山裾の単線まっすぐで寒い

降雪は髪を切らない私のこと

大佐手をばさりと挙げる残暑

バファリンの表にＢが彫られ冬

インクにじむように初雪の頭痛

砂かつて
風の
文字なり
砂時計

銃声にこの街はまた白くなる

寒晴の少女コントラバス背負う

巻貝に聴く
未生の
吾子の
こえ

冷やし続けられている
麦茶くらいの
返事だね

全部不合格でも
私は生きている

趣味　　　反省会

ピアノだけ溶けずに残っている
水槽

なんにもない空 午後三時
火事のあと

すぐ焦げるジャムを煮る
夢のあとさき

越冬するツナ缶

どこか遠くの国へ行きたい
なるべく
海の青さが深いところに

白みゆく夜の尻尾を捕まえて
今日が終わらぬようにする夢

雨っすね　雨くらい降る星にいて
あなたは雨をじっと見ている

生きたくて生きているみたいな顔
でオレンジジュース渡してくれる

出先で飲んだカフェオレ
いちょう色のセーター
静寂を止める震える携帯

肌寒いだけで恋しくなるなんて
ダメなはりがね虫みたいだね

寓話はおしまいに向けて菜の花を
過剰に描写する
しかたなく

ベーコンの水気をとばす
美しいまでのねむけに
飼いならされて

間違えているのが僕でユーカリを
たべて寝ているのがコアラです

あとすこし楽になったら、
もうすこし大人になれば、

モクレンの散る

夜はいい
ふるい平屋の軒先の
鉢植えのパンジーが鋭利で

ファミレスの
バックヤードに感情が
あけたと分かる穴ひとつある

飼い鳥が欠伸の真似をしてくれて
私にたどり着いてくれた日

自転車でさみどりの道走りゆく
大学までの静かな朝を

窓際で一人
初めてお化粧をした日の
青天を覚えてる

箱根まで来たのに
同じ大学の先輩を見かける脇役感

梨を切る一週間が滲んでく

青空をただ凛とゆく飛行機が
不意に劣等感だったりした

寿司ネタをひょっとめくると私を
山葵が不思議そうに見ていた

あてもなく油粘土を捏ねている

影もカラスか

戦闘機の怒号
陽光透かした紅葉は
ステンドグラスになってた

ルイボス・ティー、冷めちゃった

さすらい烏の一言が
渦巻管に、いまも迷子で

雪化粧丸型ポストのふかい底

肩の糸くず取ってから抱きしめる

ゆりかもめ先生にお土産を買う

大切な一日として窓際の
シクラメン咲く君と過ごす日々

光るつめ いいにおいのする髪
見下ろされるのを待っている
まつ毛

落書きを消しきれなかった空が
頭痛の気配に暈されてゆく

救いを求めるような
帰宅ラッシュのプラットホーム

炭の火といつかなくなる土星の環

蕎麦の花土器の欠片を砂にして

風光る集中線の飛び鉋

白鳥の瞳古城のほのあかり

木枯に追われて記念切手買う

最も厄介なのは
戦争に勝者と敗者がいる
と思っている人

友情とは、お互いに
口が堅いことである。

「人権」を放棄した神はいない。

馬鈴薯の夜食ゴッホを語る君

緑内障手術日和の小春です

短日に人攫いから飴もらう

一葉忌〆の字に折る箸袋

歩きつつ嵌める手袋会社売る

甘やかな夜の鬣山眠る

星空のゼリーに片足突っ込んで
踏み荒らすように雑な未来図

今日と明日を生き延びるだけで
未来に辿り着くなんて傲慢だった

おばちゃんが多めにくれた
焼きイカの匂いは夕陽が落ちる海

カレー食うペースが同じ冬隣

行く秋の半透明のレジ袋

君のまなざしにふれて
ブランコをする私の身体は
きちんと私を訪ねてくれる

君の、尽きそうな傷み
淡く、
ふくらむ。

空にるびをふる

私の小さなかかとが、
街の形に凹んでいるよ

わたしと同じ、
枯れ葉色のゆびさき。

そらを担えよ。
身体なんて、
日常の輪郭。

空を揺すって
私を灯す
手のひら

点々と傷むよ。
ホチキスの跡、記憶。

日照雨（そばえ）降る
一直線の
かえりみち

月明かりに
白い花ひとつ翳して
下る山路

薄ら日を
あつめて
ふたくちの茶

秋風で少しひんやりしかけてる
くまさんグミは初雪の色

スペインの名前も知らぬ子羊を
Instagramで慈しむ日々

お昼よりもっと優しい部屋だった
夜間保育の眠れない夜

よく肌に馴染むクリーム
塗ると蘇る
転校生だった日々

結露した窓から見える朝が来て
ネイルを白にしようと思う

ふさわしく笑えるだろうか
君のため
風の午後ふと慰めるため

展翅板にてモルフォ蝶囚われて
窓から青をじっと見ている

水圧の強い理科室で濡らした
袖口に見える白すぎる手首

母さんに託されている銀行の

