ファミマから出て、
暮れている十字路の、
暮れる速さの七月だった

生まれてから一度も
眠ったことがないような涼しさ
窓辺に座る

なにもしない場所で鳴り続ける

柑橘の名を与えた犬が死んだ夏

wが草なのxが花野なの

産んじゃえば
わたしとは別の人間で
ぺちゃんこのお腹で
君をながめた

最後の晩餐は
梅干しのお粥と
言った向田の
最期は台湾料理だった

やっちゃいけないと
いわれることを
してみたくて
生卵ふたつで
ごはんを食べた

雨天決行の星空観望会
瞳の中を廻るひとと

令和期の魑魅魍魎は人でなく
ロマンチックを食べて生きてる

遠雷
妹が眉毛を剃りはじめる

人類史上初の私

病室で
薄紫の寝間着が
時折薄い灰色にも見えた
あれが
祖母の最後の夏だった

寝たきりの犬の足が動いてる
夢の中でならまだ彼女は
自由に走ることができる

ひとが靴を履くのを待つ沈黙
行間、
　　或いは
　鶉の卵に　あけた穴

はりついてなかなか脱げない水着
みたいな閉塞感を置き去りに
飄々と回る地球

まちがえたらしぬ
まちがえたけどいまのなし
独り
リコーダーを吹いて帰る道

ひぐらしの声に濡れ
夕闇を
りりり、と泳ぐ
深緑の夜まで

霧の湖へ小舟を出すように
老いて表情をなくした犬の心を
瞳の奥に探す

どう思い出しても
友ちゃんちへは
坂道から立ち漕ぎのまま
夏空を登って行った

雨の去った庭に
風が来て
虫たちが来て
この世の今、ここ、の輪郭が
光を帯びる

奥歯にデイジーの花が咲く
かいじゅうのお話を
机の下にもぐって読んだ
嵐の夜

ネズミ花火は
鉄棒の下で暴れまわって
かなしげに
夏の夜のねじを巻いた

名前をつけるみたいに詩を書いて

名前を忘れるみたいに詩を書いた

昼間
君が飲んでた珈琲の
氷の音が
クリオネみたいに部屋に彷徨う
熱帯夜

プールの授業のあと
濡れたまま編んだ髪は
淡々と
セーラーの襟を湿らせた

標高延べ５６３４０ｍ
三十六年間
遺族が登ってきた悼みの山

細い雨の降る川で
黙々と水切りをした

あんな風にはもう
上手に側にいられない

草いきれ
ざばざば蹴って
お寺の裏の近道走る
おばあちゃんが帰ってくるの

あるまじきって聞くと
トコトコ出てきちゃう
アルマジロを
巣穴に追い返す

呼吸から半拍ずらして眠りに誘う
母の手の温もりが
陽光みたいに背中にたまる

家まで待てず
公園の土管で
無重力みたいな体勢で
図書室で借りた本を読んだ

母のお腹の
姉と私を取り出した痕
縫い閉じられた
無限の空間

ガラクタに紛れ込ませて
押し入れの天袋に隠してある
捨てられないボタン

羽根の生える
痛みに耐えてうずくまる
みたいにひとり
風邪をひく夏

心臓から脳に定規をあててみる

落ちた星拾うみたいに生きている

打ち上がる前に花火を折り曲げる

充電器から嫌な秋が流れてくる

飲みさしのコーラに
氷を足しながら
記憶が徐々に薄くなる夏

私がうんと小さかった頃
川の匂いは
もっと
人懐っこい気がしていた

流れ星を見つけた。

金魚を埋めた場所を思い出す。

あの母が泣いて食べてた
オムライス

たましいがひとりで
体育座りして
生まれ変わりの講習受けてる

この肺の光源を確かめている

あの人の骨が
カタカタ鳴ったから
月までひとり
歩いて帰る

二丁目の交差点でもすること無し

深夜ラジオのボリュームをしぼる

生まれたての雨音が聴こえてくる

空っぽの湯船に座る　空っぽの
夜が私を遠巻きに見る

空ひとつひとつに打ち寄せる君の
孤独を手繰り寄せている朝

この世には叶わないことが
多すぎて
お花に水を
あげたりしている

生きるため遠くに籠を置いておく

ちゃんと戸締まりをしたか
気になっているような
優しさで
私は抱かれている

折り畳み傘を開く前の闇が
深海魚のように
雨の中に顔を出す

停電の夜には大き過ぎる月

理科室の人体模型の肺を
ひとつ　持ち帰る


(翌朝、きちんと返却しました)

