本屋には死角が欲しい
棄てられた文字
あつまって
蛍になるから

バリケード越え難民となる春の雪

この子だけ持ってないと
可哀想だもの
動物霊園の売店で
かざぐるまを買う

川べりまで追いかけた蜻蛉を
きっぱりとあきらめて
水筒のお茶を飲んだら
青空

手をつなぎ父を病院へつれてゆく
むかし父が
私を映画へつれていったみたいに

まだやわらかな犬の耳を
手のひらの中で何度も
何度も
座禅草のかたちにした

春光に
たましいが跳ねてるみたいな
モンキチョウ

監視下の大志

回れ右の先には
新しい景色
今歩いてきた道だけど
初めて見る景色

展覧会の絵の中は
情熱と辛抱で
ごった返していた

まばゆさを使い切ったら鳥になる

恋愛感情を密造しながら泳ぐ

ぼくには開かれない窓
未来ごと出て行った母

寒空に月を待たせる夜行バス

かたちあるものみな滅ぶ
てのひらの
雪とかぼくのてのひらだとか

コンビニで明日の朝のパンを買う
そのあとネットでミサイルを買う

春の野に支えきれない花が咲く

三つ折りのお札の顔が父に似る

内職のダンボール箱で埋まる部屋
母は何度も正の字を書く

校庭の隅の木漏れ日だけ集めて
ウスバカゲロウの翅をつくる

人形の靴が片方だけなくて
その日は一日家にいました

いつまでも等間隔の観覧車

核戦争だけが取り柄の僕ら

トランプの８が一枚足らなくて
それでも無言でババ抜きした夜

戦わない世界を勝ち取る戦い

喉仏の骨の形も知らないで
祖母と唄った
昨日までは

春雨が星になるまで歌ってる

残像のミラーボールの棲む三月

春の雪パンドラの匣振り回す

ヒトの終わりは死ではなく
春なのではないかと思わせる風

投球の肘は鋭角青嵐

花疲れもう三百年分寝な

入道雲に
吸い込まれてしまいそうな
教室にいた　赤いうわばき

指の先端より春を抱きいれて
瞳だんだん痺れる光

Amazonの奥地から
一泊二日で届くらしい
宇宙食ひと月分を待つ

冥王星のように
会えなくなる卒業

かたたたき券の「た」の数
かぞえる子

可愛いと思うと
途端にいっぱい出てくる
勿忘草みたいなの

薄ら日の作り笑いに飛花落花

草原の匂いを泳ぐようにして
獣になりたい

虹の足元あたりから
歩いて来る少年
こふ
こふ
にじの咳をして

家出のちびっこ

木の頂に
一人乗りの三日月だ

満員電車に陽がさすと
みんな
焼かれた埴輪のようだ

毛糸のような口笛が

寒空にほつれた

真夜中に
カップ麺　炒飯
分け合って
娘の指見る
まつ毛の先も

コサージュの胸を張らせる母親に
母を重ねる、ひとり、東京

無いものを数えて
あるものに気づいて
いなくなる日まで
ここにいる

春が来て時刻表が変わるように
少し歩幅を変えて歩く

定年したら地平線まで散歩する
その日来るまで近場ですます

少しだけ経度と緯度が違うだけ
それだけで
雨のようなミサイルが降る

人が爆破される衛星中継の
あと健康飲料水のCM流れる

靴底にガムつけたまま卒業

信号待ちの鳩
乾いた吐瀉物をつつく

頭を垂れながら

にわか雨、象の尻が濃ゆくなる

春の畳でのびのびと孤独

ペキンと砕ける
日に焼けた洗濯ばさみ
全ての軽さの悲しみ

あどけない
仔牛の舌を切り取って
うまいうまいと貪る我が身

遠雷は胎児の心音だったのね

曇りのち時々晴れ
劇場版では誰かが死ぬでしょう

三百年後の彗星はわたしかも

午後三時ちょうどを
おしらせする尻尾

そよ風に吹かれ丸まる
ヘ音記号

ヒヤシンス
首からほころんでゆくの

沈丁花顔の掠れた社員証

べっ甲の帆船ブローチ五月晴れ

朽ちて骨だけの階段冬の月

ネーブルの飛沫まつ毛に香ってる

僧侶らの頭蓋さまざま花祭

機械人形のソナチネ雪の果

宵闇に息継ぎしつつ電話鳴る

オルゴール音の残滴ある遅日