暗証番号出生体重

白蠟のような手首が夕焼けに
焦がされ熱くなるよ晩秋

　生まれたときから
　迷子だが
　目は覚めた。

　異国のあめは
　わたしを少し
　強くした。

　雨の日に
　寂しさの狭間に
　雨のおとを
　心に落とした。

　雨の日。雨のおとを
　聴き逃すまいと
　窓をあけた。

　悲しみも
　木漏れ日の中では
　ひかり輝くのでした。

サm…までで
さむいなのか
さみしいなのか
あててみてください、きみ

濡れたアスファルトに
朝陽は散らばって
魔法瓶の底にいるようだ

手帳にずっと住み続けてる
きみに守られなかった約束

献血が
社会参加の唯一の
手段に思えた浪人時代

自由とは
結局自分の能力の
範囲内にしかないのだと知る

「おやすみ」が
　どれでも好きな夢を見る　　
　魔法の言葉だった日がある

霜ゆるむ牛乳受け箱をひらく

ざくざくと冬立つママの
　　　　　　　　　ビスケット

ライオンの鬣くすむ遠足日

合併に村濡れている虚栗

鯊釣の舟は金色暮れなずむ

雲に透く日よ春寒のミントティー

好きな人いますかと
また聞きそうに
月は今オムライスのかたち

朝を貫く汽笛の音は
たまごサンドの黄色のようで

立ち食い寿司のカウンターで
スマホ注文させる世の中が
嫌になりました

ミュシャの絵を溶かしたような
陽だまりで
眠るあなたの髪にキスする

：人々の輪郭線が
細く濃くなるさまを指す。

【関連語】冬

もういない金魚のための
カルキ抜き
小指の届きすぎる鍵盤

明日もまた
自死した友を思うだろう
僕の故郷にコアラはいない

筆箱に
キャップの取れた油性ペン
君はいつから私が嫌い？

週二だけ開くベーグル屋に小春

地ビールのしゅわっと
透けて城下町

玻璃製のポットに露を閉じて退屈

山眠る この腎臓は父のもの

デイケアの方に手渡す分の柿

夏の雨 スーツケースに猫入る

絶縁の傷をゆるして春になる

抽象画にされてメロンソーダに陽

地下街に白いピアノの来て夜寒

にわとりを
飛ばそうとして
怒られた

けのびして
どこまで行ける
だろうか
つむじをぐっと
奥に押し込む

豚骨の
スープはふるると
虹色に
いのちの精を
ひらめかせている

空っ風棺おかれている家に

立冬の図書館静寂がうるさい

一人暮らし、
炬燵と距離を置く決意

立冬を嗅いでる犬も青鬼も

足の小指は心から
最も遠い私です

たんすに強く打ち付けた
時に私に気づきます

時雨やんだ昼の　日の丸弁当　

神の千本ノックにへばる

水鳥のはなしなるべくふまじめに

もうずっと
テトラポットのそばにいる

ここからはあなたの居場所
グラタンの皿の
ぎざぎざしているところ

人間をフレームアウトさせるから
いつとも知れぬ桜の写真

ロレンチーニ器官を持たなかった
ばかりに文明とやらを作ったらし
い

銃声にこの街はまた白くなる

寒晴の少女コントラバス背負う

巻貝に聴く
未生の
吾子の
こえ

ピアノだけ溶けずに残っている
水槽

越冬するツナ缶

知らないにおいになった父の枕

ひらがなと言う名の
さかながおよぐとき
君の返事もさざなみになる

(30%引きお買い得シール)
僕の部屋、冷えた晩ご飯、僕

雨っすね　雨くらい降る星にいて
あなたは雨をじっと見ている

生きたくて生きているみたいな顔
でオレンジジュース渡してくれる

ライターが映し出すわずかな海に
進路希望の用紙を放った

きんようび
すきな
いぬ
だきしめた　ぼく

文化の日どこまでも
どこまでもどこまでも公園

くらい川べりに歩けば
一昨年の夏のはなしを何回もする

夜はいい
ふるい平屋の軒先の
鉢植えのパンジーが鋭利で

輪郭が隠れるように
横髪を切ってもらって
うまれた三日月

切り花がまとまっている
店前のひとつの瓶は
青年のよう

不意をつくあなたの言葉は
むらさき色
話せば長い秘密の理由

どういたしましてと言えず秋の浜

自転車車線の青い矢印
駅へ続く滑走路
眩しいんだ

煙草の香りを覚えている
海の上で揺れながら
遠くで魚がはねたことも

さよならは水色だよね秋の蝉

馬鹿とだけ書かれたLINE
寒波来る

朝刊の冷えた手触り冬に入る

遠くまで会いに行きます冬銀河

ベランダから見た景色
どこまでも続いていく
私の航海

夜ふかしの小瓶を棄てる音のあと

ランボー忌黄昏孕む船を牽く

弟の墓遠去かり雪蛍

綿虫は
空の翳（かげり）を綿に摘む

蝉氷掬う手の影ペソアの忌

(1935年11月30日没)

