馬鈴薯の芽を丁寧に削りとる
生きてく理由もさほどないのに

痛みが身体の輪郭を
つまびらかにする
泰山木強引にひらく

鉄琴の余韻のように春の雪

死が光であった頃
心臓のような檸檬を絞った

別れ話の車内
ラジオから
サンバのリズム

レタス剥くモザンビークの死亡率

叶わない夢の方の夢ばかり見る

いつまでもホモサピエンスでは
いられない
明るい洞窟にも影はある

くるぶしの
淡いひかりを抱き寄せて
聖書のように  ねむるいもうと

まみどりのひかりに溺れながら往
く理学部棟の床やわらかい

くるしみに
食べられそうな夜
に聴く
こぶねのようなあなたの寝息

ふきげんなわたしに
蝶としてふれる
きみは ほころぶことのない風

きみが吐く
息のすべてを詩に変えて
しろいひばなのような夜明けだ

春暮れてふくろうに囲まれている

足あとの付かない森に来てしまう

沈黙を濾すティーパック。
蟹の泡ほどの句点で
会話してます。

昼寝覚　墜落を経た蝶として

しーん　　鼓膜に雪国の気配

二十億光年という他人事

明日には忘れる会話えごの花

五月闇自意識という楕円形

納骨を終えて氷菓にミントの葉

父の日よ父なく生まれ祖父となる

犬に頭を嗅がれて起きる夏休み

少年よ
我が家の窓を
壊しておくれ

ここは平和になりすぎた街

支配される欲望の水銀めいて
夏の演劇に不必要な感情

六月の午前三時の砂浜に
陶器のようなわたしがいます

リラ冷えの水道水を透かす午後

冷蔵庫の音が宇宙に鳴っている

島の名の診療船に大西日

ダンゴムシ迷路
突如として
祭

万緑と茶色い子犬の匂いが好き

限りなく秘密に近い駅長室

生まれる前
私の名前を嫌がった
祖父の背中を

覚えていたい

そばかすはきりんの名残
ソーダ水

局員は
ボクの郵便はかったり
ボクの身長はかったりした

しぼんでる風船
なんもない夏日

背きたいぼく
白樺の夏木陰

ベネチアングラスの花瓶夏の朝

ピアノって冷たい海だって思う

逢わないことがふつうになって
ポプラ並木に影がある夜

南部鉄器の風鈴だれもいない家

レアチーズケーキの箱の半夏生

悪口に楽しくなってかき氷

にんじんのワッペンを縫う
子ができる

感情をすべて殺した閉め方で
二十五社目の御社を去った

女王にもみんな他人の夜がある

日曜日。
ひとりのレモンアイスティー。
自分はすでに壮年らしい。

街じゅうの影をあつめて
さよならの
記憶をいちばん眩くさせる

狐雨　
嘘ににおいのあることを
知らないひとの枕を干せば

濡れ髪で落ちる夕日を見る土曜
旅するように暮らしたいんだ

瞼のないロボットだけで
生殖をくりかえすなら
みつめあうなら

風の寝姿が砂丘と知った日の
六時間目の鉄琴の音

筆圧は花びらの跡　
会えたね、と
風を言祝ぐ銀のハモニカ

永遠の蕾のままで空をゆく
気球は燃える花芯を包む

葡萄は夜の卵

どうせまた雪ふるんだろ


ちゅっ

ロッカーに充満しては
新牛蒡

お義母さん
私を忘れて
いいんだよ

舌先で口内炎を撫でる
この子もいつかいなくなる

座席下見れば一昨年の広島

海はつやめく巻貝のなかにあり
ときどき耳がずぶぬれになる

さらさらと風に言葉を囁いて
木々はしずかな炎のかたち

うまく眠れないたましい達が行く
夜の向こうのラベンダー園

この先で傷つくことも受け入れて
雨の日に行くローズガーデン 

花びらで棺を満たすための旅

重なったままの感情を畳んで
手紙に薔薇の封蝋をする 

私と電話する暇もない母から送ら
れてくる子ウサギの動画

罪
　　鋏
最後の手紙
　　青胡桃

東京に夏の月から濡れてゆく

傷つけないためにつく噓ねむの花

喪失を語る
傘なら二本ある

せう、をしょう、
そう読むように祖母のこと
