かきまぜた納豆の吹く泡が
わたしのかわいい生前だから

さくらしべふる夜にとおく口
　　あ、
　　　あ

ももいろの
こうふくな
孤独

春風にビニール傘が折れるから
メリーポピンズになれないままだ

遠足にいかない僕は
チョコパイをひとりじめして
五時まで眠る

春の波
くだけ
言語のように
燦

春の雪
黒板に文字のかけら

ひたすらに円描かされる春の夢

ロキソニンみたいに
痛みを和らげている
ものわすれ

蝶か桜の花びらか
見分けがつかなくて
あの子の曖昧な相槌を思い出す

血管が詰まったほうの父の足は
チューリップの茎みたいに
ひいやりとしている

納骨を終えて小雨が降る町に
いつか知らない赤い実がなる

かなしみの宿主としての
僕たちが
何度もまわる回転扉

土踏まずにすっぽりはまる
悲しみを誰もが
踏みしめて歩く毎日

ムササビに空の展開図をもらう

注射針を血管に刺す
抜くときの
閉じられる皮膚の裏の暗がり

いつもより深くソファに腰掛けて
紅茶が嫌いと言い出せなくて

水中で聞いたさよなら
。　。
　。　。
ことばにも
浮力があってだからかなしい

道端に右手の軍手が落ちていて
みんなが気付かず踏むほど黒い

僕の言葉がもっと短歌なら
君は七七のあとについてきますか

こんなにも言葉があって
僕たちは
答え合わせをして生きている

車窓から夜景を望むふりをして
前髪ばかり整える帰路

水弾くトマトみたいな
屈託のない眩しさであなたは
泣いた

牛丼をスプーンで食べる君といて
僕らの春の無数の入り口

ひらがなで四文字らしい

この星が
バナナになってしまう呪文は

魂のとなりにひとつ置いておく
黄色いヘルメットと青い夜

今朝の星占いで見た
ラッキーアイテムのやかんを
手に持ち出勤

青春の青の四画目の横線あたりに
置き去りにした希望

行列のできるラーメン屋で
恋と折り合いをつけた油増し増し

寅さんの日めくりカレンダーが
リリーのページで
二ヶ月捲られていない

まだ誰も歩いていない砂浜の
僕たちだけの重力のしるし

アール・デコの内装みたいな
面持ちで
母さんが今、家を出て行く

この夜のくびれあたりで
会いましょう
深夜は
四時から五時と定義付けます

妖精はアボカドのカに
濁点をつけて世界を歪めて遊ぶ

自分の靴が一番デカい
実家

ある容器を
水質汚濁しながら
リサイクルする

郵便局にお財布忘れたお婆さんは
郵便局で席を譲られた礼は忘れず

海で犬に会ったら
わたしの魂です、
焚き火にあてて
消してください。

さびしくて
草木にくちを塞がせたふりして
洗う 四月の食器

水浸しのシャツを海とまちがえて
抱きしめた日の風がふいてる

アシンメトリーの笑顔とさよなら
を内側にして折りたたむ四肢

冷奴　顔の形に欠けていく

はなびらの踊る路上で殺戮の
ことをしばらく忘れてました

カミソリに輪郭を確かめられる
真昼の月のような床屋で

ひとみから
さくらのはなびらながしつつ
えほんをとじる　ただいま私

真夜中に皿がジャキっと揺れ動く
せかいをほぐす猫の曲線

じっとする烏がよぎる
夕焼けがのびる脇から体温計ぬく

羊毛を思わす春の背に乗って
あねからもらうまるいあまなつ

芽キャベツの
葉の数数える
夜半の月

花弁が名前をもらえず散るように
戦地に誰のか分からない骨

プリクラのまきちゃん笑って手の
ひらにまだ居る友達やめた今でも

時間は我々をおいてってくれない

初虹を鞄に入れてしまう午後

執筆は
原稿用紙を出て
荒れた海の上まで続きます

　口笛を編んだ
　セーター
　着て
寒空
へ

あお空に血痕は、ない

ごみ収集車の中の夜

自分の瞬きが判るように
うっすらあかりをつけて寝ます

握り締める。
かわいい、レモンを。
感傷を自主生産する。

いつか死ぬけど今
じゃないから花見

カーナビの古い街から
今まだ出られないんだ
私も父も

洗剤が残り少ない
それだけで
海にかえりたくなったりもする

土砂降りで歩く
自転車では出会えなかった
小手鞠

笑顔にならない鏡を
見つめている

嵐の夜に
雨合羽を着て
魔女に会った