空にるびをふる

私の小さなかかとが、
街の形に凹んでいるよ

空を揺すって
私を灯す
手のひら

額に、つめたい音色。
鳴らしてみせてよ、
まだ燃えている。

薄ら日を
あつめて
ふたくちの茶

お昼よりもっと優しい部屋だった
夜間保育の眠れない夜

結露した窓から見える朝が来て
ネイルを白にしようと思う

　眠れない夜の
　星の観察会

　朝起きて
　星のカケラが
　残るとき。

　朝の明るい光の中で　
　柚子の木が
　おかえりと　
　謳っていた。

せっかくの水曜
六限目は電車

濡れたアスファルトに
朝陽は散らばって
魔法瓶の底にいるようだ

逆上がり補助器月への発射台

卒業の日の君はもう蝶でした

ハンモック空を素数の溢れ出す

家計簿と十一月の詰放題

朝を貫く汽笛の音は
たまごサンドの黄色のようで

もういない金魚のための
カルキ抜き
小指の届きすぎる鍵盤

赤くても、月は月だと言えること
色だけが僕に落ちていくこと

秋日傘の列へパン屋のご挨拶

春惜しむ
あなたは歌でわたしは絵で

夏の雨 スーツケースに猫入る

アイス全種、買って
大人になったかしら

セラピーのために夜寒の水族館

地下街に白いピアノの来て夜寒

幼少のわたしを抱きしめ直す冬

空想の友を夜明けと名付けたの

子供部屋　水銀混じりの精液を
今日も吐く誰も触れないでいて

立冬を嗅いでる犬も青鬼も

あの夏のままで　卓球場は冬

影歪む凍雨にさめて月曜の朝

ペンさらさらと冬のそらに一すじ

はんぶんは冬蝶の眼にあずけたわ

くちびるを海に
こわしてしまいたい

光の夜は向こう岸からやってきて
風のようだった　すこし泣く

ご注文いただいている商品は
明日とどきます　なけなしの雨

見渡す限りの教室だった

こんなにも狭い氷柱に閉じ籠る

砂かつて
風の
文字なり
砂時計

年玉やって
倉庫の神輿ちょっと見る

寒晴の少女コントラバス背負う

趣味　　　反省会

戦略性のないお姫様ごっこが
嫌いな少女でした

あの人のにおいがする
この人のシャツ

母親と
長生きをした
犬の名で
会話成り立つ
切なさ怖さ

そんなにも
喜んでくれるなんてこと
初めてのことでよちよち歩く

ひらがなと言う名の
さかながおよぐとき
君の返事もさざなみになる

鏡のような湖面に映る
見事な紅葉
亀　撮るまで飛び込むな

この星に死後も来世もないざんす
廃棄ののり弁を投げ捨てる

ファミレスの
バックヤードに感情が
あけたと分かる穴ひとつある

美味そうなプリンに見惚れて
なかったら乗れたであろう
電車のぷしゅー

光あれど
シーチキンはない
秋刀魚が逃げた
秋晴れの山へ

刺青があるのに短歌を詠んでいて
思えば何が「のに」なんだろう

砂場から
砂もちかえる
ぐーの手は
ちょきにできない
砂もれるから

僕が僕である輪郭を消し去って
狼に砂にあなたになりたい

雪化粧丸型ポストのふかい底

私の中には愛はない
もらうもの
流れてくるもの
感じるもの

鯛焼の腹からやわくなるような

十月と十二月の
谷間に落ちて十一月
御免御免
中途半端で

最も厄介なのは
戦争に勝者と敗者がいる
と思っている人

あらゆる問題は「奴隷」
言論を封じ込めようとする
凶器の「奴隷」然り

蟷螂に
荒野（あれの）の僧を視る浄夜
＊Praying Mantis

