子鹿と
白のバレエシューズ

小枝に
百舌鳥の
はやにえみたいに
ぶらさがっていた
ちいさな靴下ひとつ

柳の木にパッチン留めをあげる

ここは去年
外国の女の子が落とした
ミトンを
拾ってあげた場所

どこからか恐竜の鳴く声がして
私は庭で本を読んでる
曇り空の
何もない午後

小鳥がたくさん来る庭が良い庭
手入れがなってなくたって
問題じゃないのさ

私が君の所へゆく時は
森も一緒に置いて
くれますか
静かで小さな森ですから

父に急かされ
何も買えずわんわん泣いたけど
たぶん欲しいものなんて
なかった