始発の三両目
はたらき蟻の娘がむかえる夜明け

じゃんけんに
あいこで人に生まれたわ
握れば水になる牡丹雪

骨を脱ぐ　試着室はいつも寒い

フルートを
思い出すときにしかしない
くちびるのかたちがある

東海道新幹線と
東北新幹線は
匂いが違うんだよと
電話してきた娘

思いつく限りの善が海にある

逆光を浴びて佇む祖母の手に
歪んで見えた真白い帽子

後輩が先に課長になる日に観た
吹き替えの声がしっくりこない

冬日向ことばをねじる転車台

透き通る眼差しだった
子どもらが雪を踏むとき

死ねと言うとき

クロールの息継ぎをする時にだけ
世界はひかりを浴びてまぶしい

ともだちがいつも
ナ行で待っている

版元が不明の句集だけ持って
水の匂いに包まれる夜

父が描いた油絵の薔薇が青
だったことを思い出させるような
ひとりの夜更け

補助輪無しで
自転車に乗れた日の事を
覚えていたら
僕らはもっと優しくなれる

細胞の角が尖っていて痛い

寝坊して輪郭だけが冬になる

死に際を考えてみる

ポケットの百円玉のつめたさが冬

青空を頬張るように口をあけ
おおあくびする君のとなりで

旧友が六年前に死んでいて
私の中では六年生きていた

悲しみを一本の細い糸にして
祖母の面影を引き寄せる冬

あたしににたあした

きぼうににたほうき

ブランコで日付変更線こえる

夕焼けにひとり叫べど返事なく
サドルだけ無い赤いじてんしゃ

暗闇では静寂がうるさい

二秒だけ
どちらも赤信号になる時差が
恋だと
あなたは言った

抹茶の甘さを知った日に
すとんと理解した
母もいつか居なくなること

動
　　揺

鼓動がスピード違反で
切符を切られる

雪のように
美しい結晶になってから
解けてみたい

なまぬるいミルクを
胃袋に ためて
タンポポ色の
陽に混ざりたい

白い馬が走って
街の匂いが尖りはじめる

わたしたち
こんなに笑って
レモンの輪切りみたい

ここまでが夜、と
チョークで線を引く
越える子どもを減らせるように

春雨を
フォルティッシモとする楽譜

耳たぶを揉めば
たしかに生きている
わたしの脈のすこやかな伸び

大欠伸するとき胸にある花野

かちかちの山のたぬきの
これからを知らずに
君はねむってしまう

そこだけが明るい星のようだった

きみが小指へとんぼ呼ぶとき

約束をやぶりやぶられ
べりべりと
自分を剥がしながら生きてる

それは詩じゃないと言われて
抱いていた花びら
ぜんぶ散ってしまった

オカリナを吹くとき
ぼくのくちびるは
つんとポピーのように色づく

担任はもぎもぎ
首の皮を揉み
子どもはみんな嫌いだと言う

元気よくポップコーン
って言うときの
口にころがる音のつぶつぶ

ここに星　あそこにも星

指し示す
母の人差し指のあかぎれ

とうめいな器に
ぞん、と冷麺を盛って

ひとりでいると決めた日

匂いからわすれていって

もうぼくを
変なあだ名で呼ばないんだね

かりん酒を漬ける
じっちゃの横顔を
ふっくらさせて夕焼けは来る

ぼくのまなうらを泳ぐ
人魚が乾きはじめて
夜明けの蛇口をひねる

貝殻に
ちいちゃな耳をあてながら
きみは未来へ電話をかける

あたらしい靴を鳴らして
たんぽぽの道を
ぽぽたんぽぽたんと行く

フルートに
あわいひかりを吹き込んで
友が背中に受ける夕暮れ

アスファルト越しの
地球を踏みしめて
今日はバイトの面接に行く

ラクガキが踊る机を寄せ合って

二十年後のぼくらのはなし

寝返りを打って太平洋ゆらす

目のうらに
春が潜んでいるような、
ねむけ　灯りのひもをゆらして

もう見えぬひとみを
ぼくに向けながら
犬はささみを下さいと鳴く

いちにちの
ねむりを少しずつほどき