黄昏のチューリップ皆宙に浮く

ぬくいのにどこか冷たい蛇の舌
みたいな風が吹く
春告げて

もしもし、おとん。
俺、俺。
桜が咲いたな。
上からやと、
よう見えるやろ。

春風を太筆で呼ぶ書道塾

リヤドロの人魚目醒める春の雨

春星を金平糖と決め付ける

遅き日に
カッパ捕獲許可証を準備する
 

轆轤挽き海を象る遅き日よ

水ぬるむ橋の向こうに妻の影

鶴帰る
コインパークに「空」の文字

背かれて絵踏を春の季語と知る

絵を踏んで鶏鳴三度聞く夜明け

絵踏板咥え山犬走り去る

海底にいるかのような夜なべして

落椿残し掃き掃除する人

木蓮の膨らみ気づく母独り

ひとりで大丈夫だから
ふたりでいたい

その赤は椿ではなく目を逸らす

春の闇ぽぽと輝いてる蕾

前髪に木の芽灯して出社する

春愁アボカドの種舐めてみる

四月という燦きを読む昼下がり

大仏に春の眉毛を見せに行く

煮魚にナイフ沈める春の宵

春の燈不揃いの歯を愛でてやる

四手辛夷わたしの頬を打って散る

ダメだよな、が楽しくて
崖から落ちていくわたし

蓮根も木蓮も消えて仕舞えばいい
活字に見透かされる浅はかな私は

山笑うゆっくりバット持ち替える

春眠の階段を折りたたむ

祖母は施設に入っていった

胸のすくような
青空の
冬の終わりに

ブルーブラックインクで
こころの実験をする

空と海
母が私を打つ時に

暗いワンルーム
向かいの家の蛍光灯が
ジャムみたいに窓に滲む

またね、って
口籠るとき氷河にて
ぱきり、と割れた
熱があること。

　さびしさに
　　疲れて
　　　夕陽を
　　　　たべてみる

透明な水槽にまたことばを放流

シャーレにてぼぉと
震えるぼくの星

博物館

ぬるん、と揺らいだ骨の影
もうないはずのくじらの瞳

不知火は
モールス信号らしいのです
一千年ほど・点滅中・です

湯切りが早すぎて
堅物な焼きそばに
嫌な顔をされる

隣人の寝る時間を把握している

うどん啜る一人暮らしの真夜中は
裏面の説明書きを読んでる

体内で暴れる花を持て余し
わたしは大きなくしゃみをするの

つめたいままの浴室に座りこむ
赤カビの赤があったかい

部屋の中の退屈も
ドアの外の喧騒も嫌いだけど
窓に
風を待っている

息吸って吐く
真ん中にある
自分の空っぽ

画面で動くわたしは別人のように
醜くて
それほどわたしは
わたしを愛してる

焼きそばのお湯捨てぼこって
　　音がして、いてて
　火傷って孤独に似てる

土星の人と糸電話で話したい深夜

マフラー外せピアスで飾れ
耳たぶの旬は春だと思いませんか

人形にリボンを選ぶ百千鳥

「ペンギン」は
いつの季語か答えなさい

じんせいを
ちょっとあきらめたら
せかいが
ちょっとだけきれい

雨上がりの道端に咲く
雫蓄えるマーガレットに差し込む
日光
世界の真実とやら

春一番に気づけなくて
三月を踏みはずした

真っ暗な天井に向かい
しりとりを
子らと続ける帰省した夜

ぱぴぱぴと口を弾ける木の芽和

風船を頭につけて生きてゆく

春陰のアラベスクまた始めから

三月十四日砂場にて
炉心溶融を知る

遅すぎたんだよ、全部

小学校の卒業式
娘以外はみんな袴で
いやにはしゃいでいた娘

ゲーセンに卒業の花抱え入る

バリケード越え難民となる春の雪

きのこ
たけのこ
きのこ
たけのこ

この子だけ持ってないと
可哀想だもの
動物霊園の売店で
かざぐるまを買う

うずくまってかなしみを
卵のようにあたためる

まだやわらかな犬の耳を
手のひらの中で何度も
何度も
座禅草のかたちにした

監視下の大志

新しいシーツは
未来の匂いがした

まばゆさを使い切ったら鳥になる

恋愛感情を密造しながら泳ぐ

ぼくには開かれない窓
未来ごと出て行った母

かたちあるものみな滅ぶ
てのひらの
雪とかぼくのてのひらだとか

