ピアノさぼった僕を
殴る母
ねぎのにおいがした

初雪　死者を声から忘れる

月光浴びてうなじは白桃めく

枯山のシンバル　水として駆ける

にんにく切る
日々の残光切るように

りんごの皮細く剥きつつ自死の話

落葉の
写生会
の様な風景
十二月

大晦日
幟は　すでに
恵方巻

伸びすぎた冬の影に
フランスパンがこぽっと嵌る

言葉になる前の音からかなしみが
ぽろぽろぽろとこぼれる
雨が降れば傘をさす

実家にはもう靴がない
あの角を曲がるまで手を降る
母もいない

浴槽の中で広げた手のひらを
見つめて思うふるさとの雪

僕の名を呼ぶ母
呼んでないという母と
横断歩道を渡る

記憶　より
五センチ
うすい母の背の、
今日をねぎらうせっけんの泡

人生をむだづかいする
日
もあって
パンにろくまいチーズを乗せた

傘と傘ぶつかり合って
くるりんと
回って渋谷駅は冬の雨

夜の川の水面に桜が落ちてゆく
嬉しさはときどき寂しさになる

友達が作家デビューをした夜の
コーンスープの仄かな塩味

花は梅　歌には花が咲き乱れ
萬葉仮名の講義始まる

神田川に桜さらさら流れていく
教授が元気ならそれでいい

歌人兼ユーチューバーの友達と
雑魚寝をしてる春のマンション

方言をかわいいって言う君がいて
いつもより少なめにする塩胡椒

ごはんつぶのひ
と
つひ
と
つ　が　ふゆっていう

月面のねむりづらさったらないね

胎内にいちまい濡れるあぶらあげ

焦っても肺がみどりになるだけよ

すれ違う亀には恐れ入りました

月までの距離を教えて
Alexaに問えば
「心中をお考えですか？」

弟と「パパ」の定義が食い違う

「命綱を首に巻いてた
赤ちゃんでさ。
真夏日だったらしいよ、私」

鳥園に亀も暮らして十二月

二度はない冬を
いくつも知っている
献血カーがこわした花壇

詩はいつもひとりで生まれてきた
ような顔をするから油断できない

でも無職やからと友は会うたびに
言う会うたびに言う　ねぇ桜

月光に原稿用紙ざらついて

せせらぎの濃くなる方へ鬼やんま

一斉に聖歌の喉を開け放つ

未来とは黄色い白菜の真芯

命に別状はありません
というような安心感で
椿咲く

願わくば、得体の知れない
蕎麦打ち人となって
詩歌を詠みたい

聖樹棄てる星と雲とは箱に詰め

年暮れる老々介護のぬるい風呂

虚しさがコーンポタージュ四杯分

天体の浮かぶみちのく芝桜

雪の原血液型を教えあう

山茶花の咲くころ
神の成り損ね
地震の後も生きているぼく

駅が近づくたび
ゆっくり流れる
夕陽の速度

傘立ての［〇一九］の鍵あける
そうね
地球が丸いといいね

好きじゃないのに冷え性の指先を
握ってあったかい、とか言うなよ

半額のシールを貼られてなお残る
菓子パン、俺と海を見ようぜ

空澄んで
キャリーケースに腰掛ける

明日葉をみずとひかりのお浸しに

朝焼けの大きい蒸気の町に住む

マネキンの地下に乱立する寒夜

ふらここに重心ふたりぶんの春

口内のピアスを舐めている春夜

鉄条網 いつか小瑠璃の来る朝よ

どこへでも自転車だった
初夏だった

砂時計の落ちきるひかり 風薫る

おっぱいに酢をふりかけて
おっぱいが酸っぱい

（何を信じればいい？）

年末は中割折りがしたくなる

聖夜灯る病棟の当直室の
ロック画面に子どもの写真

真夜中のディズニーランド山眠る

変わったねも
変わらないねも言われずに
同窓会の大根サラダ

家々の灯がカーテンに透けている
私の為の光ではない

ルービックキューブを
全面真っ赤だと
思ってそうな俺の担任

真夜中に
カーテン越しの
ベランダを見やれば
シーラカンスが横切る

今年のメモを見返す
「えぐみえぐたろう」
の意味が思い出せない

いぬの残り香がするくぼみ

薬が効くまで静かに
ぶらさがった耳たぶの、
その色を して

夏は夜
カスタードまぜくるときにしか
みせないきみのやわな加虐性

深海魚だってよるは弱気です
もらった花の種子をなくして

さよならが
跳ね返らない夜のふち
月はとっても、とっても遠いよ

わたくしは
群れから離れます、どうぞ

タンポポの花園にする！
真夜中に庭の綿毛を
ビュンビュン飛ばす

私だけ友達がいない美容院