人生はハードモードで
目に触れた星から
順に滅ぼしてゆく

猫の恋たとえ世界が壊れても

つくしんぼ
「か行」の友になってくれ

忘れた夢の思い出し方

プルーサイドで耳の水を抜く事

コンパスで
最大限の
丸を描く
仲間外れに
された放課後

子どもが泣く
ペンキ塗りたての声で

箱庭に一本の木を置いている
困っていると言えないぼくは

針鼠裏返す春色がある

道端に凍る柔らかだったもの

キスチョコの銀紙伸ばす花疲

雨休み瘡蓋はまだ柔らかい

春雷を聴く銀色の糸通し

はじめの一歩は使う筋肉が違う

風かける　三・一四　燕描く

蝶の森にほとんど記憶のない男

一頭と数える蝶の獰猛を

土筆生える
遠き世からのうすみどり

春泥のデカルコマニー瞬間の蝶

葉桜に銀箭の降る昼下がり

夕暮れといちごの箱を
平行にしたまま帰る行為の名前

春眠の続きのように爪を切る

永遠の代わりに
ほつれゆくマフラー

見せかけの春は砕けて琥珀糖

忘れ形見　のふりをしている
プラの櫛

会いたいと
打ち込むたびに飛んでいく
真白い鳩のちいさくなく声

ねえ神様どうしてこんなに泥状の
お祈りだけがのこるのでしょうか

豆球にした部屋で夜眠ったら
夢の中には大きなあんぱん

平和で山田がアガったその時に
ミサイルが飛ぶ　音も立てずに

小雨のよう
目を覚ますと
部屋に散らばるタイピング音

冷蔵庫に
詰まっていた夢を捨て
人参を入れる

書物机のない新居
黙っていれば
この部屋は言葉を知ることもない

ひとに向けた銃口
のわけを忘れても
引き金を握っているのは私

つうかくをさしだしているにちよ
うび

満月が
首都高速の金網に
スライスされて零れる四月

レンタカー
運転席に座る息子の横顔を
盗み見る春

狐火を見に行く黒髪を束ね

花一片こころは深い深い井戸

はなみずき病院までのきつい坂

四月尽暗峠三周目

甲板に星を吐き出す初鰹

ばあちゃんのさっぱりは
サイダーのこと

ゆく春の車どこかしら半ドア

思春期の順番を待つチューリップ

明日には畳んで仕舞う絶望と
小指の爪をちょうどよく切る

ドーナツの穴から見えた鳥たちは
体温だけを信じ飛び立つ

ニュートンが
林檎を投げたときから
僕らはずっと
宝石の中

森を、日照雨の
ふっふっ、ひっ
蛇のごちそう、が、
掴む掴まない
双子の自転車

手を振って
君が
鰊を
忘れている

雪解の鴉の嘴が濡れている

ももいろの
こうふくな
孤独

理科室の壁に掛けられ枯れていく
蝶の痛みを君は知ってる

遠足にいかない僕は
チョコパイをひとりじめして
五時まで眠る

パセリ残され低く鳴るジャズ

焼釜にナン貼りつける開戦日

春の雪
黒板に文字のかけら

卯ノ花を炒り、
沸々とした浅さを
加熱することに
執心していたのだった。

本体のないワープロの
説明書をめくっている父

マリーゴールド
消毒液で黄色く染まった膝小僧

血管が詰まったほうの父の足は
チューリップの茎みたいに
ひいやりとしている

全身全霊
犬は多分
そういう愛し方しか
知らない生き物

もぎたての果実
みたいに濡れている
クラスメイトの短い襟足

男の子はお父さんと二人だと
やけに誇らしげになる
俺たち、みたいな顔をして

未来に
災害　パンデミック　戦争を
計算にいれなければ
ならない

自己紹介を
なるべく普通にしようと
努力をする

ひとびとの
ひととき
ひかる
ひととなり
ひとりひとりはさみしいひかり

納骨を終えて小雨が降る町に
いつか知らない赤い実がなる

三階から飛び降りた子が
飛び降りる前にわたしにくれた
消しゴム

あこがれはイライラさせて
追い詰める
古畑任三郎の自転車

やさぐれた犬と仲良くする
夜は年下上司の説教を浴びる

父がまた油絵を描き始めた
ぼくもまた詩を書き始める

さみしさを擬人化している
人といて
丁寧に織った折り鶴をあげる

青空をたたむみたいに
贅沢な気持ちで洗濯物をたたむ日

未知の生物のような
娘の洋服のたたみ方がわからない

つま先で触れる水面が
やわらかく
今にも雨が降りだしそうで

もう夏が遠くに透けて見えるほど