叱られて地下室にいる

今頃は
きっと美しい夕焼けの空

トルソーを抱えて歩く
立ち止まる交差点では丁寧に置く

二日目のカレーに生卵を割る
午後は驟雨に打たれて歩く

内職のダンボール箱で埋まる部屋
母は何度も正の字を書く

校庭の隅の木漏れ日だけ集めて
ウスバカゲロウの翅をつくる

リビングで日向ぼっこをする君が
ひかりでつくる影絵のうさぎ

一人分の白米が
いくつも綺麗に並べられた
冷凍室

遠くに聞こえる踏切の音

汗ばんだ背中にシャツが
張り付いて
ひかりが肌に溶け合う炎天

友人の訃報が届く

借りたまま返せなかった
尾崎のアルバム

喉仏の骨の形も知らないで
祖母と唄った
昨日までは

夜行バスは瞑想タイム
いつよりも深く自分に出会う

投球の肘は鋭角青嵐

入道雲に
吸い込まれてしまいそうな
教室にいた　赤いうわばき

ななこのなのはな
ななほんのなのはな
なみだとなのはな
なのはななのはきみ

ジーンズが
昼には乾き
風光る

乗客が降りて揺れてる羊羹に
似てる小田急ねむたい人たち

洗顔を忘れて布団に入ったら
夢の中でもふたえのわたし

夕暮れのチャイムに
音源は存在しない

三日月の端っこ


ほおほお
虎落笛

眩しさは
まぶたの
おもたさ

草原の匂いを泳ぐようにして
獣になりたい

俯く僕の脊髄が
すうすうと
青空になる

虹の足元あたりから
歩いて来る少年
こふ
こふ
にじの咳をして

雑居ビルの屋上にある

夏休み

満員電車に陽がさすと
みんな
焼かれた埴輪のようだ

白息に
白息の相づちをうつ

…このまま夕焼けまで歩こう

運ばれた
娘の明日
霧雨と
新幹線で
眺めた寝顔

電子マネーの音遠く
ストリートミュージシャン小雨

昭和のビルの階段は
靴の音が響いて
探偵が降りてくる

駅を降りると海のにおい
それでも
私は愛が分からない

頬杖をついて見ている君の背に
春の夕陽が乗っかっている

味のないチューインガム
噛んでいる　もうすぐ東京

にわか雨、象の尻が濃ゆくなる

ペキンと砕ける
日に焼けた洗濯ばさみ
全ての軽さの悲しみ

鍵を閉め
ようやく涙が溢れる

啓蟄のＵＦＯキャッチャー獲得口

沈丁花顔の掠れた社員証

花粉立ち昇るホルンのふくよかさ

ネーブルの飛沫まつ毛に香ってる

花冷に光る二宮金次郎

口角を上げる練習春休み

猛禽として梟の日向ぼこ

花吹雪カバの背に張りつきたがる

冬薔薇地下キッチンの皿割れる

狐の子抱くポマードの飼育員

異物を受け入れるのは知性である

火宅の人ノヴァーリス忌の菫摘む

Spring 
      has come,
今は教えぬ筆記体

銅像の波平の髪に春の雨

遅き日に
カッパ捕獲許可証を準備する
 

水温む学生寮の洗濯場

恋猫にセメダインの匂いして

ザンビア国駐日大使
鶴引く頃に任解かる

背かれて絵踏を春の季語と知る

ソーダ水今があまりにも静かで

さんしゅゆを知って
何度も声に出す

花過ぎて御社が第一志望です

桜ごち同期が二人辞めていく

春眠の階段を折りたたむ

祖母は施設に入っていった

胸のすくような
青空の
冬の終わりに

紅葉苺の花の咲く
春の入野の寂しさに
ああ
なんと夕日の近いこと

関ヶ原の戦いか
壇ノ浦の戦いか
迷ったの
後ろの女子高生が言う

優劣はない
正誤もない
ただ　俺の方が少し寂しい

彼が愛した街は
彼が去ってしまえば
なんでもない街だった

暗いワンルーム
向かいの家の蛍光灯が
ジャムみたいに窓に滲む

　うちがわのぼく
　のしらないぼく　の
　かなしげなつめ

　さびしさに
　　疲れて
　　　夕陽を
　　　　たべてみる

あのひとは
風に名前を分けたらしい
とても透明な、響きだったという

さくらを頬張る鬼に抱きつく

茹でたてのブロッコリー
想像の三倍熱い