ばあちゃんと呼び二人だけ夏

眠れない夜は卵焼き
くつくつと焼けば
くつくつ音がしている

パステルの夢の妹浮いて来い

夕焼がきれい明日から産休

初めて焼いたパンケーキは狐色

文庫版 ｢あらしのよるに｣
夕日影
隣の夕飯はカレーらしい

自販機の雨にざらつく夏の蝶

おくるみを洗う　乾かす　畳む　
ただ捨てるためだけに美しくする

青信号全て渡って神社着く

花水木　くちなし
夜、白い花に別の顔がある
出かける気配を察して揺れる

同棲初日素足でつくるオムライス

食パンを朝のかたちに切る短夜

「雨が降っています」
二度言うラジオ沖縄忌

感情に飽きて火鉢の静けさよ

春の駅ピアノ弾けたらよかったな

バイパスにつどう風あり花すすき

喉仏の影をくっきり描く薄暮

なんでもない日に
クラッカーを鳴らすとき
私のいのちはわずかに浮いて

「スタバができたらいいのにね」
自転車押して夏の雲

そうよ、母さんも長めに見積もる

薫風やハーブソルトの粒透けて

南風吹くナンの脂で濡れた指

夏めいて涙袋にちょんとラメ

沙羅の花それが夢だと気づくまで

陽のあたるときだけゆれる波の花

腕時計から愚痴がこぼれて

スカートが吊されていて腥い

ふくふくと息を吹き込むその頬を
見たくて五秒怒らずにいる

挨拶だったさよならは
心で唱える呪文になった

かたばみの花平日の靴はこれ

説くほどの哲学もなく粽解く

雪解光の結晶としてあなたの手

鉄琴の余韻のように春の雪

死が光であった頃
心臓のような檸檬を絞った

生卵上手く割れずに夏が来る

本音だけ小さく丸めて祖母になる

くるぶしの
淡いひかりを抱き寄せて
聖書のように  ねむるいもうと

まみどりのひかりに溺れながら往
く理学部棟の床やわらかい

うみかぜのはどう
を
頬に受けながら
火としてしんでしまいたい だけ

くるしみに
食べられそうな夜
に聴く
こぶねのようなあなたの寝息

ふきげんなわたしに
蝶としてふれる
きみは ほころぶことのない風

きみが吐く
息のすべてを詩に変えて
しろいひばなのような夜明けだ

シマウマは海に紛れてみたかった

足あとの付かない森に来てしまう

ぴゆるんとミルキーだった春の水

入口でポーズだけ取るこの時期の
わたしはわたしじゃないみたい

五月闇自意識という楕円形

納骨を終えて氷菓にミントの葉

瞼の奥だけで冴え渡っていて
目をひらくとこぼれるの、海

星を読むことと貴方をなぞること
すこし似ていて、よく眠れそう

食べるから食べられるから
ここは海

遺書を書く手は必ずふるえる
冬のはな

ひつじのこと
ねこと呼ぶのは
ここじゃない友達といるとき
夕まぐれ

六月の午前三時の砂浜に
陶器のようなわたしがいます

リラ冷えの水道水を透かす午後

番号で呼ばれる精神科の金魚

限りなく秘密に近い駅長室

そばかすはきりんの名残
ソーダ水

ベネチアングラスの花瓶夏の朝

ピアノって冷たい海だって思う

包丁を貸し借りしても涼しい星

レアチーズケーキの箱の半夏生

ぼんやりと鏡になりかけの窓が
すこしやさしいせかいを映す

しろい羽、プラスチックか
春の街

六月のト音記号がツノを出す

父の日に墓参る背の丸い父

瑠璃いろの
ゆびさきに這う葉脈を
すきとおる、
ひかりだけが糧です

地下鉄でこくこくねむる
みなさんのほうが海です
いま、波間です

風の寝姿が砂丘と知った日の
六時間目の鉄琴の音

ベランダで母が煙草をもみ消して
蛍の焼ける音が聴こえた

葡萄は夜の卵

こんな日は
トビウオになって
うみの あお も
そらの あお も
知りたい

レモン水
人体模型にさらり。

さくらんぼ濁音の熱に溶けゆく

紫陽花の一粒一粒に集まる光

あの人のうつくしいくろ雨の中
話すことはないと知っていた

