思い出の亡骸をまだ抱いている

万緑


研究室のカップラーメン
お湯注がれ

恋終る日本酒にくもる切子

影絵のような
ことば
波打ち際に
居て

骨壷を揺らせばカタコトとなって
少しやわらぐわたしのいのち

きのう見たゆめ
の
話をたたみ終え
母が取り込むせんべい布団

部屋いっぱいのバナナの薫り
もうすぐ夏だね
そばかすに注意

穀雨
　アナウサギを原種とする家畜

茄子を煮る夜になっても構わない

自治会の会長による獅子舞を
見るという時間の使い方

腕相撲にしては焦げ臭くないか

シャッターの閉まった駅に
向かうとき排水溝に湯気たち昇る

カードキーだけ持って枯草を踏む

夢のあと任意にバターをぬる家族

わたあめのように
くっつく曾孫抱く

交通事故のおかげで
がんが見つかり生き延びた父

３歳の時ノンタンの絵本が
大好きで暗記してしまった娘
この春国語教師になる

不器用でみつあみの下手だった父

五月の絵馬に鈴鳴っていて嬉しい

それでも鳥　

シンメトリーは快楽と
だれかが教えてくる声がする

ハンモック今あとがきを
読むところ

欠伸、窓越しに
雨の匂い

梅雨入りを逃げて琥珀の中にいる

鳥帰る方位記号の形して

晩冬の螺旋ばかりの試し書き

「人類の敵」に人名麦の秋

竜胆の秘密を聞いてあげる役

夕凪に姉たちの舟とおざかる

朧夜の黒子が動き出しそうに

吊るし雛から川の音してきてる

拓かれてゆく太陽のさびしさと
つりあう言葉で生きてみようか

銀色のことばが降る街
わたしより
さみしいひとに憧れていた

教室は光る抜け殻
順番にあたたかくなる

おきなぐさの産毛を
少しだけ貰える
人になりたかった

深呼吸するための廃墟をさがす

朝、君は砕けば硝子になるのか

壁紙に緩めの白が選ばれた
やさしいこどもにする為の部屋

溶け出した
スープの泡をくっつけて
ハートにするのがぼくのよあそび

流されるハンドソープの残香で
鬼籍の叔母をふと思い出す

　幼き日
　ピアノの下に
　隠れて
　母の旋律を
　いつまでも、聴いた

詩を書くことと
祈ることは
似ている

知識としての言葉ではなく
祈りとしてのコトバで書きたい

胃切除後なくなったはずの
胃が痛い

一本の消化管にすぎない
あなたもわたしも

十六階から見えないこいのぼり

死ななきゃなんとかなるなんて
案外、それ、幻想かもよ

無機質な白い四角い部屋は
生死の境を曖昧にする

麻酔に落ちる時
宇宙空間にわたしはいた

お見舞いを禁止されてる
日曜はみんな等しく
ひとりぼっちだ

熱を出し早退した子が弁当を
モリモリ食べている大丈夫

死にたいって
牛乳かんてん冷やしてる

未来から来ました
銀の鹿を追って

せめて星哭きの夜は踊れよ

すりガラスみたいな夢
熱のとき見る

カーテンに洗濯ばさみすずなりの
造花のようなわたしの暮らし

風船が飛んでてほしい
平日の空の
どこにも雲がなかった

ごくたまに
迷子になりたい時があり
本屋はそれを許してくれる

雨の日の化学室の机はひんやりで
蛍光ペン（青）の匂いが滲む

夏の藍色の脱皮をする空を
さわれないペンギンが泳いでる

春が来て
つまんなそうな
コビトカバ

新しいピクトグラムがむずかしい

かたつむりどうやらサンゴ礁の夢

風薫る神社ペンだこごと願う

外乗のトランクに積む夏の鞍

水槽のくらげが何か許せない

食洗機磨く日焼の腕広げ

遠い日に祖母にもらった切手たち
祖母宛にいま舌をあてがう

幸せの象徴みたいな名前だね
あったかいとこで生きていたいね

花は葉に教会へゆく下り坂

人生に悔いないようにマスターが
休憩中に描く細密画

コンタクトレンズの眩しさを知る

網膜を焼かれるような痛みから
あなたは遠くたぶん優しい

赤ワインみたいな夜の荒川を
ぼくだけが立ち止まって見てた

ここは森オートロックのはやい森

もう少し青信号が多ければ
短歌なんていらない人生だった

