ほとんどの夜に深海魚が光る

剥落する
絵の具のように
年老いてゆく光

万緑に鏡風邪の私が一人増えて

冬の雨
街から色が
消えていく

雨の日のセロリほどの憂鬱

今朝はもう閉じてしまった夕顔

白湯で平常心を装う生活に
影はうつらない

絵本にももくもくと雪は
降り積もり
罪を告白したい静けさ

三月に降る雪みたいに
あてのない約束をして別れた僕ら

みずうみにうみの記憶がある
夜更け

かなしみは
いつも
ほほえみながら来る

ねえちゃん、と
きみが
呼ばなくなった日の
にじは　水泡みたいにひかる

ほんだなの奥
から
ばにらの匂いの
月　をとりだす

ぜったいに血となり肉となる牛蒡

豆苗が遺族のように芽を逸らす

どっちにも撚れる冬の日の蛇口

冬の夜をこうも無音な鶏そぼろ

太陽を食べているようだ
娘の作ってくれた
たまごがゆ

それぞれの孤立の形　サボテン

触れ合えるらしい十一月の蛇

半袖でセンター試験解いたあと
フーセンガムの果てを見に行く

父親が私をあなたと呼ぶ度に
桃をサラダに入れるなどした

ぴっちりのイタリアンシャツ
着こなしてスクーターに
乗るように生きたい

自転車を立ち漕ぎして行く
美少女の黒髪流れ天の橋立

フルーツサンドの
断面を見るときの
吾はアンダルシアにおり

冬の霧＜個人＞と光るタクシー灯

窓開けて運河に捨てる煖炉灰

姫椿散り重なって明日埋める

雪時雨キリンの睫毛考える

繰り返し読む本がある冬菫

ペン先が太くて雪が降りやまぬ

冬菫怒ってくれる人が好き

わたしからわたしを
拾う特訓をしていた
背筋を伸ばして生きる

傷みには種類があって
ひかりより
まぶしいものを握る練習

水鏡そこに薫りは満ちている

見なければ元気なままの爺だから
一度も見舞いに
行か（れ）なかった

窓から呼ぶ
街灯の明かり

現実に飲み込まれた大人の
言葉のつまらなさ

寒椿　我らの死後の世にも雪

寺の子に人見知りなく山つつじ

露草に蛍光灯のくらさだけ

クレヨンで描きなよ
花野なんだから

小鳥くる 地球儀のある喫茶店

新聞に位牌くるまれ 小鳥くる

汲み上げて水の重心ここに夏

冬蜘蛛に寂しさを教えてしまった

春めいて
この街ももう終わりだね

ふらここに
ここと呼ばれて
陽の在り処

あなたの尾ひれで
泣いていいですか　月は
窓枠をひからせている

ホッキョクグマ色のマフラー
ありがとう

人見知りだから湯冷めが心地いい

北窓塞ぐかつては猫だった粘土

キッチンカー来る木曜日秋の虹

銀杏ちる夜の来ている構内を

街灯が照らすそこだけ雪がふる

ぬばたまの夜の踏切を
自転車で
世界を破るように駆けてく

けんけんぱ非正規雇用松の下

もずく酢をじょんと飲み干し
液漏れの電池の処理を
調べてねむる

一月の真水みたいに鋭くて
鴉みたいに青い、きみの目

君の前前前前世は柿の種
後後後世が反出生主義

仰向けに海の底へと沈みゆく
牡丹雪散る夜空みたいだ

夏休み従兄弟と遊ぶ蚊帳という
僕達の秘密基地に篭って

図書館の彼女は心を裏庭と呼ぶ

可愛くて格好良くて賢くて
サウイフモノニ
ナレタトシテモ

息継ぎのための歌集を抱きしめる
たまきはる、
わが、いのち、なりけり

ひとりでは抱えきれない夢だから
おーい、おーい、と呼びつつ歩く

ボディソープ泡立たなかったで
終わる修学旅行一日目

この世に咳をする

ころころ、ぽて。
おひるの、どんぐり。

温かいご飯をよそに
確実に傷ついていく母のまな板

ジャズピアノ聞くように見る
昼光が小さな影を置いたリビング

目を洗うときに気付いた依存症

ひび割れた廃家の窓にかかる影
花のレースが好きだった　誰か

手の先をホルンの口へ入れる時
噛まれるらしい　嘘つきだけが

ねんねこに
換毛期のねこくっついて

羽が落ちてた
ひろってたべた
雪降る前のそらの色
