人魚姫に戻りかねない波の花

父と花言葉でけんかする

エイリアンは
銀のスーツなんて着てない
私の古着きて今晩やってくる

夜の講堂白樺の花拾う

一番でゴールテープを切った靴
かかとのマークまだ覚えてる

人は
木から
ことばを奪い
紙に書き継ぐ

指先に
部品の金属臭

遠雷

手の
はなびらを
風の中に
もどす

黒髪が
風にたなびき
五線譜になる

命懸けなんて言葉をつかうとき
僕らは一番死から遠ざかる

沈黙とは
冷めたみそ汁の味の濃さ

新緑の景色が好きで籍を入れ

転校が決まった子は
理科室みたいに
不思議な匂いがした

もし生まれ変わって
青空なんかになったらどうしよう

雪が降るように
汚れていった父の部屋

終点に向かいし銀河鉄道を
途中下車して月曜の朝

約束のやの字もなくてはじめから
あなたにとっては石ころでした

空自身が輝いている
それを言い尽くす
勇気がなくて
ただその下で笑っている

この世界には力がある
生きてゆくことを
促すような
風が必ず吹いている

ちりちりちり
耳の奥と換気扇から
風神様のお通りらしい

ところが今日はまんまるなんだ

引っ越しの
夏に言葉を運び込む

夏めいてまた眷属になっている

晩春のきみのネイルのきらりらり
死骸になれば眼はうごかない

脳に刺青　
ぬいぐるみのかたいかたい目を
爪で鳴らしていた午後の

帰省したことを
誰にも言わないで
食べにいく青色のかき氷

幻覚で見られたものが
詩になって
刷られるまでの遠い年月

春雨はとぎれとぎれにあきらかに
うしろの森が近づいている

夜をほどいて
丸めて暖かくなったのが
朝横切る黒猫

待合室
フローリングの渦巻きに
遠い星の
超新星爆発

はるさめのさめが透明感孕む

メルちゃんの両脚
紐で縛り上げ
人魚になったと喜ぶ娘

印泥をぬたりと手に塗って写す
見てみろ生命線が長い

キエフがキーウになった夜
海岸で産卵する海亀のニュース

脱衣所の鏡に写る
脱皮したばかりの人の
身の柔らかさ

卵かけご飯に
たまご３個ぶちこむ
長男の反抗期

ハンモックきみの形になっていく

地下鉄のホームの風はきもちいな
詩と経済の私生児なのに

王冠にはねた泥が
王様を優しくしました

駅まで星座の線を引くように
ペダルをまわします
襟を整え
両輪で
街を整え

飛魚。

朝が始まった

寝室に澱むことばを掬う夜
水たまりの落ち葉の感触

この気持ちは誰のものか
わたしはからだをかりている
いつかひとつを知る

夕まぐれ
推しの証明ひっそりと
教え合ってる数学教師

透明が干されて意味になっていく
冬から届く風になびいて

夏の夜の円周率を解くために
僕らが飛び込む予定のプール

全世界の放置自転車を一尾ずつ
こたつに招いて話を聞きたい

神経はたえまなく火を伝えゆき
忘れられない放課後がある

積雪になりゆくさまの一切を
見ていた人のたましいの崖

わたくしの好きなおとこが
泣きながらツムツムをする
透明な夜

ささくれをまくれば続く物語　
わたしの夜に延長線を

唐突に詩のなりかけが降ってきて
サランラップをつよくちぎった

台所に座り込みたる母よ母
死火山みたいに微笑まないで

剥き出しのこころを
渡しあうように
知っている本屋を教え合う

３つ数えろとか言われている
間にも魂は汚れていく

キエフからキーウに呼び名変わる
間にも命は果てていく

破壊される戦車の屑を
つまらなそうに鴉が見下ろす

右ゆけば止められる恋白あやめ

時刻表の三十分の空きを見て
君と話すと決めた夜です

ナツメ灯も消すようになって
以来僕は寝るのだ毎夜
六畳の鯨の腹の中で

生垣で一輪
首を折って
立ち漕ぎの学生が素通る
そんな花と焼かれたいような

母が母にならない道もあったのだ
母になる前の母には会えない

母になる前の母にも会いたくて