作文の空白にわたあめ詰め込んだ

担任の
黄色の服で
春が来る新学期

パキラ、独身、海
光合成中の窓辺だと思う

追いかける君の靴音夏帽子

熱帯夜テレビつけたらホームラン

せせらぎはコードのFか夏の川

忘れたい一夜の記憶月見草

挨拶は新車の匂い梅雨の月

こどもの日柱のキズは離婚前

ＬＧＢＴＱ夏風吹けば逆さ虹

月と櫛欠ける夜もある晶子の忌

＊与謝野晶子忌
　　　＝白桜忌　５月２９日

四合も炊いて全てをおにぎりに
していいですか春は寂しい

忘れてくれるよ
ことばなら
とおくへ放って
海を交わして

つま先で揺られる電車
街の底、
化石みたいにひかっています

くらがりに
鋭いリズムでわたしたち
闊歩するのだほしより強く

銀色のことばが降る街
わたしより
さみしいひとに憧れていた

教室は光る抜け殻
順番にあたたかくなる

方程式、
消えないでいられる気がする

金曜の進学塾で諦めを
説かれる間
月が優しい

　キャベツ畑の
　トラックから
　５月のサザンが
　きこえた。

　新しいが
　馴染むまで
　ひたすら
　雨の音を聴こうと思った。

ぽーんぷゆ
めってめけいてめけもれば
うたは
あなたによまれているよ

日向夏をわすれる
息をわすれる

短歌誌に自分の名前が無いことの
ベンチにコーヒーが冷めていく

ふるる。息を詰めていても。
ほたる。目を閉じていても。

梅雨のにおいがする
遠くの草原が波打って
わたしに達したときに
風になる

Samenの単位について考えて
（滴）と決めたから傘を閉じる

雨の日の化学室の机はひんやりで
蛍光ペン（青）の匂いが滲む

口つぐみ一匙崩す夏氷

自分を見失ったとき
リモコンみたいに探した

たいようこうぱねるが
さつきばれを
たべつくしてしまいました。

風が強くて工事現場がひかりだす

指一本ぐらいで潰れちゃうぐらい
今日の私はさくらんぼです

この国の余白に住んでさえいれば

棺　火を絶やさないための伐採

尻尾生やされて地球規模の生

狂うにはみずみずしすぎる通学路

骨壷を揺らせばカタコトとなって
少しやわらぐわたしのいのち

きのう見たゆめ
の
話をたたみ終え
母が取り込むせんべい布団

胸に耳をあてれば君を遠くまで
追いやろうとする海の轟き

準備と片付けはセット
あたりまえと覚えないまま
還暦を迎える幸せな人

春の坂のぼればのぼるだけ伸びる

茄子を煮る夜になっても構わない

春はあけぼのって鏡の全盛期

合歓の葉は
なにがしたくて揺れている

自治会の会長による獅子舞を
見るという時間の使い方

腕相撲にしては焦げ臭くないか

もういちど偽の愛知に連れてって

遮断機の間際に立っていることは
ぼくを読みとく情報じゃない

少なくとも一般人からすれば多分
全てがサラダ記念日の焼き増し

夏祭りくじ引きいつもヒヨコ出る

わたあめのように
くっつく曾孫抱く

不器用でみつあみの下手だった父

ソクラテス君つまり
目は実は
内向きの鏡だったって話よね

その犀は売りものですが
うるわしく歴史に寄りそうほうの
ひかりです

糾うという意を知らず
禍福とは
空より降りてくる紙のよう

思いきり
僕らをふりかぶってほしい　
そのまま空を噛む鳥になる

肋骨に隠した絵文字アマリリス

ハンモック今あとがきを
読むところ

うずまきのはじまりに立つ
悩むのは悩む力があると言われて

化石は春のぬかるみのなんやかや

卵から生まれてやどかりの裸

鳥帰る方位記号の形して

晩冬の螺旋ばかりの試し書き

「人類の敵」に人名麦の秋

夏畑ジャンヌ・ダルクの母は生き

竜胆の秘密を聞いてあげる役

ぶらんこを乗り捨てた人
  Era de Maggio
（五月だった）

こどもの日柱のキズは離婚前

二の腕に虹浮かびでる献血車

木霊（こだま）みな朽木に集う
万緑裡 

未明の忌水琴窟に棲む人魚

夕凪に姉たちの舟とおざかる

あれは嘘、これは本当、実は嘘
家庭用ビデオはとっくに
