その猫は
生まれて初めて
蟋蟀を見る
止まったままの
ソーシャルディスタンス

九十歳のおじいさん
「いやあ四十肩に
なっちゃって」
と半世紀さばよむ

昭和三年広島生
原爆の話
「もう思い出せない」
と思い出さないように話す

江ノ電に乗るを
江の島に乗ると言ったら
急に話が
コロンブス

紙相撲に興じる



かわいく死んじゃった

シャーペンの
シャーは昨日も聞きました。

平和でもロケット団を倒したい

人の優しさに
触れたら死にたくなる
雲とまじって
消える飛行機

好きな歌を
君に教えてしまうとき
窓を開いて聞く風の音

夜泣き声
耳で弾いて
眠る猫

日本じゃない音がするエアコン

俺だけの体じゃなくなっていく
徐々に
オセロはカドをとるのが重要

わたしのことば
あなたのこころ
だれかのからだ
どこかへいこう
ここもどこかさ

秋燕棺に煙草入れて去る

神を信じずかき氷崩してる

大輪の向日葵の花が
好きなのに
花言葉みたら

「ニセの金持ち」

街明かり煌めき眺める十四階
空の飛び方知りたい深夜

　　　　　　夜
　　　　　　う
　　　　　　這
　　　　　　を
　　　　　　底

虫　金魚　ハムスター
墓は大概　アイスの棒


夏休みとともに忘れられる

ステータスは
カブトムシだった
夏休み

花見がない春
祭りがない夏
仕事もないけど
税金はくる

わたしがいなくても
日は昇り朝刊も来て
家族は全く飢えていない

贅肉も金
荷物も金
全部無駄遣いという母

わたしはゆとりが好き。

夏休み
人間休んだ人がいる

早い時間に
もやしが売り切れている

それは世間様も懐が
寂しいときなのだ

口に張り付いている
よっこいしょとか
とりあえずとか
歯磨きしても取れない

大草原でのひとりより
集団の中のひとりきり

より深く寂しいひとり

斜めに突き刺さった私が取れない

いつもと逆の電車に乗るのと、

飛び込むのとの勇気の違い

紙を丸めて
NEVERKNOWSBEST
て書いて火をつける。
意味ないよね

己が優しさを
信じぬ人の優しさが
絞り出させた絶叫

柔らかい時計
追いかけない仲間
踊らない椅子
赤いクレヨン

欲求を欲求であると
学ぶまでにあった
たしか苦痛にあふれた世界

不織布の下で静かに深呼吸

口裂け女とバレはしないか

友人と云うには遠い人の自死

音だけの花火をきいて迎え盆

「一人でも生きていけそう」
なんていう
死刑宣告、笑ってしないで。

汗なのか涙なのかも わからない
いいよどうせ 風呂にも入るし

茨道だとは思っていたけれど
あたし裸足だと思ってなかった

「カップ焼きそば」を
「煮そば」と言うやつを
地獄に落とす仕事をしている

秒針の音整える春の雨

解いた折り鶴を戻せなくなる

鉛筆の影定まらぬ木の芽晴

生きる
僕が死ぬことで
生まれるおばけのために

今宵の月が誘うので
行こうぜコインランドリー

空気読んでるうちに
言いたいこと
味海苔みたいに
上顎に貼りついちゃったの

久しぶり
と五歳児に言われて口籠る
時間の感覚が一致してるか
定かじゃなくて

四ヶ月に一度の定期検診
お変わりありませんでしたか
妻が亡くなりました

水泳バッグを蹴り蹴り歩いた
あの時のうなじの熱を
今なら孤独と呼ぶだろう

細胞が入れ替わって
君が絆創膏を貼ってくれた
靴ずれの痕が消えてしまった

携帯電話が無かった頃の
待ち合わせみたいに
今年はまだ
夏に上手く会えてない

外は光と蝉の声に満ちていて
私は寒くて乾いた部屋にいる
幸福な幽霊みたいに

最近、
映写技師が私に怖い夢を見せる

父も母も戦争で死なずに出会い
姉と私に美しい絵本を
たくさんあたえてくれた

