よすがのないことが
思いのほか涼しい
イヌワシ、空は
こんなに広かったのか

歳をとれば
諦めを学ぶよ、と
肩を叩かれる
木槿の花が萎む
さらに色濃くなって

どこまでが俳句どこまでが鶺鴒

野分来る俺は人間ハムスター

嫉妬深くやきもちやきで寂しがり
猫じゃないです、父のことです

海色のこんぺいとうを子にもらう

羊羹が肉片めいて漱石忌

骨肉を運ぶ終戦日の地下鉄

たこ焼のソースの残る皿や秋

真贋を
舌で見分ける
やまといも

ひえひえの
便器で猫の
小休止

善意でも悪意でもなく日が沈む

月をひとつ鞄に入れる
母が子を産み終えたあとの
美しい凪

デジタルの全盛期でも紙が好き

肩を　おせば
シーツへ沈んでゆく
きみ
の　肺に夜露のひかりは満ちて

なつしぐれ

望遠鏡をのぞきこむ
ように
あなたはむぼうびである

心臓が
うすべにいろ
に　なるような
恋をはじめたおとうとの顎

鳳仙花

うそがじょうずで、
みかづきの
吐息をひめているひとだった

ほんとうの
名前を
きみに言ったあと
れんげつつじの蜜になりたい

きんいろの花　が
喉から溢れ出し
きみへ　波濤をおくろうとする

しぬよりも
永いねむりをたゆたって
　ぼくたちはおうごんのふなむし

かめを見に行く
ため
　だけに散歩して
めいおうせいのきらめきが降る

夢で流れた血のことを父に言わ
なきゃいけなかった頃の手鏡

歯並びに光る海水／夏の暮れ／追
いかけないから追いつかないだけ

あなたにも僕にも観覧車があって
寂しく暮れてゆく遊園地

「じゃあね」って言う暇もなく帰
る夜の君を想っている桜桃忌

最初から想い出なんてなかったよ
「グリコ」でグーだけ出す跨線橋

「じゃあね」って言われたあとも
切れなくて電話に夏の潮騒がする

陽だまりにまあるく猫が寝転ん
で離島にひとつバス停がある

「暑いね」ってあなたが手持ち扇
風機をときおり僕にも向けてくれ
てる

「さよなら」はもう逢うつもりが
ない言葉　博多駅を出れば五月雨

約束が約束のまま消えた日の
シンクに泡が吸い込まれていく

「さびしい」って送れば電話をか
けてくれる人よ　アパートに聞く
遠花火

すだちをたっぷり絞って
気合を入れて
眩しいあなたを見送って

百人の二百の足の千の爪

クルトンの連帯感の食べごろに

ビートルズ芋煮分解
雪　父の影響で
好きになったもの

押入れの秘密基地
いまも健在
星空も流星群も

自分の名前を忘れても
小さな折り鶴を
美しく折る祖母

カレーライスに
醤油をかけてしまう
父の遺伝子

豆電球　薄い白檀　ぬいぐるみ
実家の夜の眠気はさみしい

貸ボートみな八月の湖のうえ

原っぱを走る端から八月さ

一日を船はあおぞら梳る

空に鳶鉄条網に毛布干す

真昼間の柱時計を巻く仕事

わざとらしく照らされる
ガソリンスタンド
ポプラの木

飼う予定のない
芝犬の名前を考えている　
こまちとあずきで迷ってる

国宝の日陰の広さ獺祭忌

病室の窓ひまわりが咲く光

胃は袋らしくたぷたぷ晩夏光

筆圧の光の太さ年賀状

身体より羽が重たい秋の蝉

チュロス買う駅西口の夕立晴

僕も君も誰もかたじけないバナナ

消しゴムで消せる程度の雪が降る

石段に影はりつくよな八月の
きみのとおい空　かえろう雲

晩夏光
別れた先妻（つま）の
娘（こ）の頸（うなじ）

天秤座なので香水瓶が青

しろいものばかり
洗濯かごに入れて
ひろくなる部屋

まん丸でのろまな牛になりそうな
茄子ばかりが売れてゆく午後

美しい青春だったことにして
連絡網だけ残すアルバム

台風の進路を背中に
子が日常に帰ってゆく

夜の闇にひとり溶けきれない

風評被害も実害でしかない

パラレルの私にかさご釣りの才能

兄嫁の自転車借りて走る故郷

何のミックスジュースか聞いて

フランスパンの端っこ
みたいにうずくまってる

産みかけた
桃
のうぶげの感触が
夢に出てきて、出てきて消えて

駐輪場が
全部埋まってた時のような夢を
何度か見た夏

みずたまりから遠い遠い街でした