空っぽのぽだけが知っている痛み

ここはまだ
あなたが知らない街だから
夕焼けもまだ
ただ美しい

ふるさとの
夜を束ねていくように
閉じたまぶたの裏の避難所

母国語を呪文のように呟いたあと
日本語で言う　ダイジョウブ

口内炎を舌で触る、暗がりで
線香花火が炎を抱えて落ちる

空き缶の転がる音で
この夏の終わりを測っている
帰り道

熱を出した私の
前髪を分けたのか
額を撫でたのか
わからない手つきは「母」

起きぬけに近視が光を散らすまま
針一本の謀りごとする

炎天下の入道雲が喉に詰まりそう

正方形の真ん中を必死に探す夢

一言で切られた

マスキングテープが
おろおろと支えてくれた

「この決済方法はね
　すごく音が綺麗なの」

店主のひと言で幸せになった一日

きみはもう
マナーモードでいてくれと
秋が吹雪いて
さよなら緑

転ばなければ
永遠に知らなかった

放送室の椅子裏の
歴代部員たちの落書き

地球がまわっている感じが
全然しない

晴天
舌を出すように
ベランダに並ぶ布団

死んだ人に逢える季節と
ふれこんで 夏は
ビニール傘を売ってる

通話口から明けていく夜もある

いつか骨になるんだけど
また海で
背泳ぎをして驚かれたい

水彩で描いたきみは
ほんもののきみより
嘘が好きそうだった

ふられた日
スイカの種を
窓辺に干した

米を研ぐとき
わたしは神につかえている

傘の柄はおなじ顔して
あちこちを向いた
ぼくらのクラスみたいだ

脚の長い蜘蛛だけが
約束通りに来てくれました。

向日葵ばかりが瞼の裏に
一生黄色を描けそうにない

喧嘩した朝に限って
靴下の片一方が見つからなくて

夜の絵を描ける人に恋をした
その日は夜のことを調べた

灰皿にたまる死骸は増えてゆき
まぶたの裏のあいしたひとたち

やさしさの海を泳いできみという
島はとおいとおいむかしだ

真夏の朝に向かって
ぼくのこの両足は
大地との新しい緊張に
溢れてゆく

美化された夏が
横っ面を殴りに来る

真夏の飛び石連休
裸足じゃ踏めない熱い石
陽炎の向こうに海はない

利き手ではない方の手で温かい
コーヒーを飲むような海鳴り

空の果てってこれなんだろう
一時間早く着いたあたしだけの丘

床置きのゴミ袋が傾いてきて
こっち見る見る
見ないでほしい

何にでも笑ってくれる先輩が
いろいろ滞納しているうわさ

ゆるい雨の日の突風
いっせいに傘が下向く
楽しさもある

天国の心あたりを聞くように
プールの底へ触れたゆびさき

ぞっくりと並ぶ剥製月の雨

黒猫が鈴
鳴らしてるとき
スプーンで、
心臓ひとさじ
掬われたんだ

木星をまわってる
わたしのゆびさき

浴槽で死んだ天使の
口の中は黒かった。

くちびる 
じゃ怖いからね 
はなびら 
を押し当てたの

目覚めると 
こゆびに霜が
降りていた

穴のあいた
みずたまりを
踏んでしまった
それだけ

じめったい
子宮の痛み振りほどき
東京タワーを抱きとめたい

プールから
ぎんらりする腿ひきぬいて
星をぬすんでリップにのせて

しにがみに白髪を撫でられていた
絹のような手の甲で、そっと

もうずっと
歪んだガードレール下に
ある花束を眺めている

柔らかな糸くずになれればいいな
真白い布で、できた天国

淋しさにも温かさがありそれは
ミルクパンから生まれる蒸気

コンビニの二十四時間営業の
ちいさい錆びを食べている鵺

月は飽きることなく曲線になる
アルルの部屋のベッドを真似て

いつかまた会えるのでしょう
水星が日没直後に見えるように

燃やせない
私の書いた本
土にも還らず
静かに
あなたを指差す

あの