優子ちゃんは自転車を
じでんしゃと言う
それが優子ちゃんだった

この窓ははめ殺しなのだと
意識した瞬間から
閉じ込められた気分になる

黄昏る前の
真っ赤な夕日をからめて
つやつやの
りんご飴を作る

返ってこないままの下巻

灼熱の風に飲み込まれて
砂人間になったかも

柿ピーのピーだけ食べる

夜
部屋の隅に現れた小さな蜘蛛

何のおかまいもできませんけど
ごゆっくり

マクドナルドで
ハワイ風のハンバーガーを買った
終戦から
七十五年の今日

狸寝入りして
タオルケットを
おなかにかけてもらう

背伸びしながら
クリームソーダを飲んだ
父と
窓から木造駅舎の見える
喫茶店で

カナリア色が似合う
その人は
窓を開けたら
飛んでいってしまいそうでした

にんげんは
ダラダラ歩きができるけど
とりも
ダラダラ飛びとかするのかな

叩けば映るテレビを知る
世代としては
最近の機械は
取りつく島もないと思う

ピンク色の頬に金色の産毛
本当はナタリーだけど
心の中で桃ちゃんって呼ぶ

ブタの蚊取り機が
壁を向いて
思い詰めたように
立っていた

唇と唇をくっつけてる途中
君の目をのぞいたら
白い牛蒡の断面図が見えたよ

曲げない人

「なんか、返事の仕方
むかつくんだけど」
「へぃ」

いいね、から
進まぬ
恋の物語

勘違い　早とちり
悪気はないって
わかるけど
でもね、ってことは
あるんだな。

きっと自分だけを見つめている
花火

黄金は人を愛さない

夜アスファルトの上に
しゃがみこんでいた
幼い自分の
肩を抱いてあげたい

新芽には水が含まれている
起き抜けの頭には
夢が含まれている

干し椎茸
水に浸しておくと美味しい
私も一晩寝かせると
機嫌が良い

月間佳作数三位が
嬉し過ぎて
髪を切ることにした

きょうという
解かれていない
問いのため
壊れた帽子屋
うごきはじめる

制服の
ボタンがひとつ
出てきたの
あなたはあなたで
いて欲しい　いまでも

ばらばらに
壊れてゆくよ
まっしろい
お伽噺が復讐に
来る

後ろ手に
隠した
紙のひこうきで
あの子はどこへ
飛びたいのだろ

カーテンを開けた時
誰かの朝になりたくなった

扉に未来を飾りつけたら
この不自由もそこそこ愛おしい

湯上がりの風だけを着る
ワンルーム

人間という
いずれ死ぬ病

雲一つあること
空なら晴れ
心なら曇り

暇がカレンダーを埋めているので
あなたには会えません

画面越しのレースで
父に兄に勝たないよう
手を抜いていた末っ子

八月の
冷え過ぎた部屋で飲むホット
冬のほうがあったかいね

栞を挟んだまま眠っている
本のような日々

後ろ向きねと言われましても
僕の目はどうしたって前に
ついているわけでして

三角折りと
便器に残る糞尿の謎

百日紅
夏を数えて
百日目

空の青さに飛び込んで
溺れて消えてしまいたい

「さよなら」
別れを告げる君の笑顔が
今までで一番きれいだった

ぼくらの恋
ドラッグストアで
大量買いしたので
また火をつけてみようか

地球という
球体の監獄に収監された
無期懲役
自由の受刑者

焼きプリンの底に
夏を追い払う
月が潜む

へその緒を切ったら
痛いのはだれだ

もういいよ
何千回と言ったのに
誰も見つけて　くれなかったね

手を上げた方も痛いと
泣きながら主張するやつ
返り討ちにす

その猫は
生まれて初めて
蟋蟀を見る
止まったままの
ソーシャルディスタンス

昭和三年広島生
原爆の話
「もう思い出せない」
と思い出さないように話す

鍵穴に見間違えたら始めます

瓶詰めにしたので送ります港

シャーペンの
シャーは昨日も聞きました。

扇風機だけが音である
