目隠しをずらせば 夜が降り積もる メデューサの免罪符を使う
封筒の宛名の下書きの誤字を 微熱が浮かす 「生き直したい」
清らかな餌ばかり食べさせられて 桜の頃は抜け毛に悩む
読点を打とうとすれば引き攣れる 真冬の肺は素直過ぎるの
夕焼けのコード進行のみ記し 手術台へと自転車を漕ぐ
恋人に借りた歌集のあとがきに 透かすストッキングの伝線
〈沈黙〉が私に見入る 手付かずの雨が トイレの鏡を濡らす
旅立った綿毛の柔い鼻歌が 裏庭の蜘蛛の巣で途切れた
木の枝に垂れる萎びたレジ袋 なんて見栄えの悪い骨壺
薄れゆくゼブラゾーンに 突き刺さる 踵の音は孤独の重み
この鳥は記憶がないの 地下道で翼を洗う想像の雪
階段の軋みは冬の喋り方 明け方に散る最後のひと葉
花びらを製氷皿に敷き詰めて 生まれる前のドレスを作る
水曜の午後の白河夜船にて わたしは通り雨の容れ物
透明を潜った白い花びらが さみしさの正体でした 着ぐるみを脱ぐ
難聴のワイパーからの平手打ち 喋り足りない雨の転倒
しんしんと光を削る溜息が 君に積もった夏の病室
五線譜を煮詰めるあいだ秋風は 銀杏並木に跨っている
秋の背を次の青までねじ伏せた 風の痛みで風船を割る
この距離で撃ち抜かれれば 心臓は止まる 指鉄砲で怯える
臍の緒は枯れ葉に紛れかさかさと 言葉の絶えた秋を泳いだ
夕暮れの森で麻酔をかけられて 羽を縫われた義足の子犬
這い上がる炎を模した紅葉に 前世を告げる螺旋階段
さよならの手解きとして ペンを取る 雪の積もった分娩台で
鳥葬の夢ばかり見た自習室 今も背骨に風が絡まる
ぶつかって、すり抜けられる さみしさを重ねて 風の〈透明〉は濃い
月光を遡れずに透明な くびれを持て余す砂時計
長靴を抜き差しされてぬかるみは 二足歩行の生き物を知る
ペガサスが滅びた街の図書館で 雪降る夜に握るたてがみ
剥き出しの白いばかりの太腿に 落ちる鍾乳洞の水滴
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