路地裏で死んでいる犬のことを
知っているのはきっと俺だけだ

わたくしは
殺されました
朝の陽で
お前らだって正気ではない

自転車に桜花びらついていて僕に
はさびしいやわらかい　だった

クローバーに強い風吹くいっせい
に緑の子守唄が流れる

パチンと合わせた
手のひらの中
私の命と蚊の命が
混ざり合っていた

「おはよう」が
　冬の間は目に見える

出っ張った指の付け根の骨だとか
そういうものに恋をしていた

アイスの当たり棒みたいな
偶然ばかり
積み重なるからまだ生きている

満月
夜空が少しだけ欠ける

もしも地球が
シャボン玉なら
私
安心して目を閉じるのに

晴れた日の瀬戸内海はよく笑う

道端の石ころみたいな気軽さで
どこかの誰かを蹴飛ばしている

満月の夜はバケツに水を張る
ウサギの顔を近くで見たい

周波数の合わないラジオ
砂嵐の奥から
微かに聞こえる
誰かの声に
耳を澄ませる

若草の匂いに誘われ
鹿の群がやって来た
くるくると鳴いて
千年は変わらない

柑橘の名を与えた犬が死んだ夏

バスを待つ校庭で
ひとり雲梯で
寂しくないよと
ぶら下がっていた孤独

最後の晩餐は
梅干しのお粥と
言った向田の
最期は台湾料理だった

子の出産予定日は
八月二十二日で
向田さんの命日は嫌だなと
思った記憶

あの子が欲しい
あの子は分からん

はないちもんめで
最後の一人

ベランダの花火が一階まで落ちる

歌えば歌うほどに丸くなる夜

遠雷
妹が眉毛を剃りはじめる

路地行けば
また
路地に出る
首都盛夏

人類史上初の私

黄バイエル６２番の
キラキラシールは
遠くへお嫁に行く花嶋先生の
ごめんね

花も本も酒も靴も小鳥も
もう欲しいものは
何もないんだよと言う
お誕生日の父

近所で
フランス人形と揶揄されてた
レースづくめの老婆の
幸福感を思い出す
今

橋の下へ逃げ込んで泣いた
ホームレスのおじさんと犬がいた

ひぐらしの声に濡れ
夕闇を
りりり、と泳ぐ
深緑の夜まで

頭痛薬の効かない夜
傍の犬の寝息に呼吸を合わせる

どう思い出しても
友ちゃんちへは
坂道から立ち漕ぎのまま
夏空を登って行った

昼間
君が飲んでた珈琲の
氷の音が
クリオネみたいに部屋に彷徨う
熱帯夜

なぜか一度だけ一緒に帰った
水泳部の
ソーダ味のアイスみたいな女の子

真夜中のバニラアイスみたいな
甘い後ろめたさに満ちてた
薄暗い雨の日の部室

細い雨の降る川で
黙々と水切りをした

あんな風にはもう
上手に側にいられない

心細くて心細くて
とうもろこし畑の真ん中で
ヤギの紐を持って泣いた

どこかでバースデーソングを
覚えて来た二歳児が
エンドレスに誰かを祝う

論破？
前にソクラテスが
真の知って
そゆことじゃないと思うって
言ってたよ

文化祭はおひらき
学校のすみずみまで
果実みたいな
焦燥感が満ちていた

どんなにはしゃいでみても
夏はもう錆びはじめていた

葛の葉に覆い尽くされた
暗い地面には
狂気が埋まっている気がして
足がすくむ

私を探して鳴く老犬に
私の枕を貸して働きにゆく

家まで待てず
公園の土管で
無重力みたいな体勢で
図書室で借りた本を読んだ

ガラクタに紛れ込ませて
押し入れの天袋に隠してある
捨てられないボタン

羽根の生える
痛みに耐えてうずくまる
みたいにひとり
風邪をひく夏

制服を
かけて一口
わらびもち

モノに罪はないっていうけど
思い出があるよね
その思い出だけ捨てたいな

飲みさしのコーラに
氷を足しながら
記憶が徐々に薄くなる夏

燃える母　寝不足の春隣

私がうんと小さかった頃
川の匂いは
もっと
人懐っこい気がしていた