負けず嫌いのなみだの色

花の前に座る人が見えなくなって
そんなの重ねて大人になる

昨日まで生きてたこともお忘れで
ぼくらはあおい幌馬車を追う

あっちで
青じろいほのおがまってるねえ
きみはゆっくり歩いてきなよ

水曜の午後の白河夜船にて
わたしは通り雨の容れ物

園舎の陰で土刺すままごと
太陽は睨めないと教わった日

教室
拾い集める塗り絵の体温

次の地獄で使う上履きを探す

透明になって綺麗にとけていく
すべての線が曖昧な星

コーンポタージュ最後の一粒、
粘るね、お前

饅頭食べてるうちは大丈夫

神様に撫でられる冬の木漏れ日

ラムネの青みがかったガラス玉
空咳をする娘に見せてやる

痛みを耐えるラグビー
痛みを訴えるサッカー

水響くプールに続く焼却炉

夜のお堀沿いを歩いてそれぞれに
白灯蛾の印象を話した

軍用機の見える国道これからも
投票などして生きるのでしょう

信仰はさまざまな形でさみどりの
石けん水で手を洗わせる

どれだけの血液湛え献血の
バスはゆっくり駅前を去る

回送のバスの速さを見て少し
わらって帰る空気になった

母子して臍から下に縦の傷
母のは私を生むときの傷

ざあざあと潮騒みたい
笹の海抜けて私を慰める風

母と瓜ふたつと言われたこの顔も
気付けば形見　遠い冬の日

君にしかできない仕事
と書かれてる
ポスターを貼る私の仕事

七万もかけて
住んでるこの部屋で
豆苗だけが成長してく

遠景の怒りがいちばんに激しく
ちまきを剥ぎ終えるまでの汽笛

ペダル漕ぎ
何にでもなれる気がした
十四歳

まだ僕は　何も手に入れては
いないんだ
拳をぎゅっと　握る朝五時

柵越しの母校無人のブランコを
キョウコキョウコとから風が押す

放課後の下駄箱きみの上履きに
画鋲のように桜を入れる

コピー機を待ってる僕は無防備で
殺されそうな秋の夕暮れ

「ん？」っていう表情がすき
また髪を乾かす君に話しかけてる

コーヒーはミルク多めで砂糖なし
マトリョーシカは二番目が好き

信用だとか愛情を
代わりばんこに積み上げよう
いつか倒れるジェンガみたいに

バナナは生きる理由に入りますか

そっと背中を押してくる
トイレのふたの解釈

In the park 
陽が落ち一人ぼっちでも
影はいつもそばにいるから

色褪せた路線図に探す現在地
従姉妹はこどもを産んだという

こどもらは海岸通りに凧をあげ
空の高さの静まりを識る

手術後の仮眠をとる医者たちを
防空壕へと急かすサイレン

ポケットに手を突っ込んで
あっためる一人で帰る秋の夕暮れ

夕ぐれにノウゼンカズラは、
いや、
むしろぼくらの顔に花の量感

紙で切る中指
そして夕焼けが
うつくしくない日などなかった

りふれいん、りふれいん、
ってふる雨の
ひと粒ずつに銀の映写機

眠れない夜のすきまに生まれくる
さみしさに似た感情ひとつ

雨、とだけ返信が来て
胸底の
小さな街に雨が降りだす

かえりの荷づくり
思い出の巾着
かびた肩掛けバック
冬の長い廊下

ほとんどの夜に深海魚が光る

ミシン目を切り取る音が冬になる

星の夜電子レンジの音までも

あなたと書いて
小指をすてる

ゆめを見る
ように
あなたの手にふれて
死すら
とおくの銀河でもえる

「好きだよ」ってわざと言わない
日もあって一気にいちごオレを飲
み干す

「都合いいね」って君から言わ
れる夜キットカットは綺麗に割
れる

潮騒が鳴り止まない部屋
君の電話を切れば君が知らない
潮騒

剃り残しあってエレベーター５階

名作はあなたと観ずとも名作で
海はあなたが泣いたから海

幸せは掴めない雲雪蛍

父親が私をあなたと呼ぶ度に
桃をサラダに入れるなどした

七五三わたしがうそをおぼえた日

姫椿昨日のように遠い人

陰画（ネガ）創は明日の氷雨か
マン・レイ忌

(1976年11月18日没)