世界に
たったひとつの祈りはあった

噛みころすときに
かすかに味のするあくび
遅れてひびく雷

長時間露光で撮った雷の
ひとつひとつがくしゃみ
のようだ

絵日記の
終わりのような日の午後だ
二人で閉じた朝顔数え

薄明の空は葡萄の皮の色
わたしはたぶん世界にいらない

透明な海月になって
青空を
漂って
雨、
ふらせてみたい

好きな歌を
君に教えてしまうとき
窓を開いて聞く風の音

やわらかな爪かじりつつ
テーブルの端に座っている
雨の午後

植物の名前覚えてる
ひとになる
世界を燃やしても許されるから

静脈を切れば白夜となる世界

月の夜の喧嘩の作法教えをり

一時停止線の白さ夏の果

神を信じずかき氷崩してる

病室と反対側の
ランドリー
違う顔した
夜景を見ている

心が折れる音を聞いた
なかなかでかい音だった

三つ並んだ学習机
三つ並んだランドセル
そこからバラバラに
巣立っていった

斜めに突き刺さった私が取れない

ぼくにキャッチコピーをつけてよ

死んでから
自重を知るかのようでいて
羽虫は部屋の四隅に積もる

大切なことは写真に教わった
火花は孵化する光の蚯蚓

九年前の歯みがき粉を使ったら
舌に黒い毛がはえてきます

原爆がただの遠くの雲だった
祖母は米のことだけを語る

西瓜もぎ
子どもの頸をすげ替える

午前四時
朝と夜とに挟まれて
こぼれ落ちる葡萄

このために今日があった
というほどの
夕焼けかもしれないからさよなら

あの朝も
こんな
晴れやかだったのか

三輪車に乗る少年
ひとり

枝を拾って名前を書く
刺すための形をしている

不織布の下で静かに深呼吸

口裂け女とバレはしないか

あの日の今日
誰かのかわりに 今、水を飲む。

友人と云うには遠い人の自死

音だけの花火をきいて迎え盆

「寂しい」の一言につき
缶ビール一本で
手を打とうじゃないか

茨道だとは思っていたけれど
あたし裸足だと思ってなかった

「カップ焼きそば」を
「煮そば」と言うやつを
地獄に落とす仕事をしている

校庭のサッカーゴール境目に
町は夜へと変色す

秒針の音整える春の雨

ぽちぽちと音なく歩く猫の春

解いた折り鶴を戻せなくなる

隣人は神輿でも担いでるのか

鉛筆の影定まらぬ木の芽晴

蝉しぐれ今日も明日も蝉しぐれ
おなじものなどなにもないのに

泣き終わったあとの
バスタブが広い

今宵の月が誘うので
行こうぜコインランドリー

ブラックインクの夜空
星屑をジャリジャリ踏んで歩く

熱帯夜
ふたりの間で交わされた言葉が
ふたりとも望んでいない方向へ
舟を押す

金色の花の蜜を吸う金色の小鳥
御伽の国にわたしを仮止めする
ブローチ

アスファルトに落ちていた鳥
ビニル紐みたいに朽ちた羽を
眼で弔う朝

久しぶり
と五歳児に言われて口籠る
時間の感覚が一致してるか
定かじゃなくて

水泳バッグを蹴り蹴り歩いた
あの時のうなじの熱を
今なら孤独と呼ぶだろう

ワニっぽい形。
他に思うこともなく
泣く子の隣で
自転車の鍵を弄ぶ指先

外は光と蝉の声に満ちていて
私は寒くて乾いた部屋にいる
幸福な幽霊みたいに

小説を読んでるうちに
日が暮れて
薄闇の部屋は
ニベア缶の青

マキロンとオロナインを
切らしている時みたいに
うっすらと
落ち着かない午後

遠雷に太鼓の音かと耳澄ます
もともと夏祭りは
どこか幻みたいだったから

最近シュークリームに似てきた父

鼠花火みたいに回転し
腹の底に僅かに残った
命の全部を鳴き切ると
蝉は死んだ

黄昏る前の
真っ赤な夕日をからめて
つやつやの
りんご飴を作る

途中まで
わたしも一緒に乗って
送ってくから
茄子の牛は大きめにした