まぶたを持たぬ金魚とくらす

段ボール箱を
ばきょっと踏みつぶし
君が始める海賊ごっこ

理科室のはかりに
乗せたキャラメルを
きみがぬすんでいく五時間目

にんげんが一番こわい

ゆうれいもそう
つぶやいていそうな吹雪

蝶の羽もいで
微笑むいもうとの
ひとみに波紋みたいなひかり

べろべろに酔って
帰ってきた父が
本音を吐いて泣くまでの　夜

好きだけど別れよう　って
つぶやかれ
皮膚から青いくらげに変わる

差しだせば
春はゆっくり落ちて来て
迷子の鳥のための手のひら

くすぐれば
わふぁふ　と言って逃げていく
犬の毛並みはおうごんの風

くちばしを持てば
かなしい過去よりも
腹の羽毛をだいじにできる

うたを聴く

わたしの内にひらき出す
花をしずかに抱き寄せながら

ぐつぐつと金柑煮込み苦味消す
無かったことにはできないけれど

雪の降る音のように壊れていく日
をあなたが縫い合わす　もういい

好きでもなく嫌いでもない人と
いて硝子が喉を出られない夜

君と歩くところから冬になってゆ
く呼び捨てにしたい真夜中がある

朝―
手紙を書くには
充分な
広さだ

主人を失い
パスワードは
宙を舞い続ける

あと一億年
見つからない
洞窟もある

古里に帰りたいけど
洗濯物が乾かない

雨どいから聞こえる水音が
半音高くなった
朝には世界が白くなる

浮寝鳥レシートの墓に向かう

ふゆゆうすけくんちの
あたりが
くぼんでいる気がする

無視だけが抵抗であり
突風に曝されるシャツの袖の鋭く

目の前でぽよぽよ跳ねる球体が
わたしには見えるわたしの怒り

長生きは望まないからタンポポの
綿毛みたいな性器ください

すいーとぽてとって言ってしろく
なる息きえるのはみんなさみしい

初めての産婦人科に鬼はいなくて
他人の影をふんでかえった

喉仏やわいナイフで切り落とし
国旗がきれいにはためいている

青々と光る廊下を踏みしめる
たびにつま先からする脱皮

改札に背中を向けて立つ人に
いきなりの雨のように触れる

やり方を調べないまま縫いつけた
ジーンズの裾のような星空

私たち存在ごっこ
前髪で目を隠したりして

しりとりをする子
きりんとライオンのぬいぐるみを
ぎゅっと抱きしめている

「すき」ってさ
じぶんの中で乱反射して
変にとがって
こころに刺さる

「生」の字の重さをはかる夜明け

濃すぎるレモンサワーを飲む
どこかで火事が起きている

Wi-Fiの
受信感度が悪いのか
あなたの鼻が
長い気がする

ファミレスの客待ち名簿に
いつもとは違う名前を書く旅先で

純粋な愛なんてものありますか
愛は混合物じゃないですか

今回の命じゃ会えないみたいだね
交わるばかりが運命じゃない

誤字一つ見つけたばかりに
さっきまでいた世界から
引き戻される

閉じ合わせた瞼の隙間から今日の
私がやんわり溶け出してゆく

塗り絵の輪郭線から飛び出した
青より先に続いてく海

前髪を切りすぎた日の心許なさ
いつもより世界が近い

最近の家電はみんなおしゃべりで
私が無口みたいに見える

濡れた髪のままでシーツに
寝転んで私は海の底に沈むよ

採れたての野菜や卵、
死にたての魚が並ぶ朝市へ行く

あと二人くらい私がいてもいい
気がして開いた三面鏡を

観覧車から街を眺める心地する
姉のつむじをひさびさにみて

詩は実験
日常の違和感に補助輪をつけて
走らせてみよう

小石蹴る音にまたたく冬銀河

この体の真ん中に下げた
ネクタイが
世界の全てを釣り合わせてる

本当は痛くて怖い
幸福と愛の顔して押し倒す君

足跡の無い新雪の絨毯を
キュッと踏みしめる音
世界の扉が開いた音

煙突なし
寝室にテラスなし
小窓のみ
サンタへ子が記す
オートロックNo.