前世でも苛められっ子だったから
洗面台で海月を洗う

幸せと分かる範囲で腕を振り
サンタと渡る横断歩道

きしきしと言葉が積もる本棚は
雪降る夜のタワーの匂い

〈非正規〉はビルの谷間の坂道で
パンク間近の自転車を漕ぐ

目を開ける必要のない真夜中に
置き去りにした水中眼鏡

朝刊を鍋敷きにする　
たましいを
使い切れないままの夕暮れ

皆うぉうぉう拳ふりあげ歌う
光に向かって言葉を殴る

見知らぬ後ろの人のために
いつもより大きめに扉を開ける

祖母が流しに立ちながら
施設に入りたいという
いつもより甘い煮物を作る

飲みかけのコーラは
ただの水になり
おじいちゃんは
ただの写真になった

誰も傘に入れてくれない

AIに友達の作り方を問う

真夜中と
この世に必要ない大福

優しいね、きっといろいろ諦めた

琺瑯の薬罐の持ち手はしんと冷え

「仕立て屋の恋」を観ること
ないままに
あらすじで知る悲恋の終わり

さよならを一度も言わず
手を振った
互いの笑顔だけを覚えて

もう待つことのないバス停は
風の口笛だけが佇んでいた

思い入れのありすぎる
スマホだから
雑音混じりに聞こえたアリア

指定コートと
クロワッサン
語源はクロめで
わっさわっさしたようなもの

捲る袖ブーゲンビリアを
摘み取った
坂道登りと
カブトムシの匂い

働けば豊かに暮らせた東京の
カプセルタワーのあとの空白

爪を切る天使

ああ、母は傷つきやすい人だった
のかもしれない、この本棚は

午後になれば日が当たる
空席の車椅子は必要とされたい

ずっと張ったままのふくらはぎ
じょうろはしばらく使ってない

そしてまた次の夏への帰りみち
巨きな懐かしさのほうへ

ひどい雨で
あなたの声が聞こえない
街には紫陽花ばかりあふれて

まだ誰も彼もが
生きているような気のする
午後の葉桜の前

餓死　射殺　空襲　薬殺
からっぽの上野動物園に雨が降る

ダイヤモンドの偽物
首にぶら下げて怒っていた女の子
わたしも

白砂糖に舌は痺れてそののちを
淡くさびしくなる羊雲

大人に近づいて、泣けなくなった

歳を重ねると
体水分率が減少するらしい

足場職人ゆっくり海をかわしつつ
白く塗られゆく給水塔

万華鏡に世界を預けて
ひとりになる予行練習をしてみる

ワカサギを釣る人々は立ち去って
銃痕のような穴を抱く湖

マフラーの匂いで共テ思い出す

梯子に怯み遠回りして冬野

冷たいメス　妹の肺を泳ぐ

東京という狐火の絶対値

大人は大変そう、と
ゾウが鳴く
子供も大変だよ
蟻を靴で擦り潰したり、とか

問いかけに
答えてもらえなくって、初雪

ピアノさぼった僕を
殴る母
ねぎのにおいがした

雪の声シェパードの耳動く

りんごの皮細く剥きつつ自死の話

秒針は
ちいさな
闇を
剥がす

メガフォンで冬が砂に書いた海

振り払うための
かたちを保てない
波浪のような　にんげんのうで

帯に惚れて買った本だらけの本棚
にスノードームは光を見せる

友達が作家デビューをした夜の
コーンスープの仄かな塩味

ひもとひふはにている
よるがながい

ごはんつぶのひ
と
つひ
と
つ　が　ふゆっていう

胎内にいちまい濡れるあぶらあげ

皿一つだけ洗っている冬の暮

もし私がくらげだったら
小指の骨くらいだったら
もらえましたか

じゃあまたのまたはいつなの懐手

鈴虫を静かに潰すようにして
きみは美大をやめると言った

ふかふかになった林檎を砂糖煮に
したあと祖母は怖いと言った

終点にまた手袋の落とし物

月光に原稿用紙ざらついて

ひとはみなみ
どりごだった
のよというよ
うなきいろい
ぱぷりかかう

ははのおんなをみたとき
むすめはひらいたぱんど
らのはこをそっととじる

ひえきったおおかみに
うすいあかもうふ

雪の原血液型を教えあう

加藤楸邨の名を見かけ
２－２０３教室を通る風

夜にヘタを付けたら
茄子となりました

動物園の最後はヒト科 秋の暮

窓に時雨
ホテルの廊下に終わりなく

桜桃忌 ボディピアスの自傷めく

どこへでも自転車だった
初夏だった

ひにん。
って、赤えびみたい
生きたくて、
急に浅瀬を後ろ跳びする

北風に置いてきぼりのヘルメット

夜はずっと変わらないけど

誰かは星になっている