母を名前で呼ぶ、母の日に

アロハシャツ首まで閉じる添乗員

仏手柑の花へ水脈なだれ込む

蜘蛛の糸皆勤賞の盾に陰

桜まだ明るいうちの店じまい

秋麗の兄をちぐちぐ舐める猫

丑三つの
　境界領域
　　紙とペン

若葉風明日を目指さぬ蝸牛

噴水の水涸れて知る昼の闇

雛罌粟は馬の蹄を染めあげて

罌粟散って無音の闇を鷲掴み

父葬りまた行き過ぎる蟻の列

罪人(つみびと)と
指差されたくレース着る

一頭の蛾に渡された鱗粉量

カーテンの裏に蛾のいる独り部屋

向日葵熱浴びて
年齢(よわい)を洗う朝

ため息は深い新緑取り込んで

足を登ってくる蟻を
許せるように
目を閉じる

かかとから私が消えてゆく浜辺

そっと打ち明けるように
夜になる

絡み合う視線で
あやとりをする私

いつかは
泥のように眠り
泥の中でそっと
目を覚ましたい

食傷気味の
きみの口もとに
白い詩を運んだ

月のため紙のボートを漕いでいく

死んだように生きたい。
幽霊みたいに漂いたい。
おともだちは、ほしい。

死んじゃえって
叫ぶくらいの衝動で
言えばよかった大切なこと

カキツバタ咲く
雨をペースト状にして食べながら

蛸茹でて朱色に染まる鍋のお湯

雲と雲
割れて日が差す
桐の花

都会から来た子が買った
富士の水
夏の濡れた岩の味がした

マーブルに焼けたケーキは妹の
一言で呪いの紋様になる

瞼閉じ
なにかがおもいだせなくて


優しい雲を眺めて眠る

振り返る
自分の顔に
大きくバツがついている

夜景を造る照明の群れ
そのひとつに
研究室でお茶を飲む僕

伝えたい気持ちがあると墨付けて
空に孤描くソデグロヅルか

スパッと切れた。白昼のうたた

母となり
每日ひたすら洗っていた
衣類と野菜とこどもの体

どうやら
すれ違うことも
巡り合せのうちらしい

ミルク溶け残って暮の春のいろ

頭蓋骨まだふにふにで春うらら

朝顔を毟り純子の下駄箱に

肉体の影の消えゆく花八手

凍死者を神と崇める猿の群

障子貼る空を浄めるように貼る

椋鳥の空ざばざばと波を打つ

地球という銀河の虫籠は回る

夜光虫もう今日帰れないと思う

蟇ずっと小雨を夫として

夏雲ぐんぐん楽勝の掛け算

階段を一段上る
明日もたぶん一段上る
きっと、泉にも着く
少し水を飲む

くりあがる筆算できず
春の鳥

占いに
ごめんなさい
と言われ
春

言葉の芯を捉えるごとく
うるいの筋をむいてゆく

五年間大事に寝かせた
会津木綿
それをこれからスカートにする

消灯の部屋でお腹を揉んでたら
土星のことを知りたくなった

友達が帰った後の飲みさしの
グラスを洗う　その日の流星

父と花言葉でけんかする

夜の講堂白樺の花拾う

交差点五月　人気のない演説

一番でゴールテープを切った靴
かかとのマークまだ覚えてる

指先に
部品の金属臭

遠雷

手の
はなびらを
風の中に
もどす

太陽めがけて
水面をかけぬける

地球には
光がみなぎっている

転校が決まった子は
理科室みたいに
不思議な匂いがした

もし生まれ変わって
青空なんかになったらどうしよう

二〇年前のミルク缶
今でもシリカゲルを保育中

ところが今日はまんまるなんだ

夢の中ではポンプの名前

夏めいてまた眷属になっている

芥子色の砂嵐の夢をまままま

雪が降る前の日の夜更けだった
（ブザーが鳴る）

期限切れの本を返しに行こうかと
思ったが雨、重力だらけ

帰省したことを
誰にも言わないで
食べにいく青色のかき氷

春雨はとぎれとぎれにあきらかに
うしろの森が近づいている

ゴミ箱にひっくり返したお弁当
埃を被ったママの玉子焼き

キエフがキーウになった夜
海岸で産卵する海亀のニュース

七千円分のコーラを押し売られ
サブウェイで往生する夢を見た

疲弊すると
海へ行く
父の遺伝子

