夏帽子風に攫われ船となり
先輩に五千円札借りたから 千円五枚五倍で返す
夕闇に尨犬に似た猪が 川縁の土手東へ走る
受動喫煙防止にご協力を 間怠っこしい吸うなって書け
芝犬が血の色をした舌を垂れ 風に遊ばす日照りの夕べ
闇雲に振り回す手に触れたそれ が何であれどゆく地獄でも
黒猫を見つけ機嫌を直す子を 避けて黒猫不機嫌になる
人生に悔いないようにマスターが 休憩中に描く細密画
湖のたっぷりとした水少し 傾いている地球に沿って
誇大広告でなくアンパンマンの 絆創膏は無傷にも効く
ぼくらは風が強い日に集まって 黙ってそれを見つめ続けた
ぼくという水を濁らせないように ひたすら書いて浄化する朝
おやすみと告げて始まる夢がある 心に大きな木を育てる
リーマンの僕昼休みに抜け出して 60分の短歌の時間
政治家になりたくてまず秘書に なりそれから鞄屋になりました
バスタブの底を這う女の髪が ゆったり泳ぐ神龍のごと
墨を摩る水に滲み出ていく墨の ように世界を書き換えていく
好きですと言われてぼくも好き かもと自他の区別が曖昧だから
雨の日に言葉の森に寛げば 時は解けて音を失う
押し付ける母を嫌って家を出て 駅前にある手芸教室
1時間休みを使い来た花屋 流れる日々に読点を打つ
血液を抜く身体から少しずつ 夜が減ってくような気がする
朝の道薙刀担ぎ君がゆく ショートの君が威風堂々
たんぽぽの綿毛を掬ふ春の朝 雑巾掛けはピクニックめく
味噌汁を作る行為がぼくにとり 始まりのゼロに戻る儀式
尺八の音神様がくれたから 毎日吹いてお返しします
もし離婚したら大好きなことだけ やろうその気で今日から生きる
先生が世界の全ては詩なんだと 教えてくれたから目を開く
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