空の青さに嫉妬する朝

悲しみに折り合いをつける
折り鶴の頭を
どっちにしようか悩む

音読をした時に知る
悲しみの
余韻のような自己肯定感

転職を考えている
週末の廃れたビジネスホテルに
曙光

はちみつを垂らす
昨日の東京の夕日の密度を
思い出す

口笛を吹けば
誰かの悲しみが先回りして手を
振っている

照明の傘を綺麗に拭いていく
僕にくまなく澄み渡る夜

風のかたまりが子になる
夕暮れは
はるかなものにあこがれている

枇杷の新芽は緑銀に光り
夜の枝にろうそくとなって灯る

牛丼をスプーンで食べる君といて
僕らの春の無数の入り口

ひらがなで四文字らしい

この星が
バナナになってしまう呪文は

木洩れ日を分け合う


午後にコーヒーチケットの残りが
奇数になった

今朝の星占いで見た
ラッキーアイテムのやかんを
手に持ち出勤

行列のできるラーメン屋で
恋と折り合いをつけた油増し増し

ばらばらに降りだす雨が
太陽系一の美しい海となるとき

見られてるはずはないのに
この道を通ると
見上げる七階の

窓

ガラケーのガラが
ガラパゴスだなんて
知らずに死んでゆくとこでした

放課後の螺旋階段を駆け上がる
空の粒子を浴びる君の背

美しく見える速度で生きている

クリームソーダのバニラは溶ける

空が青すぎて僕らは
幾つもの
無駄な時間を詩に変えている

自分の靴が一番デカい
実家

やわい鯛の刺身に歯を立てて
今日をゆっくり呑み込んでいく

春の匂いがする

書く度に孤独になれる
快楽がある

わたしを斧で割って
焚き火にしてください

海で犬に会ったら
わたしの魂です、
焚き火にあてて
消してください。

さびしくて
草木にくちを塞がせたふりして
洗う 四月の食器

飛んでった
てんとう虫を探します。
バスケ部を休ませてください。

藍色の風が
いくら誘っても
ぼくは
髭を剃ったりしないよ

八朔の色に騙されて触れたとき
その冷たさにすこし驚く

プロペラがまわりだしたら長靴を
脱ぐ　ともだちの頃の匂いで

「海を見たい」は甘えの気持ち
毎日は
自分に厳しくなんて無理だし

海の横顔はときどき怖いんだ
わたしのふるさとの広い海

重たい水を
投げつけられているようだ
ハチ公前でかかとを感じて

ひとみから
さくらのはなびらながしつつ
えほんをとじる　ただいま私

点滅を繰り返すヘリコプターが
夜空にあってハッカの香り

窓枠に世界を収める作業から
解放されない、ほらまた陽光

君の言う悲しい時の空の色
校舎に茜さす金曜日

花弁が名前をもらえず散るように
戦地に誰のか分からない骨

水滴を全うできないはずなんだ
涙も雨も朝露さえも

コーヒーをスプーンで飲む弟
ぶり大根でねこまんまをする弟

「きのう食べたクッキーの
色に似ている」
と、子の指をさす先のいもむし

赤白帽で運ぶ
カラスノエンドウ

土を触っていると
断片的に記憶が戻る

御茶ノ水駅で
乗り換えする彼の
埠頭のようなベースケースよ

初虹を鞄に入れてしまう午後

　口笛を編んだ
　セーター
　着て
寒空
へ

どの一人称も慣れません

砂のお山をつくります
黒い海藻打ち寄せる
寂れた浜で

内臓ぜんぶ潮風に
なるまで
海へ叫んでしまえ

いくつもの
頭蓋骨の中にかげろう

梅雨の湿った体育館

セロリみたいに折れそうな
身体になったよと
笑うから
笑ってやったさ

犬どもの遠吠えに混じりたい晩

陽が沈むと
木々黒くして
公園は正装をする
遊びの人はみんな帰った

少年期の布団は
もうすぐ孵化をして
入道雲になる

今もタンスの上に松毬

いつか死ぬけど今
じゃないから花見

絶対にスクラッチを当てて
君を遠く　連れていって　
笑わせてみせる

カーテンの裾野を
ドレスにしてた頃
父のことはちゃんと好きだった

カーナビの古い街から
今まだ出られないんだ
私も父も

洗剤が残り少ない
それだけで
海にかえりたくなったりもする

無人駅の構内文庫に
埃被りて田山花袋『田舎教師』

防波堤ごしの夏をあつめています

お昼のサッポロ一番
胡麻の味
ずっと一人でいたい
お留守番