ハンモックきみの形になっていく

ガマの中ぬける令和の夏の風

綿あめのように
くっつく姪を抱く

明日には忘れてしまう夏の星

望月のころ 花の下
戦場で
埋められていたひとたちのこと

寝室の電灯は
さあもぐらふぃっく
この距離感で
僕は眠れる

空蝉ひとつ置いてある
事務所の
無音を大きくしたら
蝉の鳴き声きこえるはずだ

青空の青の粒子が
シロナガスクジラになって
おちる可能性

飛魚。

朝が始まった

脱力に任せる放課後
蒼鉛の風
麦畑がいつもより濃く
発酵していた

願い事なんて本当は意味無いよ
星が降るのは風が吹くから

すずらんは花の中でも特に好き

窓に雨はりつけたまま電車来た　
エイの末裔になれないなんて

鬣のような背骨を震わせて
ししおどしに怯えている父は

喉奥につるつるしてるとこがある
泣きそうなのに泣けない土曜

ゆっくりと夏の吐き気に侵される
たるたるソースがたびたび怖い

トラックの横顔ふいに金魚めく　
僕らは月明かり依存症

トラックの影がわたしの足首を
貫いてゆきほのかな遅刻

神経はたえまなく火を伝えゆき
忘れられない放課後がある

積雪になりゆくさまの一切を
見ていた人のたましいの崖

唐突に詩のなりかけが降ってきて
サランラップをつよくちぎった

遠ざかる汽笛の響き佐倉炭

こんがりと焼けたあの子
おみやげを配るあいつ
少しだけ遠い
ぼくの知らない夏

寂しさが目配せしてくる教室で
便覧ばかり読んで過ごした

母になる前の母にも会いたくて
母を名前で呼ぶ、母の日に

母の日の角質ぽろぽろぽろぽろ

風薫るコアラ抱きつきやすい幹

Ｔシャツに北欧の花拡大図

アロハシャツ首まで閉じる添乗員

遠足のおやつ砕けるほど愉快

仏手柑の花へ水脈なだれ込む

桜まだ明るいうちの店じまい

白銀の火種の夜明けキャンプ場

噴水を硝子細工に戻す風

父葬りまた行き過ぎる蟻の列

誘蛾灯
暗がりで囓るモス・バーガー

どこにいても根が張れずに

今日も列車に乗る夢をみる

寂しい夜に読む詩は
いつだって雨の匂い

かかとから私が消えてゆく浜辺

テトラポットの
角砂糖のような
陰影

死んだように生きたい。
幽霊みたいに漂いたい。
おともだちは、ほしい。

生きるってちょっと
めんどくさそうだね
って笑っていたきみ
お元気ですか

ゆらゆらと
命を擦り寄せ生きている

蛸茹でて朱色に染まる鍋のお湯

雲と雲
割れて日が差す
桐の花

英単語帳の使用感で競った夏
学年一位の青木は未使用

曇りから雨に変わるの聖五月
その瞬間に香る芍薬

雨の漏る貧乏高校体育館
水の染みはもう消せないハートに

烏の影がアスファルトに濃い、
初夏、福島。

君が置いてった大きな椅子
は
配送できそうにないですよ

木が暗くなっているけど
わたしたち
まだ午前中と仮定している

日曜のスタバですること
湖の行き方ばかり調べたりする

あお色の血管をながめてると
偽物の血が流れてる気がしてくる

雨の日は内心ちょっとうかれてる
大人になっても長靴が好き

頭蓋骨まだふにふにで春うらら

粉をふく洗濯バサミ油照

金秋のコハクの卵かけご飯

木枯の丘しんしんと揺れる鐘

万引の小さな老婆クリスマス

肉体の影の消えゆく花八手

デパートの屋上オリオンの翼

障子貼る空を浄めるように貼る

短夜の雨サドルに被すレジ袋

夏雲ぐんぐん楽勝の掛け算

散髪の帰り道のグラジオラス

恋人に教えるボタン付葉月

くりあがる筆算できず
春の鳥

占いに
ごめんなさい
と言われ
春

言葉の芯を捉えるごとく
うるいの筋をむいてゆく

採血が終わって
少し気が緩み
トマトパスタをずもももと食う

ねぇ、犬くん
わたしの頚椎枕
必要ですか

中学の証明写真の私って
卒アルよりもちょっと笑顔だ

放課後のひりひりとした茜色