人の罪許さずに咲く曼珠沙華

燃える麒麟打ち消してみる
ランボー忌

初しぐれ長居の客のごとく生き

老姉妹洗礼名呼ぶ小春です

彷徨える人おのおのに小春影

あの古い地獄に帰ろう冬紅葉

牡蠣割っていのち啜るか一休忌

(文明１３年１１月２１日没)

ネオン管割れて一葉の忌と気付く

大きなどんぐりをあげたい
少し困って眉が下がるのを見たい

星雲を見た秋の夜遠吠えは
遠くの山に帰ってもいい

できるだけ
わらっているから
ちょっとだけ
やさしくいてね
ちょっとだけ

君のまなざしにふれて
ブランコをする私の身体は
きちんと私を訪ねてくれる

母さんに託されている銀行の

暗証番号出生体重

　何もないとこから
　愉快に
　自分を
　信じてやれ。

一人、呟き続けた
寒いの総和として
さみしいが出力されました

肉体と現世を繋ぐ枷として
正確に張り詰める鎖骨は

献血が
社会参加の唯一の
手段に思えた浪人時代

オムレツと恋は似ている
火を止めたあとの
予熱で仕上がるところ

自由とは
結局自分の能力の
範囲内にしかないのだと知る

月蝕の日に
つつがなく済んだようでした
ツチノコたちの引っ越し

ピルグリム
ペンタプリズム
プロトコル
ポリプロピレン
パルピテーション

ルンバにも
チキューは球であることを
教えてやろうきっと喜ぶ

ささくれで血が出るような春の月
投錨する舟　未知の前触れ

繋がれた鎖の先を辿る旅
わたくしの先わたくしを知る

やさしさを
アイデンティティにするからよ、
こんな肉塊になって、
こんなに、

幼少のわたしを抱きしめ直す冬

水銀貨蒐集家への過渡期には
看過の銀貨蒐集家共

母鉱山乳暈滲む水銀の
磁力にも似て唇の欲

水銀の保管庫ならば島国に限る
僕ならそう思うがね

電波塔高く　
そびえる
大都市の
鳩であること
誇れよポッポ

下じきの
ない生活は
筆圧で
世界が凹んで
歩きづらくて

はんぺんを
さくっと分かつ
或いはモーセ

立冬を嗅いでる犬も青鬼も

ひとの道に絨毯をひく落葉かな

冬日和目覚ます靴音兵隊か

前世から月を見ている

ぽんと一蹴り　
薄皮一枚隔てて感じた生命が
今や隣で中辛カレーをもーぐもぐ

一人では生きられないとしなくて
も僕はあなたをたやすく愛す

耳の奥に耳の怒りが張りつく
私はゆうぐれを逃げ切った

迷いなく進む喫煙者のあとを
つづけば灰がけぶる葉の小部屋

寓話はおしまいに向けて菜の花を
過剰に描写する
しかたなく

バス停の前に置かれてある椅子は
室内にあるべきものだった

この星に死後も来世もないざんす
廃棄ののり弁を投げ捨てる

けっこうな数のおとなが早朝の
壁をあいてにテニスをしてる

助手席で運転を見る
雪の日の渋滞は長生きの花道

箱根まで来たのに
同じ大学の先輩を見かける脇役感

梨を切る一週間が滲んでく

葬式後、
黒装束で飛び出して
街中の嘘を集めにいこうよ

枯葉が地に落ちる前に掴まえて
世界と境界線を引きます

砂場から
砂もちかえる
ぐーの手は
ちょきにできない
砂もれるから

老眼の度数の進みは死の香り
百日紅はニヒルに揺れる

クラスメイトの死体があって
たべっ子どうぶつ
ビスケットみたいだ

室外機が震えて街は僕のもの

六畳間に打鍵音
僕の手か、手による僕か
ここに僕はいて、
僕がいてここがある