君が暮らしていたその街は

ＡＩは
シートベルトの着用を求めた
助手席のスイカにも

おうどんにお揚げさん
乗せちゃうくらい
こちらの生活にも慣れました

あわあわの頭でデビル
ひとりでは髪も洗えなかったね私

コンビニのシュークリームの
まっしろなクリーム　
鬱がすこし深刻

夜が手を広げて待っている金魚

響き合う階下の食器朝の虹

フライパンにバターを載せて
星月夜

ハンバーガー
食べつつ思い出している
棺の中の先生の顔

羽ばたきを繰り返しては
折り鶴に折目正しく穴は開いてく

十、九、八、七、
少年が呟いて
わずかに終末めく上野駅

小鳥くる
ハンバーガーショップのあかり

桜の実都に水路の広がって

靴を脱ぐべきかわからず
ハンモック

選挙戦戦うように銭湯で
娘は全員に挨拶をする

幼子は水をこぼしてばかりいる
地球は水の惑星だから

泣きじゃくりごめんなさいと
泣く母は虐待の母子のように泣く

赤茶けた鉄の時計を抱いたまま
校舎は夏の夜に沈んだ

ぺこぺこと
ぺっとぼとるのへこみから
なにかが
あふれだしてるみたい

老犬がトワイライトに飽きて寝る

読みかけの新聞に
おしりの端っこと
ふかふかのしっぽを添える

水やりのコツはね、と姪
ピンクの朝顔より
青は少なめなの
涼しそうだからね

置き換えたシャワーヘッドが
たまらなく
愛おしくて寂しくもなる

信号を諦める距離がおんなじで
走らなくてもいいんだって思う

つよさよわさの芍薬の花びら

大きな窓より
小さな窓の方が
好きだ
向こう側が広い気がして

もう探してこれるよ
一人でおつかいできるよ
わさび漬け、買ってこれるよ

大学に落ちてもいちごじゃむは
おいしいし

天気予報はやってる

「もう会わない」刺したコトバは
二か月後現実と化し
もう会えない父

森林のカフェに白雨は窓を透け
時空がループするように降る

生活は春風の中うすくなる
この街の皿をやっと買った

「ピーラーで
梨を剥いても美味しいよ」
秋風みたいに涙を拭く

時として人間はみな狐憑き

残業のオフィスが
あまりに明るくて
いまエアコンに吹かれている

青竹が揺れて陽の差す秘密基地

誰もいない祖父母の家の窓をあけ
風と眺める日焼けた座椅子

ぶらんこを高く高くと漕いでいた
すみれのように美しいころ

夕方の涼しい風と歩いてる
少年野球の声のかたわら

庭先で揺れる鬼灯地獄へと
帰りそびれた人のうたた寝

彗星と製氷機には違いない

当分の平和の秋を召し上がれ

手のひらに乗れる大きさに
なりたい
牡丹はひとつずつ落ちていく

肉団子照っている
夏はまだある
眠れなくなってからはたのしい

お菓子だけ食べててはだめ
目を閉じているときに世界は
あるのかな

祈るとき住所もいのる
パンケーキ・シロップしみていく
わたしにも

生活がわたしをだめにしていくよ
固いつぼみの芍薬を抱く

身長が伸びなくなった
くらいから
冷やし中華のくらげがきらい

喉のなか水がゆっくり通過する
喪服だらけの店に来ていて

電気屋の冷蔵庫には
弟が入っていて
閉めたらいなくなる

青春の 象徴みたいに 遠くの子
砂浜の上で 風を食んでいる

近くでは 銃撃戦が 起きていて
怯えもせずに 西瓜を食べる

落ちてゆく日が照らすのは通り雨
世界は数多の光に満ちて

耳鳴りを響かせながら夜仕事

外は暑いらしいけど
パソコンが眩しい

空也上人を服用
即効性はない

行くなとは
言わない祖母の優しさが
喉に刺さって
取れなくて、盆

ひきわり納豆もからし豆腐も
売れきれる街に帰ります

露天風呂で二人きり
知らないおばさんと
トカゲを見ていた

戦争を賛美や扇動するものは
戦場には行かないものだ。

風が吹くと
立っているだけで偉いような
そんな気がする

いいじゃないか
陽の当たるホームに並んだって

そもそもさ
即レスしたの未読とか
世が世なら
まじぴえんなりけり

誕生日ケーキを食べた次の日の
誰とも喋らなかったあの日

歯磨きをしないで眠った次の日の
朝の歯磨き
結構頑張っているつもりだ