フルートの
高いラみたいな冬うらら

クレヨンのびりっこ白は胸を張る
冬のひかりは全部任せて

半分にオレオをひらく
この雪はたぶんこっちの
何もないほう

わたしのおにいちゃん
頭ひとつぶん神さまに近い

まわってるおもちゃの
馬たちにまたがる、もう
たたかわなくてもいいひとびと

もみじがり 
いちごがりがりことばがり 
いまから
あかいことばを消します

秒針の
かち と かち のくうげきで
からだがたまに浮きそうになる

売切の文字が五つも光ってて
カシオペヤ座に見える自販機

「サラダ記念日」
読まずに返された雨の朝

屍に
リボン結んで
冬の夜

国境の海岸通りで
フラフープをもって駆ける少女

映らないヒールの下も
イチョウだよ

十二あるファンクションキーの
感情は琥珀の中にあるから遠い

働けば豊かに暮らせた東京の
カプセルタワーのあとの空白

説得はされないままで冬になる
手前をバスはバス通りへと

コンタクトレンズについた指紋
まで見えるほどに近づいたひかり

幼稚園だけにあります、
あかあおき
みどりむらさきだいだいみどり

千枚の通行許可証ばら撒いて
いきなり夏をはじめる天使

窓は額縁
しずかな胸に飾るから
夜のほとりを歩いてみせて

本当は虹になりたかった
バウムクーヘンをふたりで分ける

まだ暗い世界を朝と呼ぶときの
声は少しだけ流れ星

パフェグラスの底に残った
銀色のスプーンはそっと光を掬う

たましい、と
答えたばかりに暮れる日の
つばめばかりが銀そのもので

ピアノさぼった僕を
殴る母
ねぎのにおいがした

枯山中
赤いポストが立っていて
永遠を得た心臓である

牛の目の海光滅びやませ来る

りんごの皮細く剥きつつ自死の話

恥ずかしいから運動会には
来ないでと泣いた
父さんにごめんと思う

哲学で都会の色を見上げれば
おれのなんにも無さが　飛行機

傘と傘ぶつかり合って
くるりんと
回って渋谷駅は冬の雨

この蝶は梅と出会えることはない
君とふたりで能を見ている

方言をかわいいって言う君がいて
いつもより少なめにする塩胡椒

具の遠いおにぎりの具に辿りつく

焦っても肺がみどりになるだけよ

ねむるまで
泣かない馬を編んでいる

月までの距離を教えて
Alexaに問えば
「心中をお考えですか？」

冬ざれか手を見るだけにして帰る

母のヒス父のヒス子の花疲れ

絆創膏剥がすところを見たがった
みっちゃん、今も元気でいますか

冷たさをどうして青と思うのか
高額当せんのせんはひらがな

心には形はないが型はある
だから〈武道〉で型をとる

家庭円満という形而上の
まだ誰も経験していないもの

黙契の谿を飛び交う鷹の群

聴こえる？と
みみを塞いでくれたひと

過去形が
切り落とした爪みたい、
地面に降る。

三十五文字のリングでは
メタファーよりは
実をとりたい

傘立ての［〇一九］の鍵あける
そうね
地球が丸いといいね

朝焼けの大きい蒸気の町に住む

禁足地 蛇の白目の澄んでおり

独り言増えて金魚が一つ浮く

「戦争を知らない」と言うことに
何故、幾許かの後ろめたさがある

ひにん。
って、赤えびみたい
生きたくて、
急に浅瀬を後ろ跳びする

長老の手によって
裏のないものたちが
残されていく折り込み

神経でできた脚立を降りてきた

桃っぽく流れるアナウンス

婦人科の健診終わり
マチカフェのコーヒー（Ｓ）を
よわよわと押す

円錐は転がり回る離れずに
立てば上には何も持たない

畜生、と
レシート投げつけていった
客のくしゃみはきっと寂しげ

いつか、って
消失点の先にあるひかりの渾名
また会いたいね

目を閉じた丸い鳥いてクリスマス

鳥になりたい
大空を這いつくばりたい
時々羽を落とすから
手紙を書いて欲しい

産毛にも満たない雑木林抜け
ヘモグロビンの一つは鮮やか

人生は短いだから比べるな
今日の自分を脱臼させる

図鑑にもない惑星のことわざを
口に出してるあかちゃんを抱く

レコードをかける姿が
お義母さんみたいだね
お義父さんみたいだね

不妊治療日

エスカレーターを歩いて移動する
流行りのうたの小気味悪さで

重力を感じるクリスマスデート

雨の日をカラフルな傘で彩れる
何か忘れた 極東の国