流れ星を見つけた。

金魚を埋めた場所を思い出す。

三日月の皮をバナナのように剥く

夢なのに
僕は泣いてた
僕なのに
なぜか知らない顔をしていた

故意に水色の
クレヨンばかり使って
問題ない子と
思われたかった

この肺の光源を確かめている

憂鬱はいつも、遅れてやって来る
たとえば、雨のあとの夕闇

この世には叶わないことが
多すぎて
お花に水を
あげたりしている

風の強い日に祖母に会いに行く

折り畳み傘を開く前の闇が
深海魚のように
雨の中に顔を出す

停電の夜には大き過ぎる月

こんなにも美しい月をみていると
隣の部屋に
まだ
父がいるような気がする

夢から覚めれば　悲しみは
波から明けてくる

耐えきれず湖で泣く
母さんが祖母を母さんと
叫んでいる

この小さな手のひらの海にも
沈んでいく船
たちまち、夜が来るけど
朝は来ない

防波堤に横たわる月のとなりに
腰をおろす
夏が役目を終える

季節の変わり目の頭痛

ピスタチオの殻を割る

銭湯の帰り道
父におんぶされる妹が
羨ましかった

哀しみは異国の夜のサーカスの
空中　ブランコみたいに揺れて

ここはまだ
あなたが知らない街だから
夕焼けもまだ
ただ美しい

ふるさとの
夜を束ねていくように
閉じたまぶたの裏の避難所

大切なものを手放したあと
こおろぎが鳴く暗い
暗い坂道をのぼる

カップ麺の蓋を押さえるために
台所をうろうろして
結局、
包丁を乗せる

口内炎を舌で触る、暗がりで
線香花火が炎を抱えて落ちる

学舎の赤レンガ前に立つ
ヒマラヤスギの葉は
たしかに緑青のようだ

熱を出した私の
前髪を分けたのか
額を撫でたのか
わからない手つきは「母」

起きぬけに近視が光を散らすまま
針一本の謀りごとする

ほんのり　と
漢方の匂いの残る
飴色の薬瓶に
５００円玉貯金

幻惑の解れてかぎ針編みレース

正方形の真ん中を必死に探す夢

灰色のクレヨンで
塗りつぶしたような空

重力が降ってくる空

関係ないと信じて
ズボンを穿き替える

急に
バンジージャンプをしに行こうと

決めた

夜の海岸で花火
補導された一年七組のわたしたち
懐かしい
若さと煙のにおい

命の危険を感じる日差し
今の子どもたちは
今の日差ししか知らない

地球がまわっている感じが
全然しない

ちやう
たべゆ
これ　しゅる
いまこの瞬間が
一生の宝物

晴天
舌を出すように
ベランダに並ぶ布団

どんぶりを洗えば南風が吹く

通話口から明けていく夜もある

掃除機の音がするほどの日常で
娘がひらく原爆の絵本

水彩で描いたきみは
ほんもののきみより
嘘が好きそうだった

焼きたてのパンを切ったら
ヒマワリの匂いなんて
知らないのにしてる気がする

米を研ぐとき
わたしは神につかえている

脚の長い蜘蛛だけが
約束通りに来てくれました。

老女のてのひらに
星月夜　と
書いてありました。

わたし万年筆に
金魚の昼寝って
なまえをつけたの。

無数になったわたくしたち
ヒトはしゅうまつに宇宙を知った

ひそやかに
押しつけがましい夏である
取り残された蝉が、一匹

田んぼを荒らした
小男と太っちょ男を
尊敬しろと言われました

八月の死者
九月は
魂の残滓

カスミソウの花束に
あこがれていたあの頃

水草の森を片付けられ
くるくると泳ぐグッピーの
銀色の腹が目立ちすぎる

常温の無糖炭酸水を
起き抜けに飲む
何か足りないのはいつものこと

理科室の
アオミドロに夏休みなし

利き手ではない方の手で温かい
コーヒーを飲むような海鳴り

恋っぽい気持ちがひかなくて
眠れない夜に瞬くヘリコプター