さらさらと風に言葉を囁いて
木々はしずかな炎のかたち

私たちは信じることが得意で
だからいつまでも
かき氷のシロップはきれい

母がいないと狭くなる
B1の食品売り場で牛乳を買う

東京に夏の月から濡れてゆく

パステルの夢の妹浮いて来い

テトリスのような家族の夏休み

性別を隠して理科室のめだか

夕焼がきれい明日から産休

そそくさと献血カーを降りる夏

自販機の灯りがこわい
夕みぞれ

文庫版 ｢あらしのよるに｣
夕日影
隣の夕飯はカレーらしい

自販機の雨にざらつく夏の蝶

かかくくく
今日のみじん切りの音

動物園特に語らうこともなく
ソフトクリームが丸みを帯びた

キッチンの床でふたつの膝を見る
今日を終えずにまだ膝を見る

アイという英語の魅力を知る君は
ミックスティーを夕暮れに買う

同棲初日素足でつくるオムライス

食パンを朝のかたちに切る短夜

蚊を殺め自動蛇口に差し出す手

プール潜って
スローモーションごっこ

プールサイドで飲む水に味がない

春の駅ピアノ弾けたらよかったな

七月のぼくらはダサいシャボン玉

雨予報　降られず家に着いたとき
わたしに残るかみさまの部分

なんでもない日に
クラッカーを鳴らすとき
私のいのちはわずかに浮いて

「スタバができたらいいのにね」
自転車押して夏の雲

切りたての光を晒しかすていら

紫陽花の小さな部屋をたしかめて

夏服のとてもきれいなよごれかた

陽のあたるときだけゆれる波の花

洗濯機の音鳴りやんでから
蓋開ける
ちゃんと話を聴くみたいに

馬鈴薯の芽を丁寧に削りとる
生きてく理由もさほどないのに

階段を登る足が
絡まって動けなくなる
浜昼顔の群生の
上で踊っていたかった

当事者にはもう届かない
キャッチボールを波とする

痛みが身体の輪郭を
つまびらかにする
泰山木強引にひらく

薄暑なり献血の血を移す音

鉄琴の余韻のように春の雪

本音だけ小さく丸めて祖母になる

はなうたを紡ぐ
ことり
を
閉じ込めて
銀河 に 溺死 してしまおうか

雨の形
コップが倒れる
予感
のど

どこへでもいける気がした
その「どこ」は
僕らの無知の明るいしるし

沈黙を濾すティーパック。
蟹の泡ほどの句点で
会話してます。

蝶も蛾も行き止まりなら回れ右

しーん　　鼓膜に雪国の気配

溶けてゆくようにうたた寝雨蛙

納骨を終えて氷菓にミントの葉

犬に頭を嗅がれて起きる夏休み

プレイバックフラッシュバック
また息をする夏

だってあの坂は静かに裂けていた

田園に細くたなびく灯の遠く
駅の機能のひとつだろうね

椿象が集まる外灯を
無視できない一方
鳥たちは
未だ
西暦を数えられずにいる

局員は
ボクの郵便はかったり
ボクの身長はかったりした

逢わないことがふつうになって
ポプラ並木に影がある夜

Alexaに
YouTubeかけないでって
言って却ってゴリ押しされる

猛毒のビタミンＣで
おめえら皆んな死ぬんだぜ
って
あのダムスが言ってた

病院の匂いが嫌い 死の匂い
たまごボーロ グミ
コンロ カステラ

とても駄目、駄目だと思う
紫陽花のおのおのの放心を眺めて

日曜日。
ひとりのレモンアイスティー。
自分はすでに壮年らしい。

まだ固い桃のもも色　約束を
おそれていないひとの目の色

地下を這う東京
群れて列なして働く
そうか蟻だったのか

声にでもなったとしても
きみだから
うつくしい着水ですね、もう

つみあげた失敗で
ジェンガをしている
あなたが泣きやまないのに
　夜が、

変化を嘆き
進化を悩む
幻の夢を見る　うさぎ
前にしか跳べない、と

葡萄は夜の卵

落ちている不安を何発か込めては
夕陽を狙い撃てずに前進

遠汽笛　雪が視界をなめらかに
すれば視界に進める気がした

水琴窟みたいな君の独り言

