さら咲く黒髪の
花のみつが削る氷枕
2020年度奨学生
- 奨学生
- 村上 陽香
- 17歳
- 立命館慶祥高等学校
- 北海道北広島市
わたしの生きた証拠
引き出しに爪
せめてもの優しさは
「親愛なる、」
手になじまない万年筆で
今日を細かく切り刻む
ぼうっと生きて
あといくつ
うたおうか
- 奨学生
- 長谷川 瑶太
- 17歳
- 宮城県加美郡
雨降る町で
懐かしさの
花見
スイセンの涙が
一滴の活力
数列がクサビになって
白紙を彩る
世の一般項は
デタラメばかり
二つの飛行機雲が
交わって浮く
「譲り合い」の
バスの中
年越し免れた人
挙手 ノノノ
- 奨学生
- 宮口 紗久野
- 17歳
- 広島県立広島国泰寺高等学校
- 広島県広島市
私はこんなにあたたかでいるのに
赤いリボンに窒息しない
天使の眦を遊泳する
薬液を浴びただけの呼吸が
浅く 浅く 羽根を裂く
そのくせ詳らかに潤うので
灼き切って夜の淵の
心理的瑕疵になりましょう
節くれだった 燐寸の肢体が
揚々として いきづまっている
- 奨学生
- 青野 椰子
- 22歳
- 東京都小平市
- 奨学生
- 綾部 花奈
- 22歳
- 東京都西東京市
わたしたち陶器みたいに遺族です
犬ではない。
半透明じゃないからね
よろこんで棺に顔を刺繍する
あんみつを額に乗せて悲しそう
「先方が不死身になればいい話」
- 奨学生
- 郡司 和斗
- 21歳
- 茨城県東茨城郡
雨季そして
たのしい駅になりたいな
左利きのひと増えてきて秋の雨
鈴虫の羽のあたりに夜がくる
赤蜻蛉文字の小さな同人誌
死にたての小鳥の
ようなホッカイロ
- 奨学生
- 林 佑奈
- 21歳
- 北海道札幌市
眠らないままでここが海という
噂
電信柱果てて
ここから星の街
地球儀は丸すぎて嫌ソーダ水
動かない身体
どうやら冬桜
日々のほとり
まだ眠りから覚めないで
- 奨学生
- 阿部 圭吾
- 21歳
- 早稲田大学文化構想学部
- 千葉県市
- 奨学生
- 眞鍋 せいら
- 23歳
- 東京都品川区
椿の花を
伏せておくように病んでいる
雪の夜 人は鶴に還る
月の光しずかに
いつかは焼かれる躰に
菫見つけた
死ねないでいる
それでも、
花は黙っているから。
わたしたち聞こえない。
- 奨学生
- 金澤 春栞
- 17歳
- 茨城県結城市
- 奨学生
- 鈴木 浩介
- 21歳
- 群馬県太田市
上瞼限界可動領域の2/3に
光、
つつしみ
夕顔の花濡れている朝の露
君のデスマスク作ると決めた
学部長
あーーーー蚊柱につっこんで
遠近法は不滅の光
可視光線スペクトラムが漲って
夕映え、
三千世界見ている
レポートを出して駅まで歩く夜の
おそらくあれは二つめの月
- 奨学生
- 奥村 俊哉
- 20歳
- 宮城県仙台市
ニューロンに錆び付く秋思夜夜夜
月光は故郷への道タオル干す
散る花の裏も表も死にたてで
林檎は甘煮され透き通って従順
この町に
「時間」はなくてただ吹雪く
- 奨学生
- 辻 在穂
- 23歳
- 京都府京都市
火でも沸く電気でも沸く水 無傷
水でみたすための器でない体
塩舐めて海になる 体は眠ってる
パキラが
水を吸ってくれて
助かる
くるぶしまでしか
海を知らない
- 奨学生
- 田中 里奈
- 18歳
- 東京都文京区
たまには月が嘘ついて
間違った帰り道を
照らしてくれてもいいのにな
「おはよう」で
心が浮いて
私はリニアモーターカーになる
木の間から見える月
風と私が
運命を左右してる
素敵な夜遊び
もうこの気持ちは
沈没船に積もう
地球の正反対の
見ず知らずの海の
私の趣味
あだ名プレゼント
街ゆく人も小鳥も野良犬も
私の世界だけの名前
- 奨学生
- 村井 香音
- 21歳
- 京都府京都市
ねえわたし
不死身なのかもしれないよ
死んでみないとわからないから
この先の
道を曲がれば透明な
犬がいますので可愛がること
寄る辺ない小指の先をつかまえて
エアコンの調節頼んでみせて
安心はいつも枕の中にあって
だきしめたいからうつ伏せで寝る
こんなもの
早くどこかへ捨ててきて
海にも行けない夏のことなど
- 奨学生
- 亀山 真実
- 23歳
- 早稲田大学社会科学部
- 東京都新宿区
自転車に
ひづめはなくて撫でている
都市へまもなく花冷えの夜
弓を引くようにひらいた
長傘を濡らして
おとなしく歩きだす
予報図の上に天気は崩れゆく
遠いから
静かなクラクション
信号は黄色
の中を駆け抜ける
バイクは馬の
兪ではないのだ
星消えて星の生まれる
様見えず
聖書の長すぎるエピローグ