捨てました

遠い夜出来るだけ遠くに投げて
誰が取っても苦しいキスです

遠くまで行くよ私は
猫背でも猫背でなくても
上は向けるし

瞼のうら、熱く光って
きみがまだ
私のなかを泳ぐあいだに。

生きていることは幻
わたしたち、
いのちを器用に
はんぶんこして。

溶け出した
スープの泡をくっつけて
ハートにするのがぼくのよあそび

魅せられて事務所で見かけた
その文字の
癖を深夜に真似てから寝る

魂の眠るところはどこですか
案外目のよな気がしませんか

知識としての言葉ではなく
祈りとしてのコトバで書きたい

真面目だね、いい意味で
って付け足されても
やっぱり少し傷ついている

無機質な白い四角い部屋は
生死の境を曖昧にする

お見舞いを禁止されてる
日曜はみんな等しく
ひとりぼっちだ

さみしいから
あなたを探していた
あなた
というのは例えば公園の木のこと

引きちぎったカレンダーから
腹を裂かれた
内臓のように日々が落ちていった

カーテンに洗濯ばさみすずなりの
造花のようなわたしの暮らし

スカートに花を集める君を見て
死ぬのをちょっと躊躇いたいね

英字型マカロニ掬い
HARUとする

君の前では
深海魚である振りをして
退化している振りばかりして

いくつかの恋にならなかったもの
かき集めても、
はちみつこわい

恋は目隠し
木肌の裏のヤモリかなんかを
ひっかきまわす
それはまた畏れ多くて

ラッピングの最後に
リボンを添え付けるように
あなたは話を終える

飴玉のように
あなたのさよならを
転がして
たまに歯を当ててみる

さくらちる鳥居の前に佇んで
夜風にフード飛ばされたこと

湖のたっぷりとした水少し
傾いている地球に沿って

黒猫を見つけ機嫌を直す子を
避けて黒猫不機嫌になる

闇雲に振り回す手に触れたそれ
が何であれどゆく地獄でも

受動喫煙防止にご協力を
間怠っこしい吸うなって書け

たいようこうぱねるが
さつきばれを
たべつくしてしまいました。

口の形を知っているさくらんぼ

コンビニの肉まん買って
話したい
未来のことと
今からのこと

人をまだ
諦めないでいる
油彩絵の具で汚す服

搦手はまだ青空に鳴りそうだ

棺　火を絶やさないための伐採

尻尾生やされて地球規模の生

馬を売る　食事の前の祈りとは

骨壷を揺らせばカタコトとなって
少しやわらぐわたしのいのち

胸に耳をあてれば君を遠くまで
追いやろうとする海の轟き

春の坂のぼればのぼるだけ伸びる

凍らせておいた総選挙はどこだ

姫路城あたしなんにもしたくない

きみはなんにもわるくない船

ぬるま湯の蛸に数字を振りすぎる

正直がもっとも価値をもつ砂漠

自治会の会長による獅子舞を
見るという時間の使い方

説明がたりないしかし蟹ずくめ

ここは森オートロックのはやい森

きのうまで稲妻だったキリンたち

紙粘土でつくられたぼくの

ひび割れにオロナインを
塗り込む　母の指の皺

漱ぐ　言葉貧しくして光れ

五月の絵馬に鈴鳴っていて嬉しい

ふっくらと熱を帯びたる髪の毛の
きみに暗喩を疑われてる

袖を引くことしか出来ず　
あふれくる雨の畑に植える劣情

淀みとは
ぼくがあなたに手を引かれ
背中に回されるときの息

糾うという意を知らず
禍福とは
空より降りてくる紙のよう

前髪を切れば
狂人みたいだと言われる　
それが花束の夜

熱帯夜テレビつけたらホームラン

会いたくない人が
たくさんいる場所に向かう
台風中継みたいに

化石は春のぬかるみのなんやかや

梅雨入りを逃げて琥珀の中にいる

ふあんふあん赤色灯が炎天下

豊の秋痛む臓器のかたちして

あれは嘘、これは本当、実は嘘
家庭用ビデオはとっくに
捨てました

春の風邪烏の腹筋考える

くぐもった朝陽の昇る音
いつか、
誰かのことばで思い出したい

つま先で揺られる電車
街の底、
化石みたいにひかっています

まだたましいに
ならないところがかゆい

生きてること綴じこめても