ポン酢だけ異常に信用している

とってちってた
とってちってた
懐かしさの都

トントン拍子にポンポンポン
だんだん畑にデコポンポン

隣人の寝る時間を把握している

誰も柿の食べ頃を教えてくれない

ぽむぽむした水風船のお腹

アーモンドミルクでつくる
チャイは
簡単に夜をつくる

半熟のゆで卵付きモーニング
殻を破れば朝は明るい

平成の大合併で消え去った
住所を唱える呆けた我が祖父

うどん啜る一人暮らしの真夜中は
裏面の説明書きを読んでる

　今日の朝日は
　まんまるで
　桃太郎が
　産まれそうだった

　いいじゃない
　体育座りで
　ぽつんと
　座ってる
　日があっても

桜色の自転車と
空色の自転車が
並んで二台
停められている
図書館前

部屋の中の退屈も
ドアの外の喧騒も嫌いだけど
窓に
風を待っている

私たちの青春時代ってさ
ポジティブ信仰流行って
辛かったよね

息吸って吐く
真ん中にある
自分の空っぽ

書いて書いて書いて書いて

なくなれ！わたし！

部屋にかえると誰もいない
沈黙
、
。
あ、ぼくはいま寂しいのだ

青空を編むように
ぼくはきみが恋しい

仕事がおわった。グッドバイ東京

マフラー外せピアスで飾れ
耳たぶの旬は春だと思いませんか

人形にリボンを選ぶ百千鳥

迫り来る桜前線
ちょうどいいね、
今日の生姜焼きの味付け

「ペンギン」は
いつの季語か答えなさい

１６９センチ６２キログラム
実物大の孤独

浅漬けを朝漬けって思ってる
母の朝ははやい

料理下手だったはずの娘から
とんでもなく美味しそうな
ハンバーグの写真

ミトコンドリアがいる。
いや、いてくれる。

ゴールデンウィーク都心を
　　　　　　　　　　銀の巨魚

さくらしべふる深づめは恋を待つ

ピラフって
ちょっとした春のパレード

うつ伏せの背中にずっと猫子猫

タイマー機能でとる卒業写真

　　　　立て看板と
　　　　ぼくひとり

給湯室寂しい遅日のハンバーグ

春はきらいよ
テスターの鏡に
多分自分のような顔

本屋には死角が欲しい
棄てられた文字
あつまって
蛍になるから

魚がぼくを見るから食べられない
とフライを指差した竹内君を
きらい
と思った

寒空に月を待たせる夜行バス

内職のダンボール箱で埋まる部屋
母は何度も正の字を書く

夜空から見れば地上は明るくて
死なない程度に生きてる僕ら

束ねると春は孔雀のかたちして
あきれるほどに染まる夕暮れ

遺失物係の椅子の夏蜜柑

一人分の白米が
いくつも綺麗に並べられた
冷凍室

遠くに聞こえる踏切の音

宿題が終わらないから
布団の中で
銀河をつくる

ゆっくりと点字をなぞる
・・・　　　　・
・　　　　・・

ゆびさきに差す光

春雨が星になるまで歌ってる

飛行機に乗ってるときの心臓が
あおむらさきだかちんこちんだ

泥棒に
無農薬トマト投げつけて
婚約破棄をお知らせします

雑居ビルの屋上にある

夏休み

飛行機の離陸が

陽炎を剥ぎ取っていった

冬明けて母のうなじをじっと見る

遠雷は胎児の心音だったのね

春風に洗濯物が逆上がり

夏の影背比べして誇らしげ

三百年後の彗星はわたしかも

背の順で整列しているにぎり寿司

裏庭でひそひそ話ズッキーニ

機械人形のソナチネ雪の果

春の雨
 シュペルヴィエルを
       翻訳（やく）す夜

春めいてタイヤキくんの大脱走

日傘の人が歩いてた 午後三時

夕方のひとり歩きと春帽子

凧
　　凧
　凧

公園じゅうを駆け回る

連翹に呼ばれてひとつ前の角

春の雹行かないでって言ったのに

言い訳のようにレモンを一つ買う

名も知らない誰かに
抱かれる約束をした
冷たい水が飲みたい

窓から射すストローに似た
日差しだけを吸って
形のないものになりたい

交差点

拾ってしまった蜘蛛の糸