一輪でサーカス小屋を震わせた 「パパ、獰猛な薔薇を飼いたい」
ベランダで母が煙草をもみ消して 蛍の焼ける音が聴こえた
青白く眠る珊瑚を抱き寄せる 保健室のシーツの波間で
永遠の蕾のままで空をゆく 気球は燃える花芯を包む
筆圧は花びらの跡 会えたね、と 風を言祝ぐ銀のハモニカ
風の寝姿が砂丘と知った日の 六時間目の鉄琴の音
左目の視力が落ちて灯台で 水も飲まずに囓るバケット
クリスマス 独りぼっちで クリオネの捕食動画を 繰り返し観る
紫陽花を燃やす雨夜の信号機 君の寝間着の色も奪って
とうめいなピエロに口を塞がれて ひとりとむらう「あのね」の音色
雨乞いは雨が降るまで止まなくて 無駄打ちされるホチキスの芯
臨月の微睡みのなか 缶切りの擦れる音は 星のなきごえ
月光が温い つるつる服を脱ぎ 花瓶を棄てた花に成り果てる
両の手を器に桜、受け取って あの世の底を日だまりにする
ひゃくねんを川べりで産み 目のふちを小指で掻いて 菜の花を摘む
カルピスに 海が透けたら起き上がる 洗濯が山盛りの日曜
貝殻の模様の模写を繰り返す 夏、病室のカーテンを裂く
生臭い手で目覚ましを切る君の 粘着テープだらけの身体
ずぶ濡れのキリンの夢を見た後は 目薬を弟に預ける
白詰草の冠が置き去りの スワンボートは春の棺だ
〈かみさま〉のいない季節は 留守番の夜に浸かった 湯船のようね
揃わない母音を春へ撃ち落とし 夜空を分かつ電線を見る
銀色の色鉛筆で羽を描き 風の卵を温めている
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