死ぬ時は、死にますと
叩く時は、叩きますと
そういってね、父さん母さん

毎日以上しかられるの

言の葉の端々に置く花束は
貴方のことを知りたい合図

せう、をしょう、
そう読むように祖母のこと
ばあちゃんと呼び二人だけ夏

炎昼のおむつケーキが崩れ出す

喰われた葉っぱ虫になる
喰われた葉っぱ鳥になる
喰われた葉っぱ人になる

飛び越えられる柵を
飛び越えようなんてしたら
自分も皆んなも止めるだろう

同棲初日素足でつくるオムライス

跳び箱を跳んだら初夏の最後尾

「雨が降っています」
二度言うラジオ沖縄忌

感情に飽きて火鉢の静けさよ

のうぜんの散りつつ書かれ今を今

切りたての光を晒しかすていら

ともすれば金魚が胸を食い破る

日は暮れる窓から烏賊を眺めても

そうよ、母さんも長めに見積もる

私の子は私の未来
私の子は私の過去
それに喜びそれに苛立つ

三つ編みを辿ってゆけば山滴る

夏服のとてもきれいなよごれかた

天井を妹が這う夏の音

ふくふくと息を吹き込むその頬を
見たくて五秒怒らずにいる

あなたが居るだけで幸せ。
それなら僕の居る意味はない。

聞く
楽しい卑屈
懐かしいあなたの歪み
これは耳
聞けばよかった、そう思う

ダイコンの花ちぱちぱと可哀そう

最後にはみんなで魔法だと気づく
こんなに勉強してきたのに

風船の傷きみと開きあうとき嬉々

雨の朝の視界に麦茶溢れゆく

星を読むことと貴方をなぞること
すこし似ていて、よく眠れそう

ひつじのこと
ねこと呼ぶのは
ここじゃない友達といるとき
夕まぐれ

くもを殺して
くもの巣が古くなる前に嫁ぐ

初恋は投げられるために球形

ぼんやりと鏡になりかけの窓が
すこしやさしいせかいを映す

希望とは強姦魔の思想

想像の娘に着せる自意識は
白いドレスの形をしている

鉄棒の雨粒にみんなの地獄

花嫁を束ねては火にくべる村

とても駄目、駄目だと思う
紫陽花のおのおのの放心を眺めて

濡れ髪で落ちる夕日を見る土曜
旅するように暮らしたいんだ

地下鉄でこくこくねむる
みなさんのほうが海です
いま、波間です

青空は誰かが正解したパズル

壊れてる体をのせた
ハイヒール
かわいいおもちゃは
あたしのものだ

長靴を代わりに履いてあげようか
ひと足先に紫陽花を見に

水筒は人の生き血をすすってる

かかくくく
今日のみじん切りの音

感情に飽きて火鉢の静けさよ

繰り返しちいさい水族館に行く
館内図として思い起こして

雨予報　降られず家に着いたとき
わたしに残るかみさまの部分

川面からのびる電灯
ぎるぎると
吾のいのちを煽り続ける

落ちる蛍と鳩時計
照らし鳴いても、先は見えない

物干しにまだ温かい密航者

いずれ来るさいはて用の銀食器

洗濯機の音鳴りやんでから
蓋開ける
ちゃんと話を聴くみたいに

おしゃれカフェ
悪口の味のするアイス

落ちまいと必死の真珠の耳飾り

階段を登る足が
絡まって動けなくなる
浜昼顔の群生の
上で踊っていたかった

薄暑なり献血の血を移す音

鉄琴の余韻のように春の雪

いつまでもホモサピエンスでは
いられない
明るい洞窟にも影はある

憂うつなときだけ
小さな滝として
手回し式のオルゴール

にっぽんの代表的な植物の
あなたになんでもしてあげたいな

この四肢を移動させられない森か

きみが想像できるプリーツ
じゃない

田園に細くたなびく灯の遠く
駅の機能のひとつだろうね

支配される欲望の水銀めいて
夏の演劇に不必要な感情

唇のソテーに挽歌を歌わせる

花冷えて
黄色い線の外側へ

働いて、僕ら木製　あめんぼう

あれは俺が点けた電気　あっちは
勝手に点いていつまでも
光ってる電気

海外のデオドラントの無香料は
無じゃないもうなにも怖くない

レアチーズケーキの箱の半夏生