家の中では一人
街の中では独り

雨粒の影を探し続ける

死にたいクリームソーダ
生きたいフルーツポンチ
無意味な言葉を叫ばせてくれ

ばいばいの手から秋雨前線です

夏の夕筆の音からうつくしく

ワンピースのまま寝転ぶ夏の月

街中にガラス器の増え夏衣

暗譜の指先で触れる内臓

栓抜きの音だけがする夏季休暇

どこまでが俳句どこまでが鶺鴒

小学生になりたい亮二さんの柿

海色のこんぺいとうを子にもらう

羊羹が肉片めいて漱石忌

君の青図に線を書き足す時計草

肩を　おせば
シーツへ沈んでゆく
きみ
の　肺に夜露のひかりは満ちて

あいされる
　ために
産まれてきたような
にゅうどうぐも　を握りつぶして

なみが来る
までの
かすかなちんもくに
きみが落としたさくらの　擬音

「帰りたくない」って君に伝えれ
ば車窓を流れてゆく春の雨

恐竜が滅んだ理由を話し合う
伸びすぎたカップラーメン啜って

さざなみの
ざの
てんてんをおいかける

白亜紀もさいしょの九十分次第

貸ボートみな八月の湖のうえ

原っぱを走る端から八月さ

陰謀論にハマった母の　
ご飯の味だけ　あの頃のまま

珈琲にゆるんでしまううちがわを
君は素直に明け渡すのね

突き詰めれば
あなたはわたしを食べるべき
新宿駅を青くひからす

振り向くな惚れてまうやろ夏木立

Tシャツでうすら寒いぜさらば夏

燃えさしが胎児に見えた

たくさんのミッフィーの口十二月

チュロス買う駅西口の夕立晴

消しゴムで消せる程度の雪が降る

握る花粉
撒けばこの湖（うみ）虹懸る

天の川
きっと星だけではすまないぞ

出自消し晩夏の浜に舟を焼く

きみとぼくいま三つ目の流れ星

しろいものばかり
洗濯かごに入れて
ひろくなる部屋

砂鉄だったことを覚えていない
海辺にひっそりと建つ博物館

色が薄いから夢だって分かったよ
あなたの首を絞める真夏日

海水が体温となり明けの月

残念ですがそれは恋ですと
言う
小児科医の指毛を見てる

熱のある母さんの
まだ腹にいた頃と同じだ
新潟の夏

霞草笑ってほしいから笑う

抱きしめてなお流星のような人

フライパンにバターを載せて
星月夜

小鳥くる
ハンバーガーショップのあかり

お星さまは遠い
隣町くらい

試験中の青空はあおくてとおい

本閉じた瞬間に目を閉じたとき
玉ねぎを切るにおいがとどく

運ばれるシオカラトンボ吊り革に
つかまる足はちゃんと六本

大股のあいつがずっと句跨り

母が弾くピアノの音が一つずつ
産声あげて天に昇った

丁寧に炒め終われば小窓から
ページをめくるような夕風

GReeeeNの
eを数えているうちに
僕は天気の話もしたい

ぶらんこを高く高くと漕いでいた
すみれのように美しいころ

ガラス片　街灯のもと星になり

電気屋の冷蔵庫には
弟が入っていて
閉めたらいなくなる

雨に濡れないよう肩をくっつけて
正しく傘をたためなかった

〆切と湿度に溺れ虫の闇

耳鳴りの残響に似た虫時雨

星飛んでみんな等しく雲の上

グミの香りの3号車
下書き保存されない夏

幼子の瞳に濁る星の屑

檸檬を三個
青色の本の上へ置いてきました
そっと置いてきました

「桜桃」の
　出だしが好きと母が言う

今、私の最も大切なこの十五文字

あなたが嫌う花びらだし、
ふりかけだし、私だし

高校を卒業しても
ファミレスで五時間話す
人といたいよ

昼と夜が合唱する夕焼け

ついっ　るるゆら　ゆら
ぬらっ　ささら　するらささ

バタフライノットの継ぎ目
人の重さに耐えきれない

マイノリティは
清く正しく生きていれば
差別しないというわけですね

人間が死んでゆくとき
冷たくはなるのでしょうね
　やや乱暴に

経血が祝われること
　わたしではなく
経血が祝われていること

差別を受ける
日常という平穏がずっと
訪れない世界線

この身体で十年生きることなんて
全く想像できないんです

暗譜の指先で触れる内臓

無人の停留所に
ともり続ける街灯
一生出会うことのない人を想う

欲望に忠実になれる煮凝り