子のウソに
気付かぬふりをする時は
連名にされるのかしら閻魔殿

大掃除
小壺に眠る愛犬の
居場所は皆で　やさしく無視する

長年無駄を
削いできた祖母が日増しに
一枚一枚
重ねる上着

湯船との境界のところ
私はそこに額をつけて
かなしみについて考えている

商店街の案内板の
中でだけ営業している喫茶店

吹きッ晒しのバスセンター

悲しみを積もらせない造り

擬音語で表現すると君はふょい
発音はあとで教えてあげる

もう私は戻らないよ
雪でふさぐ傷口

爪先から
鳩が飛んだでしょ
朝日に焼ける環状線を
思い出したでしょ
あれ、永遠

理性のほころびに咲くアヤメ

櫛水母まどろむような春の宵
誰かに会いにゆくのが吉と

石化した三半規管拾い春

孤独って透明な火のことですか

気に入った鉛筆の芯５ミリ減る
何を書いたか芯は知ってる

誰もが永遠に耐えかねて
絵の前を過ぎてゆく

大きな眼から
透明な音符が
ぼろんぼろん

アンテナの折れたラジオを
叩いたら
誰もいない夜の音がする

ことばを一つ落としたでしょう
街灯ぽつんと光っている

黒黒紺黒

ひとりだけ真っ赤なコートを着た
君が逆スイミーだと爆笑している

私の右側も
その右隣の人から見れば左側
ということ

木の葉のおかげで風が見える。

暖かい　部屋も上着も
持ってます　それでも人は
寒いですから

キャベツの見る夢に
芋虫はいるか

大阪府立中之島図書館で開く
津軽藩のひみつ

繁華街の外れ
薬剤師の老夫婦は喧嘩
胃薬の買えない朝

翅がもぎ取られている
ぼくたちはマナーモードで
生き延びていく

カーテンを閉める
今日はもう笑わなくていい

靴下がすぐに破れてしまうから
世界に居場所がない気がしてる

少し寂しい雪のない冬
中三だかの始業式の空から
明日辺りに流れてこねぇかな

抱きしめられて
自分の幅を知る

変身をするとこぼれる薄明かり

フルートを
思い出すときにしかしない
くちびるのかたちがある

東海道新幹線と
東北新幹線は
匂いが違うんだよと
電話してきた娘

タイムラプスの桜散る

まんじゅしゃげ
睡眠薬の
しろ
眩しく

セーターに
いつしかついている
ふせん

其処にロマンチシズムと
共存する立方体である
木綿豆腐からの感銘

幸せが不足している三面鏡

欠如から生まれる愛があるように
その瞬間にだけ降り積もる雪

書くことが幸せと思えた頃は
書かない時も幸せだった

後輩が先に課長になる日に観た
吹き替えの声がしっくりこない

飛ばされた麦わら帽子は
追わないと決めて立ち漕ぎして
のぼる坂

誕生

仄暗い海の底から這い出でて
棘にまみれた薔薇園をゆく

父が描いた油絵の薔薇が青
だったことを思い出させるような
ひとりの夜更け

父がくれるものは
いつも
ぴかぴかのネジとか
しわくちゃの千円札でした

スキップで誤魔化している十二月

カントリーサイドという名の
鰻屋があって
ふたりで笑ったのは冬

青空を頬張るように口をあけ
おおあくびする君のとなりで

風船に息を吹き込む
その時の息で揺らして見せる
コスモス

暗闇では静寂がうるさい

抹茶の甘さを知った日に
すとんと理解した
母もいつか居なくなること

言い訳ばかりしたい毎日を
電子レンジで加熱して焦がす

なまぬるいミルクを
胃袋に ためて
タンポポ色の
陽に混ざりたい

わたしたち
こんなに笑って
レモンの輪切りみたい

ペンケースを変えた友人
あのこわれたジッパーが
恋しくは無いのだろうか

ねむれない夜に数える
こひつじが二千を越えて
