透き通る眼差しだった 子どもらが雪を踏むとき 死ねと言うとき
飛ばされた麦わら帽子は 追わないと決めて立ち漕ぎして のぼる坂
今ここにいるわたくしが わたくしであることを知らしめる 夕焼け
ぽつねんと咲くコスモスの腰つき
後輩が先に課長になる日に観た 吹き替えの声がしっくりこない
祖母に桃渡して 些細な言葉交わし 手ぶらで帰る 冬の坂道
冬日向ことばをねじる転車台
透き通る湖面に小石を投げ入れて 闇の深さをはかっていた君
書くことが幸せと思えた頃は 書かない時も幸せだった
廃校を知らない校庭の椿は 今年の冬も控えめに咲く
湯気白く身体をまとう冬の夜
目の前の微かな手触りにさえも 僕らは言葉を紡げないでいる
中庭に舞うつむじ風 いま、きみが僕に見せたしぐさの 破壊力
温もりが残る夜空にたましいが こぼれるように見えた漁り火
逆光を浴びて佇む祖母の手に 歪んで見えた真白い帽子
噛んでいるチューインガムの味が なくなるまで君と話をしたい
どうせまた あなたを好きになるでしょう 紫陽花通り抜けた 雨上がり
幸せが不足している三面鏡
欠如から生まれる愛があるように その瞬間にだけ降り積もる雪
もう少し飲ませてください さざなみの寄る記憶に 馬を走らせる
死にかけのぼくと 生まれたての君は あたかも同じ夢をみている
嘘っぽいわたしは夜に浮遊する 光の帯のような被写体
ここだけは絶対開けたらだめ だけど もし開けるなら雨の日にして
俯いてホームの端に立つ僕に 電車がはこぶ風のはなびら
定年の日に降る雨をしのぐのは コンビニで買ったワンタッチ傘
あの頃はただ かっこいいと思っていた みんなで描いた壁のゲルニカ
ハナちゃんが投げた花瓶の 割れた破片が 美しすぎて静まる病室
足繁く通ったカフェの 午後三時 ひとり遊びの指のスクラム
キッチンに立つ妻の背が震えてる 卵白をとく手の振動で
ブランコのコが公園を出て行った
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