不機嫌を受け入れて日曜の朝
輪切りにしたいだけのアボカド

羊羹が肉片めいて漱石忌

骨肉を運ぶ終戦日の地下鉄

地球は
愁嘆場を演じているのか

わからない
休むってなにどうやるの
リラックスって簡単じゃない

心臓が
うすべにいろ
に　なるような
恋をはじめたおとうとの顎

ほのぐらい
水
の
からだをうねらせて
きみの子宮　で目覚めたくない

推しがいることの幸せ　紫陽花が
散らずに枯れてゆくベランダに

言葉にして君に伝える難しさ
にゆっくり開いてゆく水中花

「好きだ」ってわざと言わない日
もあって春の野原が広がるばかり

恐竜が滅んだ理由を話し合う
伸びすぎたカップラーメン啜って

さざなみの
ざの
てんてんをおいかける

きのこを食べる
たくさん筋があって
どれも本体
どれも本体ではない
今日の夕陽

まっぷたつだからかどうも
ねむれない

国がいっぱいある階段で

愛ほどにつよい呪縛のぬるま湯に

一日を船はあおぞら梳る

空に鳶鉄条網に毛布干す

犬に嗅がれてジーンズしっとりと

ヒトの皮膚　
されど鱗の　
インタリオ

気づかずにきみは
タイツを脱がしおり
大蛇の夢をみたびは見よ、と

世界すきだけど表しきれないな
スクリュー見えないけれど波引く

この村で歌を禁じた菱の花

睨むなら殺しておくれ破芭蕉

たくさんのミッフィーの口十二月

チュロス買う駅西口の夕立晴

目覚めれば布団に鋳型できており
メキメキ昨日のわれ壊し出る

とはいえきみがやるのなら
やればいいいまきりんに
あしをふまれても

Ｔシャツの
カレーの染みが
気になって
あの人の名が
思い出せません

諦めなど眼中になき青年は
首折り眠る麒麟のまつ毛

男、太陽光売りに来て
断れば鬼の如く柘榴

アンデルセン忌
錫の義足でボート漕ぐ

いきる
なんのがまんもしないで
みんな、
混み合う

微かに遺る
夏の星
今さら
君の声になるもの

鮮やかなカルトの村のなまたまご

はじめての挫折はあなたの親友に
性別のせいでなれなかったこと

宮崎の友達と観た東京の地名
ぎょうさん出てくる映画

兄嫁の自転車借りて走る故郷

ふわふわのペニスにつめた
わたが飛ぶ
（あ、おれも飛ぶ）

台風が来る

ＡＩは
シートベルトの着用を求めた
助手席のスイカにも

ギヤマンの擬卵が展示されている
向けられてみて重い性愛

不可逆な時間の流れ
草臥れたオルガンみたいな
鎖骨を愛でる

風は吹いたが桶屋が燃えている

同情のI'm sorry.
私にも使う権利が
あるのでしょうか

イヤイヤ期全裸で眠る娘の足に
タオル巻きつけ人魚に変える

遠雷は遠く鳴く龍大声で
水神は呼ぶ雨の子どもを

浴衣纏う
アルビノの蛇みたいな手で
りんご飴誘う
二役のイヴ

妹がきずついたとき僕もまた
シャーペンの芯折れてたりする

鱗雲体細胞がもくもくと
馬券を破る毎に増えてく

電子回路の
回という字に
吸い込まれ
口の部分に
嵌まった頭

百合咲いて親等数が掴めない

大股のあいつがずっと句跨り

改心を胸にこれから核家族

見た夢の話に出かかる美人局

え？本当？
覚悟の脳内委員会
信ずるものは救われるのか

細腕に
揺れる立ち漕ぎ
入道雲

飲みこむ思考の体系
そこにたまたま
神がいただけ

晴れなのに 突然の雨
降ってやみ また降ってやむ
神様 泣いてる？

意味の創造は単なる妄想
つねに、すでに、もう
意味は、そこの、在っている

存在が哭いている
その、存在、が叫けぶ
言葉の牢獄から出してくれ

発熱をした人だけが知っている
体の中に四季があること

若さは武器というのなら
老いは楽器といってやろう

セブンティーンアイスを一人
道端で
もう戻れないあの頃を見た

時として人間はみな狐憑き

盆すぎて馬駆け抜ける
天高く中指伸びる夏の終わり

曲がり角から人間が出てくると
腕から出てくる
腹から出てくる

・・〈てんてん〉が
アリに変わって歩き出す
線を引いたらナシが咲きます

本を読み意味を調べて人を知る
心に巣食う化け物共と

目覚めても李徴と隣合う心