つめたい、
ひかりを咬む

魂の眠るところはどこですか
案外目のよな気がしませんか

　幼き日
　ピアノの下に
　隠れて
　母の旋律を
　いつまでも、聴いた

子音ばっかり
産めないひとの背を抱けば
「はと」も解けて
「あお」と棲むまち

病院のベッド
右手で毛むくじゃらを探して
冷たい柵に手が当たる

食べ物が通過できない食道は
名前負けした子供のようだ

よだかが飛び立つ
六畳一間の
わたしの胸から

ここはかつて
水田があった場所
誰かを待っているように
辺りは張りつめている

春服を猫の陣地にされて昼

　　（サウナキー）
サウナを盗むやつがいて、
私達が、私達は、正しい。

恋をして
どうにもならなくなったとき
突如現るヘブライ語教室

とんできたわたげをよけた。
よけてしまった。

風薫る神社ペンだこごと願う

指にかみついて　しかられた。
ボクはいつもそいつの
背後を狙ってた

こきょうって言葉が好きよ
花みたい
明日あなたは廃園へ帰る

重なった雲が競って叫ぶこと

雨の総てで教わる崖路

夏草の精の匂いにあてられて

電波塔つかまえたかった十五歳
忘れて今はスマホばかり見た

風死んで不動のテトラポットたち

脱皮なんてしなければよかった

芝犬が血の色をした舌を垂れ
風に遊ばす日照りの夕べ

夕闇に尨犬に似た猪が
川縁の土手東へ走る

生活が折り重なって街になり
折れ重なってできてく地層

喋らない君の姿を知らぬまま
ひとのすがたになるのだろうか

人をまだ
諦めないでいる
油彩絵の具で汚す服

ぶんどってやるか　氷の二画目を

四択をすべて外して出る改札

渚には留まれない　鎮魂歌の練習

火を失う　選んだ紐は離せない

弔い　みえなくなるまでする拡大

耳がいいあなたは海に辿り着く

看護婦が見せる笑顔のぜんぶ襞
遠くの痛みをひろい上げては

そろそろぞろぞろ
ストライプＴシャツ
スプライトとかしわ餅
タオル忘れた

穀雨
　アナウサギを原種とする家畜

きみはなんにもわるくない船

ぬるま湯の蛸に数字を振りすぎる

お汁粉に似ている方がひだりうで

正直にぶらさがる釣り竿はどこ

海風がくるから釘を打つ派かい？

春はあけぼのって鏡の全盛期

正直がもっとも価値をもつ砂漠

腕相撲にしては焦げ臭くないか

もういちど偽の愛知に連れてって

遮断機の間際に立っていることは
ぼくを読みとく情報じゃない

少子化を止めたい街で、
ひび割れた唇たちをもてあそぶ雪

喪服で三家族あるエレベーター

同居人ふたりに腕立て伏せをさせ
ぼくは繰り返すだけの植物

磊落な晴れを
呼び込むひとがきみ。
料理が好きでおたまで殴る

ベランダに出たことがなく  
水タバコくわえるひとは
いとしいだろう

だいだいの照明のひと
苦しんでいるようだった　
箱だけの日々

それでも鳥　

シンメトリーは快楽と
だれかが教えてくる声がする

憧憬を世界に向けて放ってる
一味か七味か分からないまま

怒られてしまえと思う　
いつ見ても
空いてる踏切だったものだし

その犀は売りものですが
うるわしく歴史に寄りそうほうの
ひかりです

前髪を切れば
狂人みたいだと言われる　
それが花束の夜

名前からいきものになる
立ち上がる影に問いかけながら
走った

思いきり
僕らをふりかぶってほしい　
そのまま空を噛む鳥になる

部分点
あつめて風に返すとき
君の泡立つような襟足

さよならのらが聞こえない走馬灯

会いたくない人が
たくさんいる場所に向かう
台風中継みたいに

うずまきのはじまりに立つ
悩むのは悩む力があると言われて

古生物撫でられている花の冷え

「人類の敵」に人名麦の秋

みなみかぜ胸に緑の導火線

四合も炊いて全てをおにぎりに
していいですか春は寂しい

あれは嘘、これは本当、実は嘘
家庭用ビデオはとっくに
捨てました

春の風邪烏の腹筋考える

吊るし雛から川の音してきてる

月よりも青いなにかに負けてたい