留守番をしていたら
ドラゴンが遊びにきて
遠くに連れて行ってくれた
春休み

菜の花の靴下を編む

ふわふわふわ
たんぽぽ綿毛

笑顔にならない鏡を
見つめている

絶滅しゆく麒麟の長い脚を
君は日が沈むまで眺めてる

濡れそぼるアヤメに傘を
差し出せば
むらさき弾くしずくの丸み

新しい傘を片手に歩く道
ツツジが曇り空にくすぶる

君といるときの沈黙心地よく
駅のベンチに降る花の雨

忘れた夢の思い出し方

プルーサイドで耳の水を抜く事

コンパスで
最大限の
丸を描く
仲間外れに
された放課後

困ったらアを選ぶような僕だから
赤点だったし、さよならだったし

針鼠裏返す春色がある

梅雨晴れの袋に入るメロンパン

水糊が冷たい祖母の和紙ちぎり

マドラーに悦んでいる炭酸水

海老そばは賑やか
エイプリルフール

いぬふぐり風より遅い一両車

退職のブーケの蕾だった薔薇

居心地は銀のスプーンに映る百合

ぷらぷらと入学式のふくらはぎ

雨休み瘡蓋はまだ柔らかい

瘡蓋を剥いで何度目かの昼寝

クランクの土筆摘みどき教習所

春雷を聴く銀色の糸通し

桜餅買うレトリーバー座らせて

透明なボールペン軸春四番

神の名を騙る朗読スイートピー

天井を寝返る軋み春の闇

青雲の背広制服下し立て

のっけから
のらりくらり
のうてんき
のうのうと
のうがきたれる

パプリカの
内に寝釈迦のゆったりと

よもぎ餅濃く児雷也の蝦蟇に似る

草餅が歪に並び意気軒昂

躓きを鏡に映す蝶の昼

鉄錆は枕木に染み蝶は発つ

燕の喉赤く山火事伝えている

燕の喉赤く他郷の水を呑む

葉桜に銀箭の降る昼下がり

コンビニのアイスを選ぶ時の
幸福がずっと傍にありますように

夕暮れといちごの箱を
平行にしたまま帰る行為の名前

この人は私が好きだと
分かっているということの
果てしない安らかさ

私の中に流れる風は
桜も散らないから
ずっとここでお昼寝しよう

枯れた水仙のしなびた黄色は
お風呂に入らなかった頭の匂い

無声映画のような曇り空
隣に立つ人の息が聞こえる
いつもと違う電車に乗る日

朝の冷たさだけが
私の輪郭を認めてくれる気がする

春眠の続きのように爪を切る

春眠が真っ白な手のなかにある

小さな亀
電気を消すと
すぐに眠たくなる

山の稜線が
くっきり見える日の
焦燥

不器用な風のふりしていまいくね

やさしさを
取りこぼさぬよう
スコップで砂場に水を運び続ける

からからの喉を
浸していくような
冷たい月をみつめて泳ぐ

アジフライが半額になるのを待つ

譲ってもらったホカホカの座席

蝸牛たくさん歩いたキラキラの
その道筋が雨を呼ぶ

豆球にした部屋で夜眠ったら
夢の中には大きなあんぱん

自炊をさせる気のない極狭の
キッチン台でネギ刻む夜

他愛ないお喋りだけが好きだった
風呂の隙間に風が鳴るとき

ぎゅう詰めの電車の中で
稲荷寿司の
お米の気持ちになって俯く

冷蔵庫に
詰まっていた夢を捨て
人参を入れる

車窓を過ぎる幼稚園に
私がいた
ひとりでも大丈夫
ひとりでもバスは乗れる

山の青　春の差し色　ピンク色
母の弁当箱　桜でんぶも

働いて帰る
待つ人のない家
夕食が纏う
熱したプラスチックの香り

カリフラワーのフラクタル
増殖していく小さな蕾
理想へと近づく
私達の中身

ロフトの黒カビ
いつかの住人の
寝息と汗の匂い

シャラシャラバンバン
大雨は窓を叩く
誰もおりませんよ
部屋は真っ暗で暖か

片想いしてたあの人の子どもを
全力で救う夢を見た

菜畑を文化財課の公用車

冴返る畑の土に混じる水

昔よく読んだ本を開いて
雨音を聴く

階段を一段飛ばせば
踊り場のプリズムきらり
夏は近いぜ

青春をこじらせ卒業できずにいる

狐火を見に行く黒髪を束ね

風船を持ってピエロとすれ違う

髪を切る鏡の中を花吹雪

入学の朝のかがやくゆで卵

放課後のくちびるに花蜜柑の香

髪を梳く鋏のはやさ桜散る

転勤の部屋を照らしているミモザ

春の雪ぽってりとしたマグカップ

はなみずき病院までのきつい坂

ベランダの周りが空だ四月尽

簪の花芯はパール花の冷え