波長が合う人以外は見えない

愛の字をいつも受の字と間違えて
ばかりいるから与えられない

ロボットじゃ
無いと断言できなくて
採血　赤を指差し確認

ホラ貝の音がとおくで鳴ったなら
宝くじを買いにいく  黙って

肩凝りを知らぬ海月を羨むも
海に浮かばず沈む金槌

あの牧羊犬はいつか羊を食べよう
としているのかもしれない

黒で『赤』と書くと
不思議はなくて
赤で『黒』と書くと
違和感がある

ストローいりません
だって私は蝶だから

筋肉マン消しゴムで
消し去ってしまいたい記憶

比喩のため
つれてゆかれるカメレオン

天国じゃみんな、名前を忘れてて
さいごのごはんの献立で呼ぶ

ピッキングしてこじあける
春うらら

レジュメでは
せせらぎさえも聴けるほど
しずかなひるの東部戦線

行きしなに虹を見つけて
すれ違う全ての人に
アッて言ったの

プロペラは
空を裂かずに這い上がる
器用に拒絶する手のひらで

土に背を預けて眠る花びらと
駆け引きをした風の歯車

貴方を作り出すのは
ミックスされたものの
選りすぐりを
アレンジした物だよ

草原を分けゆく低い鼾
でも肩を叩けば
私との生活を答える

ツノから馬が
生えたから
ユニコーンはユニコーン
なんだよ

後ろ髪、
引いて計らう波打ちめ
明日折るカモメ、
すべてやかまし

電柱の横にトイレットペーパー
置けばみんな野グソにハマると
思うんだ

祖母が流しに立ちながら
施設に入りたいという
いつもより甘い煮物を作る

分かった気
なっても直せうさぎさん
ふとした時に進めなくなる

よく振ってお飲みしますね
次こそは

ポッケに手こけても俺は裏起毛

人だけで構成されてるバスのなか
胸にはなったおとなしい鹿

天啓のように天啓は
対価を発生させながら
濡れた床を拭き払わせる

説得はされないままで冬になる
手前をバスはバス通りへと

言葉には不自由している　
不規則な
蝶の飛翔の見えなくなるまで

足の裏、何かを踏んで
レゴブロック
だいだい色の　痛点・

生肉となった牛の目、ビー玉で
あったらみどりだったのだろう

先に死んだら遺灰を撒く約束
を思い出して昼の歯みがき

祖父のらくらくフォンの１番は
まだ誰も消し方を知らない祖母

店長が話す相対性理論
おもてで誰かの鍵が落ちる

ほほえんで手を振り別れ、
イヤホンを挿して戻る自分のＡ面

本当に知らないんだねなにひとつ
アルペン踊りの踊り方さえ

みりんふうっていうとき吹く風
みりんかぜ　
本父さんになるよこれから

あれは駅へと導く白杖
あるいはチュッパチャップスの棒

今日の余力で炊くご飯
布団をかけてくれる味噌汁

いぬと話せてもいぬなんだと思う

ぽん酢のぽんで変身は任せて

過度な沈黙と焦りから
剥がれてくる壁紙

どうしてもなんか怖くて
死ねないのいいことなんか
何もないけど

繰り返し善意かどうか乱されて
無償の愛は侵略行為

風鈴が
いや、妹が
いもうとよ
笑ったままで泣いてもいいよ

久しぶりに
花を柄へと噛み砕く風の
手つきに見とれてしまう

両腕が交差するとき
鍵盤の上にわずかに月は傾く

よく見るとグロいガーベラ
お金さえあれば
一人で暮らしてゆける

白砂糖に舌は痺れてそののちを
淡くさびしくなる羊雲

抱きしめるでもなく
隣にいてくれる
私が私をゆるせないとき

いえ、脈が
ずれてゆくのがいやだから
私は私と手を繋ぎます

きみもわたしも
白夜を歩く
点滅の止まない信号機を
抱きしめて

押し込めた
感情たちを蘇生する
ため真夜中に開くサーカス

美しい残骸として直角を
いまだ抱えている包装紙

東京という狐火の絶対値

鮮やかな　街は似合わず　
指を組み
入れ子に眠る　布団を重ね

お父さんどうして僕を愛せずに

本音という音色が好きな猫がいて
ひかりに齧りつくように鳴く

哲学で都会の色を見上げれば
おれのなんにも無さが　飛行機

雪は声　あなたの元に届いては
消えて、届いて、消えてその後

ねむるまで
泣かない馬を編んでいる

冷蔵庫を漁る手とめて
寝室の死気を一口含んでねむる

ストローにもうない十二月を吸う

信じるとは、
想像力を働かせないこと
揺れるイオンの３階

しめ縄のごとき黒髪
柏手を思わず打って
「いってらっしゃい」