「転ぶときみを思い出すんだ」

消灯の部屋でお腹を揉んでたら
土星のことを知りたくなった

友達が帰った後の飲みさしの
グラスを洗う　その日の流星

不忍池の夜のほとりのテーブルで
ビールを飲んだ思い出がある

じゃらんを読むたび
終わる旅

指先に
部品の金属臭

遠雷

地元よりも大きく響く
東京の　夕方５時の音楽のこと

甘夏をむいて夜を迎える。
星の数がわかるようになった。

わすれものは
サメになって泳いだ。

教室中が
おとなしくなった。

転校が決まった子は
理科室みたいに
不思議な匂いがした

雪が降るように
汚れていった父の部屋

返信の来ない手紙はひこうきに
いずれわたしも鳥になります

朝起きてその人なりのたちつてと

誰からも愛されないから
月の夜にＣＭみたいな雲が流れた

ラクレットチーズ食む三回忌

キエフがキーウになった夜
海岸で産卵する海亀のニュース

ハンモックきみの形になっていく

春の雨ぼくと連弾しているよ

明日には忘れてしまう夏の星

美しい名前をしているきみのこと
叱る教師のありふれた指

猫になりたい
君の速さで夏休み

高橋は視力検査を放棄して
大きなものとたわむれている

夏の夜の円周率を解くために
僕らが飛び込む予定のプール

ながいながい
銀杏並木を歩きましょう
わたしのたすけてをあげるから

トラックの影がわたしの足首を
貫いてゆきほのかな遅刻

白鍵にしんと手を置く少女あり
昼休みそのうすくらがりに

うつくしく分厚い
ルールブックたち
誰にも見つからない場所に咲く

ついた嘘なかったように虹かかる

告白を早くしろとか青田風

十万年のまばたきを

その蝶々がぼくを避けていく
その　間に

銀座ウエスト皿のパセリに光る塩

罌粟の花友自裁して鉢残す

かかとから私が消えてゆく浜辺

そっと打ち明けるように
夜になる

月のため紙のボートを漕いでいく

こどもの日
とても静かな
通学路

朝が来ていじけて見えた月見草

サイダーの泡弾けたらたぶん夏

猫よけの
ペットボトルと
夏の蝶

方舟に乗って世界の果てへ行き
それでもきっとおにぎり食べたい

春の車窓　
　　光る　午後２時前の　街

シンゴウハアオダッタノニ葉鶏頭

もたれあうコスモスを
　　　　　　　　結んであげた

母さんがひじきご飯すれば五月

原付のふたり追いかけて夕立

夜光虫もう今日帰れないと思う

駅前のドライカレーと夏季講座

くりあがる筆算できず
春の鳥

首輪のない猫を抱える
長い長い影を見ていた
冬の広場で

とかげのしっぽ
ほしい
わたしがいなくなったら
かわりに
てをふっといてほしい

人魚姫に戻りかねない波の花

この髪を短く切れば
夕暮れは
マッシュルームのように優しい

地元よりも大きく響く
東京の　夕方５時の音楽のこと

そらいろや
みずいろって
どんないろ

転校が決まった子は
理科室みたいに
不思議な匂いがした

朝起きてその人なりのたちつてと

ちこく、に時計の音がある

朝が来る
萱草色に、
夢が
崩れる
萱草色に。

にんげんに化けて名字を笹舟に
くくればゆびさきから靄がかる

白菜のてろてろ愛を語らせて

終電が始発に変わるその前に
なるべく何かに追いつきたかった

みずみずしい午後だね　
君の中指を
歯茎に当てる許可をあげます

木もれ陽に影を修飾されながら、
待ち合わせ場所、どこかな、って

うつくしく分厚い
ルールブックたち
誰にも見つからない場所に咲く

台所に座り込みたる母よ母
死火山みたいに微笑まないで

ひらがなに漢字を
開いてゆくときに
とーんと抜け落ちて
いってくれる何か

微笑まれ微笑みかえす冬の日に
一神教がこちらを見てる

すぐ領収書を欲しがる
ような形だけのハグ

いわば今日は画鋲みたいな暮の春

若葉風明日を目指さぬ蝸牛

父葬りまた行き過ぎる蟻の列