修学旅行
母に待たされ開けぬまま
ちりめん山椒の瓶が
鞄の底でごつごつする

いーよ、いーよ、いーよ
うーん……
許可と思案を繰り返す
ツクツクホーシ

こめかみからこめかみへ
風鈴の音が通り抜け
瞼の裏に
ハッカ色を残してく

おへその奥に溜まった眠気
背骨が吸い上げて
今、首と頭の境目辺りまできてる

フェンスにもたれ
時々ぶわんぶわんと背中で押した
あの子が黙ったままだから

畳の上に
脚をにゅうにゅう投げ出して
台所のトウモロコシのこと
考えていた

八月が終わる
卵に黄身ふたつ

コンテナを開ければ蝶が
あふれ出す

天の川　中指でせき止めてみる

書くことは書かないことだ赤蜻蛉

蜉蝣が死ぬときに見た景色は僕

斜めに激しく降る雨
じっと見ていた
夫が昼寝している間

扇風機のあばらを
爪で引っ掻けば
きゅいんとなるなる
小宇宙の音

なけなしの
未来の話をしましょうか
まあるいオレオに
歯形をつけて

平泳ぎ
少女がゆびに
ちりばめている
残像だけの
ひかりの粒子

鳥かごも鍵も持たない
あのひとの胸
往来きする
青い鳥いて

そらは
からっぽ
ぼくらまだ
つかっていない
ノートもつこと

やりきれない
巻き貝の残響よ
通り過ぎてく
船ばかりです

なんでもない
なんでもないが
わざわいのもとです
すでに
ずぶ濡れの靴

どこへでも
飛んでおゆきと
放ちやる
鳥がふりむきかけている
夏

きょうという
解かれていない
問いのため
壊れた帽子屋
うごきはじめる

はたせない約束でいい
からっぽの
ポストの底に
うさぎ穴あること

ダメージに無垢の名をつけ
わたくしの
桃の表皮を
そっと剥くのだ

もぎたてのトマト
うっすら汗ばんで
熟してしまう
約束がある

ばらばらに
壊れてゆくよ
まっしろい
お伽噺が復讐に
来る

カーテンを開けた時
誰かの朝になりたくなった

扉に未来を飾りつけたら
この不自由もそこそこ愛おしい

ばちんと
初めて電球が切れて
この町での暮らしが
部屋を照らした

トンネルをストローにして
僕を吸い込む未来の切れ端

雲一つあること
空なら晴れ
心なら曇り

栞を挟んだまま眠っている
本のような日々

後ろ向きねと言われましても
僕の目はどうしたって前に
ついているわけでして

焼きプリンの底に
夏を追い払う
月が潜む

もういいよ
何千回と言ったのに
誰も見つけて　くれなかったね

居酒屋で
ぽんぽん話題
変わっていく
はやさのなんか
かっこいい夜

校庭のサッカーゴール境目に
町は夜へと変色す

駅弁を包む笑いや春の雲

ブラックインクの夜空
星屑をジャリジャリ踏んで歩く

コップの底に残った
薄いカルピスは
氷の匂いがして
ものがなしい味がした

遠くで雷
自転車をこぐ足が
何かの瞬間で
つりそうな恐怖

斜めに激しく降る雨
じっと見ていた
夫が昼寝している間

なけなしの
未来の話をしましょうか
まあるいオレオに
歯形をつけて

九十歳のおじいさん
「いやあ四十肩に
なっちゃって」
と半世紀さばよむ

昭和三年広島生
原爆の話
「もう思い出せない」
と思い出さないように話す

九十歳のおじいさん
「最近中年太りで・・・」
今度は　
声を出して笑ってみた

「太ったね」と言ったら
Day O風に
「ちげーよ。ちげーーよ」
と母

瓶詰めにしたので送ります港

平和でもロケット団を倒したい

蝉の叫び声、
剥がれ落ちる引用符

比喩でしか話せなくなり
胎生の鳥のよう　それからの
日々とは

絵日記の
終わりのような日の午後だ
二人で閉じた朝顔数え

美しいものが好き
製氷皿の
氷の
奥の
銀河の中の蚊

薄明の空は葡萄の皮の色
わたしはたぶん世界にいらない