冬の霧＜個人＞と光るタクシー灯

官能の記憶揮発して雪催

雪が降る
楷書のように

売る筈の少女漫画は燃やされて
魔法少女は永遠となる

冬うららお墓は小さいほうがいい

ゆっくりと首を絞められ蝶凍る

過去形の語尾ばかりいう口つきを
見てこれからが無いとわかった

また恋を言いかけたけど冬銀河

夕立来て影はひかりを指す言葉

胎内の記憶彼方に春の星

冬の蝶 すべての机上に花瓶あり

飛行機の窓の明るい冬夕焼

銀杏ちる夜の来ている構内を

冬の星最後に寄ったドーナツ屋

街灯が照らすそこだけ雪がふる

箱買いの炭酸水は真ん中から取り
出してみても一本だった

冷たくてくるしいところ
好きでした
彼の背中と　とうめいな　なみ

折角の溜息ですよ混ぜてください

図書館の彼女は心を裏庭と呼ぶ

ころころ、ぽて。
おひるの、どんぐり。

温かいご飯をよそに
確実に傷ついていく母のまな板

やわらかい銃声がして月曜日

いいねだけ押されて消えた月蝕

この街に
メトロノームを置いたなら
立ち去る影もただただ速く

Enterキー
ヒールが折れた夜の音

別れ際ピエロになれず小夜時雨

雨粒を数える夜に見る夢は
きみが忘れたみかんの香り

はつしおの色香をまとう金木犀
セーラー服でながめる少女

銃声の前の静けさ沈殿し
君の呼吸の音が浮いてた

もう乗れない電車のなかで鞄抱く

淵をなぞるとねむる
あさもよるも人がつくったんだよ
おじぎそう

僕の死後不死の薬を手にしても
君にはちゃんと死んで欲しくて

しんしんと光を削る溜息が
君に積もった夏の病室

水曜の午後の白河夜船にて
わたしは通り雨の容れ物

教室
拾い集める塗り絵の体温

銃痕が疼く携帯に添い寝します

蒼い月がぼくを海に変える
潮騒が遠くから聞こえる

雨が雪に変わった瞬間
時間が止まったような気がした

ひらひらと雪を数える曖昧さ

ぬけがらは日曜夜の十時から

光合成だけで
生きれたらいいのにね
ピルを杏ジャムで飲み込む

街角の青果店では赤ん坊と
ひかるみかんが初雪を見る

パイナップルが
乗ったピザが好きなこと
まだ吉田にしか言ってないこと

２限かもしれなかった３限

放課後の下駄箱きみの上履きに
画鋲のように桜を入れる

素数の数列みたいに子は育つ
できないことができなくなって

コピー機を待ってる僕は無防備で
殺されそうな秋の夕暮れ

「ありがとう。」でも
「ありがとう！」でもなくて
もうわたしには記号がない

スーパーで生きる予定を立てる

純喫茶 純文学 天然水

ぼくの非を　
雪の浜辺に横たわる幼い鯨に
喩えてくれた

楽な方のあなたでよくて、
泡雪に
モンシロチョウが溶けかけている

性交をせずにたばこを吸う夜の
底の方から雪であかるい

セーラー襟の下に手を入れる
かもつれっしゃみたいな青春

倒れるまでは
立っていたんだ夕立に

パスワード忘れて夜は舞い降りて

われわれは単に手段化され
理性を奪われた
存在者になってしまっている

既視感のある
トマトから辞めていく

割り算は少し寂しい秋の水

花が開くような寝相だ
もまれる

昼過ぎに友だちのベッドに起きて
ぎょうざの満州までゆるい坂

人生がまったくもって干しひじき

爪楊枝もらえれば春つくれます

僕たちの時価総額が落ちていく
優しい先輩ばかりの国で

名作はあなたと観ずとも名作で
海はあなたが泣いたから海

びしょぬれの画用紙
あかいろ落とす
はなび、という子
はなぢ、という子

とびうおの背中にのりたかった
えくぼに水を溜めれるあたし

本当は愛が欲しいよ着ぶくれて

最後まで黙り込む君霜雫

青春の出て行ったはずの暴言が
ただいまと帰って来る朝

スズキ、「あ、はい」の「あ、」
の気持ちを考えたことがあるのか

「もう、ほっといて！」と言うが
あんた噓つくと右肩あがるのよ

いいひとなのにねのなのにを
どうにかできないものかね
いいひとよ

「じゃない」の「じゃ」に
重心をかけてあの人は
「ぢやない」と僕をぶった

十一月西向く侍刀抜く

冬の霧＜個人＞と光るタクシー灯

冬虹の片脚に履く木沓です

ペチカ焚く仮面と鞭と鎖置く

花道に撒くバイアグラ南北忌

(文政１２年１１月２７日没)