帰ってもらう

大欠伸するとき胸にある花野

またひとり来て
仔うさぎを撫でていく

そこだけが明るい星のようだった

きみが小指へとんぼ呼ぶとき

生きている間になんど
人の死に触れるだろうか

雪落ちる街

留年の危機ひたひたと冬銀河

オカリナを吹くとき
ぼくのくちびるは
つんとポピーのように色づく

担任はもぎもぎ
首の皮を揉み
子どもはみんな嫌いだと言う

元気よくポップコーン
って言うときの
口にころがる音のつぶつぶ

とうめいな器に
ぞん、と冷麺を盛って

ひとりでいると決めた日

まだサンタさんを信じている
きみのリュックが跳ねる


童話みたいに

かりん酒を漬ける
じっちゃの横顔を
ふっくらさせて夕焼けは来る

またZoom会議かよ、
って言うように
猫があぐあぐ噛んでくる足

あたらしい靴を鳴らして
たんぽぽの道を
ぽぽたんぽぽたんと行く

フルートに
あわいひかりを吹き込んで
友が背中に受ける夕暮れ

ラクガキが踊る机を寄せ合って

二十年後のぼくらのはなし

目のうらに
春が潜んでいるような、
ねむけ　灯りのひもをゆらして

祖母にまた手をふり返す

ホスピスの道を
なんども振り向きながら

いちにちの
ねむりを少しずつほどき
まぶたを持たぬ金魚とくらす

鬼ごっこして秋天に吸われそう

お酒とか
飲める歳まで友でいる
テトラポッドの星をかぞえて

べろべろに酔って
帰ってきた父が
本音を吐いて泣くまでの　夜

どこまでもぼくらはひとり

おなじ顔して
歯ブラシをくわえていても

差しだせば
春はゆっくり落ちて来て
迷子の鳥のための手のひら

ケトルはしゅんしゅん孤独

コーギーの尻もふもふと春日向

バーバパパみたいに
君を抱きしめて
こわい夜からかくまっている

くちばしを持てば
かなしい過去よりも
腹の羽毛をだいじにできる

狐は嫁に行き
人は鬼になる

古里に帰りたいけど
洗濯物が乾かない

ふゆゆうすけくんちの
あたりが
くぼんでいる気がする

気付いたら秋が背後にあるように
さらば、十八歳の蛞蝓

大学の閉ざされたあとラウンジの
菓子パン自販機だけが光源

だれだって悪者なのだと東京の
橙色の窓のいくつか

ダウナーな破壊衝動
石鹸がまくった腕の深くまで来る

水道が熱く感じる数え日の
クローゼットにしまわない服

それをする　ふつうに泣くよりも
わたしを失わない泣き方がある

長生きは望まないからタンポポの
綿毛みたいな性器ください

童話のおうじさまになりたかった
だけオムライスをだいじに食べる

琥珀へと
閉じこもりたい日もあって
淡く発光している子宮

私たち存在ごっこ
前髪で目を隠したりして

濃すぎるレモンサワーを飲む
どこかで火事が起きている

Wi-Fiの
受信感度が悪いのか
あなたの鼻が
長い気がする

雪降って雪掻きをして雪降って

なくしたと信じ込んでた
イヤホンが鞄の底で絡まっていた

濡れた髪のままでシーツに
寝転んで私は海の底に沈むよ

ストローがぢゅっと呻いて
待ちぼうけ

なんとなくさみしい時は
コンビニへ行く
何だってあるコンビニへ行く

サーカスのテントを出れば
象の目のような宇宙に
見られてたんだ

まほろばはここにあったか
腕に猫
背中に浅い午後の陽光

昔の恋なら須らくエモいとか
そんな雰囲気
目覚ましの音

山眠る降らない午後を耕して

この町の猫手懐けて年の暮

文字盤に雪を降らせる遊びらしい
塾通い詰め真白な手首

蕪煮込む
アルファベットのマカロニも

何者に
なれずとも生まれ　名をもらい
