喧嘩して 無心で猫の腹を吸う
石鹸を泡立てながら激情の 水位は下がることを知らない
渡された受話器は ひどく冷えていて わるい知らせは蓬のにおい
胸骨のおくに止まない雨がある やさしい義父をさん付けで呼ぶ
声変わりした君が呼ぶ わたしの名 かすかにひかり出す わたしの名
見送りに振る手を下ろし 客人の背中は闇に つぷんと沈む
終電に眠るふたりを主役とし まるい大きな月が出ている
みずからの過去に楔を打つように 一人称をわたしに変える
人類の恋のおわりに 「価値観の相違」は枕詞のように
ティディベアを抱え直して いもうとは雨降る 冬の街を見つめる
購買で、生物室で、 おもいでになってくれない 君と出くわす
やあ、冬の気配がするね 裏切りも 赦してしまいそうな夜だね
花びらを手渡しながら 十代のおわりは 切った檸檬の匂い
この角を曲がれば 明日がやって来る カーブミラーにひかる夕凪
親権のはなしを終えた 叔母さんが畳にずっと つけている頬
祖母がいない庭で 金木犀は咲く 夜の濃度を吸い上げながら
踏み込んでほしくて ひらく日もあったからだを ずっと抱きしめている
葉脈のような従兄弟の手を握る わたしも母になれるだろうか
恋バナに飢えてる母の 猛攻を避けつつ 髪を乾かしている
図書室の窓辺で 浴びているひかり 模試の結果を握り潰して
くらがりの湯船に月を落とし込む ぼくを忘れてくれますように
感情をペンキのようにぶち撒ける 一拍おいて後悔が来る
学校にいっぱい 好きな人がいる いとこの八重歯 まぶしいやえば
すぐ蹴るし殴るしぼくの妹は ひとりぼっちの怪獣みたい
マフラーの位置を 何度も微調整しつつ あなたの連絡を待つ
教室の たった一個の空席が こんなにぼくを弱くしている
踏んづけて 転けてばかりの一日を 毛布はそっと抱きしめてくる
技巧とか見栄がいらない 友人と並んで食べる やわっこいグミ
購買のキャラメルパイを奪い合う 今日がいつかになる日を思う
うまそうなチキンを 母が買ってきて 四畳半がちょっときらめく
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