ゲゲゲ忌の冬浜に描く魔法陣

＊ゲゲゲ忌＝水木しげる忌
　　　　１１月３０日

雪時雨キリンの睫毛考える

ペン先が太くて雪が降りやまぬ

雪が降る
楷書のように

冬菫怒ってくれる人が好き

赦せない
気持ちをカバンに詰め込んで
鈍行列車の端っこに居る

女子として
生きたいのなら泣くべきだ
その隧道にひかりあっても

取り消さないようにするため
郵便で

黒板にいびつな円を描いてわらう
あなたの瞳の淡さを知らない

寒椿　我らの死後の世にも雪

摘蕾をやめてしまえば僕としか
生きていけない果樹園になる

寺の子に人見知りなく山つつじ

ババロアを掬うぬくさよ破水して

肋骨はひらく蓮華のように朝

夕立来て影はひかりを指す言葉

ふらここに
ここと呼ばれて
陽の在り処

殺すとき
ルビの世界の海象が
にじり寄り生あたたかい息

寒雷を化かし合う核テロ祭り

ホッキョクグマ色のマフラー
ありがとう

欠点はできるだけ言われたくない
視力検査のＣの生き方

付け足した蛍光灯のひもと似た
君の「命」の最後の最後

極楽のあるといわれる西方の
トイレの明かり父の出た後

中心をにぎっていても
中心にいるわけでない
雨傘のひと

街灯が照らすそこだけ雪がふる

じゃあまた　とチャリに跨がり
君が行くポストの角の先の空白

この歌をダークモードで読んで
いる
好きな夢、朝、雨、雲、日差し

ハーゲンダッツをハゲと略すな

愛してるなら垂直に刺さないと
♡はころりんすっとんとん♪

月齧り兎が歯茎に挟まった
巨人みたいに君は顰める

しゃがむなら
上手に私を見上げてください

湖を囲む大地になるように
おねしょを漏らす子を抱きしめる

気にするなという指令を脳は出し
それでも歯茎を触り続ける

税金が段々上がる物よりも
心が大事兵器を買おう

妹はレゴで築いた町々を
姉に蹂躙されて怒った

指先を5mmフリックするだけで
たちまち召喚される神さま

図書館の彼女は心を裏庭と呼ぶ

可愛くて格好良くて賢くて
サウイフモノニ
ナレタトシテモ

フリスビー
母の家出を分からない
犬はかわいい放し飼いした

自分を大事に生きて
できるだけ私の気に入るように

筋肉と自信の間に
勘違いが寝そべって
クウヲキッテイキマシタ

「障害が産まれることを欲してる
方はいません」
生徒、ら、
首、
こう

薔薇は赤 菫は紫
そのくらいはわかるんだけど
まだ寝れないの

この街でピースするのは久しぶり

どちらでもないので
いじめはありません

革命が起きるの待ちで日が暮れて
一旦カフェで時間を潰す

背と腹を代えて積極的になる

真ん中の『ファ』だけが
知ってる閉塞感

水槽の海しか知らぬグッピーは
蛍光灯を神さまと呼ぶ

踏切がキリトリ線と化す日暮れ

電柱が樹木になる日しずり雪

手、手、手、手が
伸びてきてその
指たちの
隙間から見た眼は臥せられて

人生が突然終わると知った日の
小さな鉛の弾が埋まる夏

ふるさとを持たぬ人々殖えていき
国ですらをも郷とは云えず

まわれ右、君の匂いがする方へ
走って飛んで僕は犬になる

地面には見えない線が引かれてて
跨ぐと変わる正義のベクトル

空蝉はあの世へすぐに行きたがる
修行の場所が人間界ッス

寄せる波全て攫えよ
後悔と感謝は溶けて潮は引きゆく

そうか　神様のここは
可食部じゃなかったかあ

緊急！
「山下りえささがし」
ああ、山に餌がなく
熊が町に出没したのか

変な色で
ぎらついてて欲しいんだけどな、
思い出は

花の前に座る人が見えなくなって
そんなの重ねて大人になる

小石にも
名をつけまわるぼくたちと
神さまとならどっちがかわいい？

有る無いで
ジャッジされちゃう倫理観
なんてあっても困るだけだよ

近頃の欲望たちは
ペイペイ♪と鳴く

世が世なら手芸作家になれていた
下人が出会う例の老婆は

不死だったはずの天使が恋をして
死亡可能な存在となる

五線譜を煮詰めるあいだ秋風は
銀杏並木に跨っている

他人との関係性に疲れたら
配電盤を覗きたくなる

何度でも砂糖要るのと聞いてくる
母の前では変わらず二つ

方針が決まらず開く地図アプリ
現在西を向いてるらしい