只それだけで　唯一のわたし

擬音語で表現すると君はふょい
発音はあとで教えてあげる

菜の花を畳んでいては父の声

ホームに雨が降る
ドアが空いて
降りる
鳩尾にかなしさが溜まってる

「詩人って
ポケットの中に
入りそうだよね」
「ね。」

人を思うのは苦しいね
木星を撃ち落とし続ける

ばあかばあかと咲く椿

形而上学的な忘れ物して春が来る

謝罪詩にかすかに宿るヤブツバキ

孤独って透明な火のことですか

菊は花、という気分で蟻つぶし

ティーカップの底に
冬の蝶がへばりついている

十四歳の君が
夢を持たない空の肉体を
謳歌している贅沢さときたら

この町で過ごす冬は最後でも
この先ずっと思い出す場所

冬晴れの休日どこへ行こうかな
買ったばかりの自転車磨く

ことばを一つ落としたでしょう
街灯ぽつんと光っている

手袋を忘れたことをちりちりと
責めてるような指の腹

プランターいっぱいに咲く
ペチュニアをひと春と
数えてみたく三月

水槽の　蒼いイルカと
数センチ　ガラスを隔て
じっと向き合う

耳をふさいで
閉じこめた耳鳴り
砂になれ

海沿いの道は
まぶしくて
いつまでたっても
歩くだけ

大阪府立中之島図書館で開く
津軽藩のひみつ

一つだけの街灯
直立する鯨
山羊の瞳
明日

夢の中に出てくる人は
みんな私のことが好き

点と丸を描くだけで
人を笑顔にできた時が
私にもあった

じゃんけんに
あいこで人に生まれたわ
握れば水になる牡丹雪

まんじゅしゃげ
睡眠薬の
しろ
眩しく

ゴミ箱のないビルだった冬だった

ガソリンになって
時計を燃やしたい

透き通る眼差しだった
子どもらが雪を踏むとき

死ねと言うとき

版元が不明の句集だけ持って
水の匂いに包まれる夜

友達の時間が今日で終わります
夜の役目を果たせないまま

味方だと思っていたのは春でした

寝坊して輪郭だけが冬になる

パスポートの更新期限が
切れたままになっている

抹茶の甘さを知った日に
すとんと理解した
母もいつか居なくなること

揺籠に揺られて夜行バスを往く

日差しが傾くと
子象は花をたしかめる
あんぜん の匂いがする

白い馬が走って
街の匂いが尖りはじめる

大欠伸するとき胸にある花野

大欠伸するとき胸にある花野

土手の花ぽんぽこ咲いて
ぼくたちは大人になんか
なりたくないよ

生きている間になんど
人の死に触れるだろうか

雪落ちる街

まだゆめのとちゅうにいます
おでんわは花のふるひに
かけてください

フルートに
あわいひかりを吹き込んで
友が背中に受ける夕暮れ

とれたてのレタスを剥けば
しゃりしゃりと
両手に海の音があふれる

蝶の羽もいで
微笑むいもうとの
ひとみに波紋みたいなひかり

泣きたくて
なけたことなど
いっかいもないよ、

遠くの海を見ている

雪の降る音のように壊れていく日
をあなたが縫い合わす　もういい

幸福と同じくらいに切り傷な
六畳一間眠れテレキャスター

気管支のひりひりだけが正論の
潮風なんて馬鹿のやること

好きでもなく嫌いでもない人と
いて硝子が喉を出られない夜

みんなみんな光を選んで歩く夜を
君はひとすじのひかりとなって

君と歩くところから冬になってゆ
く呼び捨てにしたい真夜中がある

大学の閉ざされたあとラウンジの
菓子パン自販機だけが光源

長生きは望まないからタンポポの
綿毛みたいな性器ください

すいーとぽてとって言ってしろく
なる息きえるのはみんなさみしい

童話のおうじさまになりたかった
だけオムライスをだいじに食べる