透明な海月になって
青空を
漂って
雨、
ふらせてみたい

好きな歌を
君に教えてしまうとき
窓を開いて聞く風の音

公園のまわりを
散歩するときの
くすぐったさが
やたら明るい

二千円札
月光
カラスの雛
この広い住処に隠れている

最終バスも
明日のサンダル裏の空も
どこかへ逃げたがっている

植物の名前覚えてる
ひとになる
世界を燃やしても許されるから

豚肉白菜
牛乳たまご塩胡椒
ほおずきと単三乾電池

日本じゃない音がするエアコン

わたしのことば
あなたのこころ
だれかのからだ
どこかへいこう
ここもどこかさ

紙芝居でも蜜蜂でもない

ソーダ水こども百科を子に譲る

一時停止線の白さ夏の果

神を信じずかき氷崩してる

深夜でも蓄尿のカップは
消毒され
申し訳なくまた汚している

子供の頃
夏休みが嫌いだった

どうせ毎日プール行くし
ラジオ体操あるし

街明かり煌めき眺める十四階
空の飛び方知りたい深夜

五部袖が
心地よい夜が
やってきて
だんだん深くなっていく
夜

ああ眠い いやはや眠い
まだ眠い 
ツツジの花でも 吸いすぎたかな

斜めに突き刺さった私が取れない

死んでから
自重を知るかのようでいて
羽虫は部屋の四隅に積もる

大切なことは写真に教わった
火花は孵化する光の蚯蚓

原爆がただの遠くの雲だった
祖母は米のことだけを語る

省みることなく生きて死ぬひとの
おそらくずっと幸福な生

午前四時
朝と夜とに挟まれて
こぼれ落ちる葡萄

あの朝も
こんな
晴れやかだったのか

三輪車に乗る少年
ひとり

あの時も
こんな夜だったのだろう

明日がくることを
うたがいもしないで

コロナ不況
「子犬・子猫三割引！」

通知表
「あかるく元気」に、花丸を。

不織布の下で静かに深呼吸

口裂け女とバレはしないか

あの日の今日
誰かのかわりに 今、水を飲む。

友人と云うには遠い人の自死

深夜二時 
アロエの鉢を抱え、泣く

バスタブで人魚を飼って早二年、
銭湯代がかかるくらいです。

カルキ抜きだけ
ちゃんとして貰えれば。
私、淡水の人魚なので。

ドルガバの香水のかおり
知らぬまま口ずさんでみる
きっといい匂い

自販機の影で喧嘩するカップルを
見ないふりする渋谷夜九時

茨道だとは思っていたけれど
あたし裸足だと思ってなかった

夢の中でも早く走れない僕

薄い胸の中に宇宙を飼いならし

ピアスを置いていくだとか
しなくてもいいひとのこと
すきになれたら

校庭のサッカーゴール境目に
町は夜へと変色す

解いた折り鶴を戻せなくなる

金魚に指かませてにやける父

泣き終わったあとの
バスタブが広い

台風一過
なめらかな濁流をすべる
子供服とピーマン

ブラックインクの夜空
星屑をジャリジャリ踏んで歩く

金色の花の蜜を吸う金色の小鳥
御伽の国にわたしを仮止めする
ブローチ

居眠りしてる人の
手から切符が落ちかけてて
念力でなんとか知らせようとする

はしゃぐ理由にうってつけだった
桜吹雪も雷鳴も金木犀も
凍った水たまりも

ミンミンゼミと
湿ったプールの出欠カード

日航機墜落事故のあった夏
覚えてる

四ヶ月に一度の定期検診
お変わりありませんでしたか
妻が亡くなりました

水泳バッグを蹴り蹴り歩いた
あの時のうなじの熱を
今なら孤独と呼ぶだろう

外は光と蝉の声に満ちていて
私は寒くて乾いた部屋にいる
幸福な幽霊みたいに

コップの底に残った
薄いカルピスは
氷の匂いがして
ものがなしい味がした

父も母も戦争で死なずに出会い
姉と私に美しい絵本を
たくさんあたえてくれた

小説を読んでるうちに
日が暮れて
薄闇の部屋は
ニベア缶の青