公園にロープ張られる日々の
今日は言いたいことがある
帰り道

天国の心あたりを聞くように
プールの底へ触れたゆびさき

ぶどう色とたまご色をかき混ぜた
きょうの月夜もバグがたべるよ

まなうらに
ひとよひとよたまってく
水のやさしさ氷のかなしさ

起き抜けのからだは柔く脆いから
ひかりのころもに包まれて

眠れない夜は魔法をかけてみる
ひたいのなかでいとぐるま引き

純白な天使のつばさが溶けこんで
空はたちまち微かに煙る

淋しさにも温かさがありそれは
ミルクパンから生まれる蒸気

コンビニの二十四時間営業の
ちいさい錆びを食べている鵺

いつかまた会えるのでしょう
水星が日没直後に見えるように

アルバイトは
行くまでがだるい

夜明けの雨音だけが
ぼくの心臓に呼応している

雨の日に線路に置いた
鈍色の石の記憶が追いかけてくる

蝉の翅ならば捥いでもよいらしい
夜明け間近の我が子の寝言

軒先を
這う蝸牛を照らす
朝焼けに　雨の匂いが
のたのたと
忍び寄ってくる

スーパーの裏側にある階段で
アイスを食べていた夏の午後

月光はブルーシートに阻まれて
建設中のビルの消灯

南国の海で溺れる夢を見た
布団をかぶって泣いた日の夜

カフェラテとカフェオレの差は
何なのか分からないまま
オーダーを取る

高校生最後のホームルーム後
あの子はさっさと帰って行った

信者ではないが
ひっそり口ずさむ讃美歌
四畳半のアパート

都会では街に夜空が降ってきて
夜通しキラキラきらきら光る

まだ麺類初心者マークの
みーちゃんは
一センチずつ素麺を飲む

桜の木を包囲み
こども達なんて
花弁を掴もうと
何回も、何回も
空に合掌してる

残暑に押されて
どんぐりころころ

まだ見たことのない海です
遠くに羊が三匹鳴いています

折る君の指には指紋がない

柑橘の名を与えた犬が死んだ夏

wが草なのxが花野なの

子の出産予定日は
八月二十二日で
向田さんの命日は嫌だなと
思った記憶

ふるーつぱふぇ
フルーツパフェ
あなたの一口、ちょうだい。

遠雷
妹が眉毛を剃りはじめる

死にたい時は蛍の真似をする

黄バイエル６２番の
キラキラシールは
遠くへお嫁に行く花嶋先生の
ごめんね

どう思い出しても
友ちゃんちへは
坂道から立ち漕ぎのまま
夏空を登って行った

夏の雨は
スイカのにおいがする

落ちた星拾うみたいに生きている

燃える母　寝不足の春隣

流れ星を見つけた。

金魚を埋めた場所を思い出す。

夕焼けのあとの群青色の空
コンビニエンスストアの明るさ

三日月の皮をバナナのように剥く

空っぽの湯船に座る　空っぽの
夜が私を遠巻きに見る

年の離れた弟が
課長になったらしい

またひとつ
夏がおわる

電信柱の下に咲く
この花が
昔、私だった気がして
電車を一本
遅らせて行く

停電の夜には大き過ぎる月

夏という名前のカブトムシがいた

空っぽのぽだけが知っている痛み

ふるさとの
夜を束ねていくように
閉じたまぶたの裏の避難所

口内炎を舌で触る、暗がりで
線香花火が炎を抱えて落ちる

空き缶が
予定時刻前にさらわれていた

ハンカチと夏の空気に混じる秋

通話口から明けていく夜もある

斜めから見たほうが美しくなる
あなたの顔 連立方程式

覚えられない英単語を
フライパンで炒めた夢

つみきのまちで
はじめての告白をする

傘の柄はおなじ顔して
あちこちを向いた
ぼくらのクラスみたいだ

老女のてのひらに
星月夜　と
書いてありました。

夜の絵を描ける人に恋をした
その日は夜のことを調べた

灰皿にたまる死骸は増えてゆき
まぶたの裏のあいしたひとたち